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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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彼女の願い


机の上に放置していたスマホを手に取るとナナオさんの名前が表示されていたので、俺はすぐに受信をタッチして電話に出る。


「もしもし」

『ユージン? 今事務所かしら』

「はい、今いつもの部屋にいます。どうしました?」

『ちょっと今代表電話の方に、あなた宛ての電話がかってきてね』


ああ、さっきの電話出たのナナオさんだったのか。ということはハンガーの方にいるんだな。しかし俺宛ての電話って誰だ、こっちの世界で俺宛てに事務所の電話に掛けてくるような人間は……


あ、病院か?

俺は平日になると連絡が取れなくなる事から、公的な機関相手では大体連絡先を事務所の方にさせてもらっている。今回の病院もそうしていた。だから病院からなら事務所に電話があってもおかしくない。


──と思ったのだが、電話からこぼれたのは違う名前だった。


『論理解析局から局の方まで来てほしいって話なんだけど……体調どうかしら?』

「論理解析局!?」


考えてもいなかった名称が出てきて思わず聞き返してしまう。

論理解析局……俺には難しい事はよくわからないが、要するに論理崩壊を始めとしたこの世界の事象に関して解析を行っている場所だと聞いている。先日俺らが出撃するきっかけとなった警報もここが出している予測情報を元に発令されているはずだ。

そんな所が何で……と思ったが、考えてみれば単純な話だ。先日病院の方で、俺に関するデータは中央統括区域(セントラル)のしかるべき機関に送るといっていたが、その相手が論理解析局だったのだろう。そして局の方で更に詳細な検査を行うということで連絡してきたというわけだ。だとしたら俺には断る理由がない。


「体調は問題ないです。こちらから出向けばいいんですよね、今日ですか?」

『検査機器の都合があるから来てほしいってことだったわ。可能であれば今日がいいとも』

「わかりました、大丈夫です」

『了解。それじゃ私の方から折り返し連絡入れとくわ……あ、足は車呼んでもらっていいわ、会社の方につけてもらっていいから。本当は私が送ってあげたいんだけど……』

「お気遣いありがとうございます、でも大丈夫ですよ」

『それじゃよろしくね』


そう言って、電話は切れた。


俺はスマホを机の上に置くと、話の内容が聞こえないように気を使ったのか先程より少し離れた位置に移動していたミズホに声を掛ける。


「ミズホ、せっかく来てくれたのに申し訳ないんだが、ちょいと出かけなくちゃいけなくなった」

「どこに? 車出すわよ」

「いや、中央統括区域(セントラル)までだから流石に悪い、電車で行くよ」


中央統括区域(セントラル)というのは、この世界に存在する6つの都市(そう呼ばれているが、実質的には小規模の国家に近い物だと思っている)から位置的に見て中央に位置する行政機関や研究機関が集まっている区域だ。6都市を統括する立法機関である議会の他、各都市に直接属さない、或いは各都市共同運営となっている各機関等が存在していて、論理解析局もその一つだ。


因みに同地区に今住んでいる人間は基本的に各都市からの出張組で、厳密な意味での住人はほぼいないと聞いている。


そんな中央統括区域(セントラル)だが、ここからだと片道確か3時間くらいかかるはずだ。往復だと6時間、検査時間を考えれば少なくとも7~8時間はかかるはずで、さすがにそれに付き合わせるのは申し訳なさが過ぎる。それにナナオさんが車を頼んでいいと言ったが、それはそれでやはり金がかかりすぎる。電車なら高速鉄道もあるし料金も車に比べれば全然抑えられるので無難だろう。


そう思って言った言葉に、だがミズホは呆れ顔で言葉を返してきた。


中央統括区域(セントラル)までだったら猶更私が車を出してきた方がいいでしょう。あなた電車で移動中に元に戻ったらどうするの? 大惨事よ?」

「うぐっ」


返答に詰まる。

そういやそうだった、電車で行くということはあの恰好で人前を歩き回らないといけないということだし、運が悪ければ突然びりびりに破けたロリータワンピースを着た男が電車内に出現という話になって事情聴取確定だ。というかほぼ確実に写真が出回って俺がこっちの世界で社会的に死ぬ。


うん、ここは厚意に甘えよう。ミズホの車なら最悪着替え持っていけば車内で着替えられるし。


「すまん、ミズホ。やっぱり送迎頼む」

「はいはいおまか……」


了承をしかけたミズホの言葉が止まった。そして何事かと見つめる俺に向けて、ミズホは口を上げていやらしい笑みを浮かべた。


「……なんだよ」


その笑みに嫌なものを感じながらもそう問いかけると彼女はちょいちょいと俺の事を手招きする。


「?」


疑問を感じながら椅子から降りて彼女の方に近寄ると、彼女は指さして俺を自分の正面に立たせる。そのせいで俺は彼女の顔を完全に見上げる形になった。元の姿だと俺の方が背が高いんだけどな……


「それでなんだよ?」

「ちょっと報酬が欲しくなっちゃってね」

「報酬て。メシでも奢れとか?」


それくらいだったら全然かまわないが。

だがミズホは首を振る。


「いや、もっと簡単な話よ。すぐ終わるし」

「で? 何をすればいいんだ?」

「お姉ちゃんお願いって言って」

「……はい?」

「お姉ちゃんお願いって言って」

「いや聞こえてるけども! そもそもお前の方が年下だろうが!」

「でも今はどう見てもアタシの方がお姉さんじゃない?」

「そりゃそうだが……」


突然何を言い出すんだと思ったが、そういえばと一昨日からの言動と合わせてだんだん気づいてきた。

コイツってもしかして子供好きなのか? 姪っ子とかをものすごく猫っかわいがりするタイプの。だとしたらまぁ、別にいいか一言くらい。

俺は仕方ないなぁ、とわざとらしくため息を吐きながら肩をすくめてみせる。


「しょうがないから言ってやるよ。でも元に戻った後にこれで揶揄ってきたら怒るからな」

「しないしない!」

「それじゃいくぞ」

「OK!」


俺は軽く咳払いをしてから、満面の笑みを浮かべる彼女を見上げて望む言葉を言ってやった。


「お姉ちゃんお願い」

「うんお姉ちゃんがんばる」


なんか頭の悪そうな返事が返ってきたけど、本当にコイツの運転する車にのって大丈夫か?

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


結論からいえば何も問題はなかった。

速度自体は結構出していたがあくまで法定速度ギリギリのラインでそれを超えてはいなかったし、むしろ安全運転の範囲で最大限急いでくれた感じがある。更にはルート選択も的確だったため(現代地球の技術を模しているこの世界だが、とある理由でGPSは存在しないため精度の高いナビが存在しない)、結果として俺達は予定よりも少し早く目的地へたどり着いていた。


中央統括区域(セントラル)。様々な施設の並び立つその区域の中では荒野に面した外れと呼べる位置に目的地、論理解析局はあった。


中央統括区域(セントラル)はその性質上でかい施設をよく見かけるが、その中でも論理解析局の建物は特に大きな建物だった。今いる正門前からだと、正直全容が見て取れない。遠くから見えたときはドーム球場くらいのサイズ感を感じる。


尤も今の俺に、そんな事を気にする余裕は全くなかったのだが。





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