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週末の精霊使い  作者: DP
3.ようこそファンタジー世界
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二つの幸運


「ん? 別に構わないけど?」


以前、というかさっきも発動したお姉ちゃんモードの時は若干暴走気味になるものの、秋葉ちゃんは基本的にはあまり無茶な事は言わないタイプだ。だから俺も、ドライヤーを片付けている彼女の方に向き直りながらもそう答えて頷き、続けて


「俺に答えられる事なら何でも聞いて?」


と伝えた。


ミズホとかラムサスさん辺りに言ってしまうと不味そうなセリフだが、秋葉ちゃんなら大丈夫だろう。


「ありがとうございます」


俺の言葉に彼女は微笑んで、俺の前に腰を降ろす。俺がシャワーを浴びている間に着替えたようで、俺と同じようなスウェット姿だ。


その袖口を見ると、彼女の方は丈は丁度いいが(彼女の服なので当たり前だ)俺の方は明らかに余っている。


秋葉ちゃんはどちらかといえば小柄な方に入ると思うが、それでも俺より10cm以上身長高いからな。そりゃこうなる。当然下の方も余ってるから捲ってるけど、動き回ることはないから問題はないか。


「……どうしました?」

「うん、なんでもないよ。それで聞きたいことって」

「あ。はい、ちょっとプライベートな事なので答えたくないならいいんですけど」


プライベートな事? なんだろう。


とりあえず続きの言葉を持つと、彼女が口を開く。


「あの……村雨さんの生活ってどんな感じなのかなって」

「生活?」

「はい。私達って今異なる世界で二重生活しているじゃないですか。私は今まだ学生だから時間融通ききますけど、働いているとどうなのかなって」

「ああ、そういう事」

「私、高校2年に上がったじゃないですか。来年は受験か就職に動かなくちゃいけなくなりますし、そういう事考え始めちゃって。それで、村雨さんは働かれていますし、ちょっとお話を聞いてみたいなって」


成程ね。


秋葉ちゃんが向こうであまり他のチームの人間と交流していないなら、彼女と同じ境遇で身近にいるのは俺か金守さんだけになる。で、金守さんはそもそも年下なので、俺しかいないと。


そうなると相談相手になるの俺しかないないわぁ。


正直俺のこっちの生活って完全に無味乾燥な気がするが、彼女が求めてる事を考えれば嘘や脚色をしても仕方ないので、淡々ともう4年にもなる俺の普段の暮らしを彼女に説明する。


起伏のない、()()()()()()()()()()()つまらない人生送ってるなと他人に言われかねない俺の日常。その話を聞ききった(といっても数分程度だ。だって話す事そんなにないもん)秋葉ちゃんは大きくため息を吐きだした。


「はぁ……やっぱり大変なんですね」

「まぁいろいろ条件次第な所はあるけどね、人によってはもうちょっと余裕があると思うよ」


俺の場合まず一人暮らしなので家事は全部自分でしなければいけないという点があるし、スカウト組のように霊力が豊富ではない分日々の基礎トレーニングや戦闘時の動きのイメトレは必須。性別が変わった結果時間がかかるようになった部分もあるし、そこから風呂とか食事とか生活に必要な部分まで除くとそれ以外で使えるフリーな時間て1時間とかそこらになるんだよな。仕事で残業が発生した場合はそれも消えるけど。


でもこの生活は削ろうと思えばいろいろ削れるところはあるだろうし、やっぱり人次第だ。俺がかなり精霊機装に対して重点を置いているのでこうなっているだけである。ただ


「でも、交友関係に関してはやっぱり難しいんですね」

「そこはどうしてもね」


基本土日にこちらにそもそもいないことになるので、土日に知人と交遊したりはできない。一応試合日は土曜か日曜のどちらかだから(Bランク以上は確定で日曜日)チームの了承が取れれば日曜日だけ向こうに行くだけには出来るが、実際の所は元々少ない機体の調整や訓練が殆どなくなる事になってしまうため了承が出ることはないだろう(浦部さんクラスの圧倒的な実力者なら通るかもしれないが)。


そして平日に関しても学生なら部活動をやってさえいなければ放課後があるだろうが、会社勤めだとそこも辛い。同じ会社とか近場に勤めていればともかく、そうでなければそうそう会う事は難しくなる。俺なんか地元の仲間は離れて以降ほぼ会っていないし、専門時代の友人とかとも今や完全に疎遠だ。ただ結果として女に変わった事の影響が少なくて済んだので、世の中何が影響するかマジわからんな。


ちなみに現在は会社の女性同僚にやたらと構われるようになったせいで、以前よりは交流が増えていたりしている。業務後の食事とか、ランチとか付き合ったりしてるしね。その結果、女性陣の話題に大分ついていけるようになってきたあたり成長を感じるというか、将来的な不安を感じるというか……


「ただ、その点秋葉ちゃんは幸運な点が一つあるよね」


ここにはいない少女の顔を思い浮かべながらそう言うと、秋葉ちゃんは柔らかい笑みと共に首を振った。


「一つじゃないですよ。二つです」

「二つ?」

「私には千佳ちゃんと村雨さんがいますから」

「うっ」


全く勘定にはいれていなかった俺の事を言われて、思わず俺は言葉に詰まる。


「しかも村雨さんは頼れるおにーさんなのに可愛い女の子でもあるので、2倍お得です」

「その考え方はおかしくない?」

「おかしくないですよ?」


ニコニコと秋葉ちゃんを笑みを浮かべて、じっとこっちを見つめてくる。──ちょっと頬が熱くなって気がして、思わずちょっと視線を逸らしてしまう。


「どうしました?」

「なんでもないよ……」


一つ深呼吸。

それから逸らした視線を戻して


「そういうことなら、俺も2人分幸運って事になるね」


そう言ってから思ったが、俺にはもう一人こっちでアキツ絡みの友人、というか同僚がいたな。でも頭から即座に消す。だってアイツこっちだとほぼ引きこもりでたまにメシ食いに来るくらいだし……


「ふふっ、そう思っていただけるなら私も嬉しいです」


ニコニコ。


「……ねぇ、秋葉ちゃん」

「なんですか?」

「人たらしって言われたことない?」


俺の言葉に彼女は今度はあははと笑い、


「ないですよー、そんなの。あ、でも千佳ちゃんには言われたことありますけど」


……やっぱり。こんなセリフ面と向かって当人に言える子はその才能あるよ!

悪い気分じゃないけどさ。


「ふふ、考え始めてからいろいろ想像しちゃって不安になってたりしたんですけど、そう考えたら大分楽になりました。村雨さん、ありがとうございます。いろいろ参考にさせてもらって、自分でもまた考えていきます」

「あ、はい。少しでもお役に立てたのなら良かったです」

「……どうして敬語になったんですか?」

「なんとなく……」


それから他にもいくつか質問されたり、向こうの方の話とかをしていたら、気が付けば大分時間が立っていた。普通の家庭だとそろそろ夕飯になってもおかしくない時間だし、乾燥機にかけていた濡れた服も乾いていたので着替えてお暇することにした。


その去り際、秋葉ちゃんが思い出したように悪戯っぽい笑みを浮かべて


「そうそう、GWは宜しくお願いしますね」


そう言われた。


「何の話?」と聞いても「秘密です」と返されて首を傾げたが本当に何の話だろう? 今回のGWはシーズン中ってことでひっさびさのオフで向こうでミズホ達とちょっとした約束しているから、秋葉ちゃん達と会うタイミングは無いはずなんだが……まぁ聞き返しても教えてくれなかったし、秋葉ちゃんがあんな顔して秘密にするってことは別にそんな大事な話でもないだろうということで、その場では忘れる事にした。


ちなみに雨は完全に止んでいたが、すでに暗くなっていたため帰り道は秋葉ちゃんのお姉さん(春華さんというそうだ)が車で送ってくれた。

天気もよくなったし大丈夫だとは言ったんだけど、「こんな小さい子を暗い中返すわけにいかないでしょと」と言われて押し切られた。


俺24歳ってちゃんと伝えたのにな……、ま、初対面で人となりをしらなければ外見イメージが強くなっちゃうのはしょうがないか。










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