モンスターハント
『全開駆動!』
重なった浦部さんとアルバさんの声が、戦闘開始の号令となった。
先程の浦部さんの指示に合わせ、それぞれが一斉に動きポジションを変えていく。
俺は、指示された自分の相手に集中する。ここにいる面子は全員俺よりはるかに上の実力者だ。余計な心配はしなくていい。銃声──恐らくパストロさんとフレイさん──が響くのを聞きながら、自らもライフルの引き金を引く。
的は大きく、この距離であればよほど特殊な動きをされない限りは外れないだろう。他の武装は使わない。最高効率の武装があるのだ、それ以外の装備を使うのは緊急時のみだ。
放った銃撃がコウモリの翼を持った怪物の体を抉る。
……想像以上に効いたな。
追撃の攻撃を放ちながら、俺の放った銃撃に撃ち抜かれた怪物の体を見る。
──そう、打ち抜いている。貫通したのだ。さすがにその一撃で止まりはしないが、想定以上のダメージである。
俺の所持する界滅武装は"世界の壁"を無視することによって相手に大ダメージを与えるが、あくまでバリア的な物を無効化するだけで、その生物が本来持っている防御力まで無視できるわけではない。
鏡獣や深淵に対して圧倒的な威力を持つのは、奴らがある種世界自体を構築するエネルギーの集合体のような存在だからだ。普通の生物相手であれば、他の武器と同様の威力しかでない。
なので俺は貫通まではいかないと思っていた。だが俺の放った一撃、そして追加で放った一撃も怪物がまるで紙か何かのように簡単に打ち抜いていく。
そしてもう一つ。打ち抜いた傷跡から体液のようなものが全く出てこない。
これは、もしかして……鏡獣に似たような存在なのか?
鏡獣そのものではないだろう、それならセラス局長はそう言っているハズだ。だがそれに近しい存在ではある気がする。局長も、意思の疎通が出来ない相手だっていってたしな。
──正直、助かる。
他の皆、少なくとも俺と年齢の近い男性陣3名は精霊機装で"生物"と戦った事はないだろう。通常、精霊機装が戦う相手は同じ精霊機装か鏡獣だけだ。それ以外の存在に対してその力を扱うことはまずない。
例外が今回と同じケース。漂流してきた世界に存在しており、かつ敵対してくる生物だけだ。それらとの戦闘が発生したのは22年前が最後。今の現役精霊使いの大部分が経験していない戦い。
それが今回発生することは覚悟をしてきたものの、やっぱり血がどばーっと出たりしたら普通に動けるかは正直わからない。過去に経験してないことだし、正直出血系にそんなに強いわけでもない。
だが、この相手なら鏡獣と変わらない。そもそも何発撃ち込んでも構わず突っ込んでくるような存在だ。
躊躇う理由はない。
俺のライフルの光、そしてフレイさんから放たれるいくつかの銃弾が異形の怪物を蜂の巣にしていく。
こちらの受け持ちの怪物に関しては問題ないだろう。このまま突っ込まれるようだったら素直にフレイさんに任せる。それまではとにかく攻撃を叩き込み続ける。
そうやって淡々とトリガーを引いていると、通信機から浦部さんとアルバさんの声が響いた。
『【千手千眼観音】』
『【ストームコンバット】』
全開駆動状態の二人が魔術を発動させる。
「うっわ……」
その後に目の前で繰り広げられた光景に、俺は思わず声を上げてしまった。
浦部さんの【千手千眼観音】。その術の発動により彼女の手元に産まれた数十の腕がまるで破裂でもしたかのように一気に四方へと延び、再びこちらへとその身を叩きつけようとしていた黒い鳥達を次々とその掌で包むように捕まえていく。
そして捕まった黒い鳥は、例外なく握りつぶされる。
そこに悲鳴も音もないが、見ているだけでもグチュっという音が聞こえてくるようだ。
十数はいたと思われる鳥たちは、そうやってそのほとんどが半透明の腕によって消滅させられていく。それでもほんの数匹はギリギリ避けたが、その避けた所に光が叩きつけられその身を貫かれた。
ヴォルクさんの銃撃である。まるで踊るようにして様々な方向の敵を的確に撃ち貫いていく。凄まじい技術だ。
二人の手によって、あれだけいた黒い鳥はあっさりと壊滅する。
もう一人のエネミーに関しては、もっとあっさりと終わっていた。
魔術が発動し、アルバさんの周囲に出現した紙吹雪のような白い嵐。その範囲内にそのまま突撃した蜘蛛擬きは、嵐に飲み込まれたところから喰われたかのように消滅していく。怪物の頭部は消え、胴体も飲み込まれ……足だけが残る。その残った足もパストロさんが処理していき──蜘蛛足の怪物はまるで最初から存在しなかったかのようにその体のほとんどが消失した。
『終わったさね』
浦部さんが最後の鳥の一匹を握りつぶすと同時。俺とフレイさんが攻撃を叩き込んでいたコウモリ翼の怪物もその全身を穴だらけにして地面に倒れ伏し、動きを止めた。
追撃で一発撃ち込んだが、ピクリとも動かない。そもそも最早無事な所がほぼ見当たらないくらいにボロボロだ、浦部さんの言葉通りに終わったとみていいだろう。
「お疲れ様です。走査を行いましたが、現れた存在は間違いなく活動を停止しています。周囲に同様の存在も確認されません。全開駆動を解除していただいて大丈夫です」
『了解さね』
『了解した』
戦闘中も俺の斜め後ろでなにやら端末をいじり続けていたセラス局長が改めて戦闘の終了を宣言し、アルバさんと浦部さんが精霊駆動へのモードの切り替えを行った。
「……はぁっ!」
その声が引き金となって、俺の口から大きな吐息が漏れる。知らず知らずのうちに緊張していたらしい。慣れない場所、慣れないメンバーの戦いだったからな。後銃撃するまでは血がドバーっと出るのを想像していたし、仕方ない。
『お嬢ちゃん、大丈夫かい? きつかったさね?』
その俺の吐息が耳に入ったのだろう。浦部さんがそう問いかけてきたが、俺はちょっとだけ言い返す事にした。
「お嬢ちゃんじゃないですよ、浦部さん。……この中で最年少ではありますけど」
そういや、周りが年上しかいないって経験が殆どないな。エルネストは全員年下だし……まぁ仕事の方ではまだ若手だから、打合せの参加者で俺が最年少ってのはよくあるけど。
「他のチームの人と一緒にってことがまずないので。特に一人でそういうのに参加するのは初めてなので緊張しただけです」
とはいえ、心配することは何もなかったなと思う。やはり今回のメンバーは俺を除けば全員が手練れだ。俺は自分の役目だけを意識して動いていれば、後は他のメンバーが何とかしてくれる。下手に余計な事をしようとする方が邪魔になりそうだしな。考えるのは局長がするだろうし。
『局長、緊張してるユージンちゃんの映像とってませんか』
なんか通信機から変な発言が聞こえたのでスルー。念のためセラス局長の方に笑顔で首を振っておいたら、セラス局長もいつもの柔らかな笑顔で頷いてくれた。よし。
『そもそも緊張しているユージンさんて、映像でいくらでも残ってません?』
パストロさん、その話広げなくていいから。事実だけどさ!
『ユージンちゃんの映像はいくらあってもいいんだよ』
俺としては映像は少ない方がいいなぁ……話を広げる気はないから口には出さないけど。
『最近のシーズン中は、あまりユージンさんはメディア露出はありませんしね』
フレイさんも参戦しないで!?
ああ、もう!
一番年下がいうのもどうかと思って浦部さんかアルバさんが言ってくれるのを待ってたんだけど、その気配がまるでないので仕方なく俺は口を出す事にした。
「今の戦闘で霊力を多少なりとも消費したんですし、先を急ぎましょう! 時間制限がありますし、余計な雑談で足を止めてる暇はないですよ!」
目上、年上の人間に対してどうかとも思ったけど、少し強めの口調で言う。
その言葉に、フレイさんは「すみません」、パストロさんは「そうですね」と素直に従ってくれて、ヴォルクさんは、
『ユージンちゃんに叱られるのもいい……』
ねぇちょっと。なんで誰もこの人に突っ込まないの?




