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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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ユキノ・セラス


検査の方は、受付嬢の言った通りそれほど数はなかった。

検査の数は4つ。変な機械の側で寝かされたり謎の機械に囲まれた中央に立たされる等したものの、各検査は想像したよりも遥かにあっさりと終了し、30分程度で終了した。


ちなみに検査に使われた機械はどれもこれも日本側では見たことがないものばっかりだったので、何の検査が行われていたかはさっぱりわからなかった。


とにかく検査は終了したが、分析等でもう少し待っていて欲しいと言われたので俺は今ミズホと一緒に休憩室のようなところでコーヒー(備え付けられていたカップ自販機で買った)を飲みながら待機していた。データの分析がそんな短時間で出来るのかという疑問はあるが、30分~1時間くらいでいいと言った以上できるんだろう。


しかしこの部屋、職員たちも利用することがあるらしく時たまそれらしい恰好の人間が入ってくるのだが、そのたびに視線を集めているので正直ちょっと──鬱陶しい。視線を集めている理由が主に俺じゃないのでまだマシだが。


視線を集めているのはミズホの方だった。まぁ彼女はモデルなんて仕事をこなしていることからも分かる通り、人の目を引くレベルの美女なのは間違いない。俺は付き合いが長いので慣れてきてしまっているが、こういう姿や雑誌に掲載されている姿を見るとそういう存在だって事を思い出す。


その当人はそういった視線を全く気にも留めずに、さっきから俺の事をじっと見ているが。


少し前までは続いていた会話も途絶え、それ以降彼女は頬杖をついてずっとこちらから視線を離さない。なんだよ、と聞いても別に? と返してくるだけだ。


正直すっげぇ落ち着かない。早く呼びにこないかな……


そう思って入り口の方を見ると、丁度先程の受付嬢が入ってくるのが見えた。もしかしてと思いそちらを見ると、向こうもこちらの姿を認め歩み寄ってくる。


「お待たせしました。セラス局長がお待ちですのでついてきていただけますか?」


来た!


「わかりました!」


残っていたコーヒーを一気に飲み干して、俺は椅子から飛び降りる。


「ご家族の方も一緒にどうぞ」

「……あ、私もですか?」


問い返すミズホの言葉に彼女が頷く。

家族じゃないんだが……と思うが、別にわざわざ訂正するほどのことでもないと思ったのだろう、ミズホが特に訂正しなかったので口は出さない。というか髪の色から何から明らかに血縁者じゃないと思うんだが、なんだと思ったんだこの人?


検査結果に関してはどうせどっちにしろ後で聞かれるだろうから、同席してもらうのは問題ない。手間が省けていいくらいだ。


ところで、セラスってなんか聞き覚えがある名前なんだけどどこで聞いたんだっけ?


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お久しぶりですね、村雨さん」


何で忘れていたのか。


受付嬢に連れてこられた一室、その中で椅子に腰を降ろして微笑みを浮かべていた澄み渡った空のようなこの世界でも珍しい不思議な髪色の美しい女性。


俺の事を待っていたその女性は、俺の知っている人物だった。


いや、俺だけではない。少なくともこの世界の住人であれば誰もが知る名前であり、俺にとっては恩人でもある存在。


ユキノ・セラス。それが彼女の名前だった。


賢人の家系、現人神の血脈、世界を守護する大魔術師、無限の追求者。彼女──いや、彼女の生まれた家であるセラス家にはさまざまな呼び名がついている、この世界の発展になくてはならない存在。


このアキツに存在する科学技術、その大部分は俺達の世界から輸入されたものであるが、この世界独自の技術というものも当然存在する。

それは例えば電子精霊(エレメント)であったり、日本との空間を結ぶ転移の技術であったり、記憶消去の技法であったり。


俺達地球人の目から見ても明らかにオーバーテクノロジーなそれらの技術、その大部分は彼女たちセラス家に生まれたこれまでの研究者達が生み出し提供してきた技術とされている。

彼女たちはその技術の根幹部分全てまでは公開はしないまでも(悪用された場合は危険すぎる物が多いため)、その技術の提供に多くの見返りは求めない。本来なら巨万の富を得られるであろうにも関わらずだ。むしろ表舞台にも殆ど出てこないため、普段日常の中で名前が語られる事はあまりない。そのせいで恩人なのに俺も名前を忘れていたのだ。


俺は異世界に来た直後に彼女に会っており(本来は記憶消去と地球への送還のためだ)、その時に俺のこの世界への滞在を認めてくれたのだが彼女だったのだ。なのでこの世界に今いるということに対する大恩人となる。


「お元気そうで何より……というわけにはいかないのが残念ですが。どうぞそちらの席におかけください。付き添いの方も」


柔和な笑みを浮かべたまま、鈴を転がすような声で勧められる言葉に従い、俺達二人は椅子へ腰を降ろす。


ちらりと見れば、ミズホの表情は少し強張っていた。彼女達アキツの住人から見れば天上人みたいな相手だろうからなぁ……俺からすると大恩人ではあるがそれ以外の認識としては薄いのでそれほどではなかった。よく名前を聞く教授に会うくらいの感覚だろうか? 俺大学行ってないからそういう感覚自体そもそもわからんけど。


「まずは、わざわざご足労頂きありがとうございます。突然のお呼びたてとなってしまい申し訳ありません」


俺達が席に着いたのを確認し、セラス局長は俺達に向けて頭を下げる。


「本来ならこちらからお伺いすべきだったのですが、検査用の器材が持ち出しが難しいものでしたので」

「いえ、今は時間の余裕もありましたし問題ないです」


彼女の言葉に俺は慌てて首を振る。

というかそもそもこういった場合、普通に検査対象の人間が出向くものであって、わざわざ検査する側が出向いてくるのってありえないのでは? こっち側にメリットが何もないならまだしも、検査自体はこちらにもメリットがある。


なにせ今の状況、とにかく常識外れすぎて何もわからないのだ。今すぐ元に戻る方法がわかれば最高だがさすがにそれは無理にしても、戻る時期が特定できるだけでも非常に助かる。今後の対応方針が決定しやすいし、表を歩いている時に強制脱衣するという変質者にならずに済む。


「それで、検査の結果から何かわかりましたか?」


待っていればこれから当然教えてくれる話なんだろうが、気が急いてしまい思わず俺の方から聞いてしまう。


と、その言葉に今までずっとセラス博士の顔に浮かんでいた柔和な笑みが消え、真剣なものになる。


「はい。病院から送っていただいたデータを分析した結果想定していた可能性ですが、今回直接検査させていただいたことでその可能性が確定しました」


可能性? 何の話だ?


「単刀直入に言います。貴方の体に起きたのは論理崩壊(ロジカルブレイク)ではなく物理崩壊(フィジカルブレイク)です」


論理(ロジカル)ではなく物理(フィジカル)? 彼女の言っている言葉の意味がわからない。だが、その言葉を言うときに彼女が俺に向けた痛ましげな表情が、俺の不安を掻き立てる。


そして、次は彼女は決定的な言葉を口にする。


「村雨さん。物理崩壊(フィジカルブレイク)は不可逆な事象です。──貴方の体が元に戻る事はもうありません」


空気が凍った。









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