はじめてのBらんく
昇格したB2リーグの初戦は、エルネストにとっての試金石となる試合だった。
初戦の相手はドゥラント。昨シーズンの成績はB1リーグ9位。即ち降格組だ。
前シーズンはC1所属だったエルネストと、B1だったドゥラント。俺達は2つ上のリーグの所属していたチームといきなり衝突するわけだ。
当然事前にいろいろ彼らの試合映像は確認している。
ドゥラントは昨季最終的に降格となったが、リーグ戦最後の方まで7位から9位までは混戦状態だったし、試合を見た感じ実力差も大きくなかった。ようするに彼らは少なくともB1下位の実力は充分にあるということだ。
であれば、今期B2リーグの中での実力はトップクラスなのは間違いないだろう。そのチームに少なくとも対等で戦えることが出来れば、俺達は充分B2でもやっていけるという証明になる。
尤も、さすがに周囲の下馬評はドゥラント有利が大部分らしい。そりゃそうか。
いくらウチがC1を圧倒的な強さで優勝したとはいえ、相手はその上の上のリーグにいたチームだからな。普通はそう思う。
だけど、俺達の自己評価は違う。
勝てる相手だ。
自分達への過大評価ではない。冷静に分析してのものだ。
勿論楽に勝てる相手ではない。手をつくした上での話である。
そう判断する大きな理由は二つ。
一つは、うちや、うちと対等な戦いをしていたラウドテックの連中は元々個のレベルで言えばB2レベルの実力はあったということだ。いずれも人数差に負けて一度昇格戦をはじき返されているが、同数の戦いであれば劣るものではないと思っているし、事実ラウドテックは見事3機で昇格戦を勝ち抜け俺達と一緒にB2へあがってきている。さすがに今期新たに4機目を増やしたらしいし、序盤は苦戦するにしてもB2で通用しないということはないだろう。
そしてもう一つの理由。若手二人の成長が著しいということだ。
レオもかなり伸びているが、サヤカの伸びがすごい。中・長距離を完全に捨ててはいるものの、近接戦闘であればすでにかなりの物になってきており、まだまだ試合毎に伸び続けている。
──実は今回のオフシーズン、サヤカに関しては上位リーグのいくつのチームからか引き抜きが来ていた。
C1とはいえルーキーとは思えない活躍をした上にまだまだ成長過程にあり、更にはルックスも強いサヤカだ。当然と言えば当然だろう。
だが、サヤカはありがたい事に即答で断ってくれたそうだ。俺達と一緒に上を目指すと決めていてくれているらしい。
……うん、それはありがたいんだけど。
断る時にナナオさんに、
「姫君を護る事が東洋の騎士たるサムライ──私の役目だと思うからな」
っていったらしいんだけど、姫君って誰の事かなぁ。ミズホかな?
ちなみにその話をナナオさんから聞いたミズホは、サヤカとその後握手に行っていた。
──ああ、もうわかってるよ! 確かに俺は守ってもらわないとどうにもならないけどさぁ!
普通に姫役とかできそうな女性陣が二人もいるのに、なんで俺が姫扱いなの? 他に何かいい表現なかった?
その俺を姫扱いした(まぁ冗談の類だろうが)サヤカは、今前線で相手の近接機と斬りあっている。相手も刀を獲物としているのでまさに侍同士の鍔迫り合いという形だが……
「なんで圧倒しているかなぁ……」
サヤカと相手の霊力ゲージは完全にサヤカが優勢だった。サヤカの霊力が多めなのもあるが……ゲージを見なくてもわかる。明らかに動きがサヤカの方が上だ。
獲物が同じ刀だからこそ、その武器に対するセンスの違いが目に見えて出てしまっている。相手の攻撃は躱し、受け流し、的確に打ち込んでいく。相手側はなんとか距離を取りつつ、機銃を叩き込むことでなんとか持ちこたえている感じだ。
支援が入って距離を取れればまた体勢を立て直せるかもしれないが、その支援が行えそうな2機は俺とミズホの二人と交戦中でその余裕はない。
「……っ!」
機体が揺れる。被弾したのだ。
相手の編成は近近近中だ。うち近接2機はそれぞれレオとサヤカが相手をしているため、俺とミズホが相手をしているのは中距離よりの近接機と中距離支援機の2機になる。
このレベルの相手にミズホ一機で二機相手に前衛を張るのはさすがに無理なので、俺もかなり前に出つつ、相手の近接機が俺の方へと突破してこないようにミズホとポジションを調整しつつ戦っていた。
いや。なんか久しぶりだなこういうの。昨シーズンは全試合数的有利だったから、こんな距離からの射撃戦は殆どなかったからな。3機編成だった前々シーズン以来の感覚だ。
昨シーズンのラウドテック戦は射撃戦というよりはボコられただけだしな……
脳みそを全開で走らせ、相手からの被弾を抑えつつ攻撃を叩き込む。連中が俺の方へと攻撃を集めようとすればミズホが連続して攻撃を叩き込み、ならばとミズホに近接しようとすれば俺がそいつの下半身を狙い撃ち足を止める。
連携はこちらが上。
命中精度もこちらが上。
だが霊力のゲージの減少率はほぼ同等だった。
──くっそ、やっぱり降格してきたとはいえB1にいた連中となると霊力量が多いな。
明らかに攻撃はこちらの方がぶち当ててるのにそれで対等ってのは、イヤになるぜ。
とはいえ、Bリーグへと上がればおのずとそうなってくることは分かっていたことだ。嘆いていても仕方ないし、その分は技術と戦術でカバーするしかない。
それに、今俺達と同じ気持ちを味わっている奴が敵方にもいるしな。
レオを相手にしているサブナックという男だ。
彼は霊力はそれほどではないものの、戦闘技術は相手のチームの中では間違いなく頭一つ抜けた存在。いわゆるエースという奴だ。その彼は今、レオに対して猛攻を加えている。
が、ダメージの差は大きくない。レオは豊富な霊力をベースに相手のエースを作戦通り上手く抑えていてくれていた。
オフェンスよりのサヤカに対してディフェンスよりの役目を担っているレオだが、正直戦術的には非常に助かる存在だ。
実力差は明白ではあるのでこのまま一対一を続ければレオは落ちるだろうが……現状、トータルでいえばウチがわずかに優勢だ。順当に行けばまずサヤカの相手が沈み、そうすれば戦局は一気に傾く。
あちらさんにしてみれば、想定していなかった展開だろう。試合前のインタビューでも、俺は直接聞いてはいないが勝って当然のようなことを言っていたらしい。それがこの有様だ。ダサい事この上ないね。
このままでは向こうも終われないだろう。今シーズンの前期だけでB1に返り咲くためには、開幕戦で昇格組なんぞに敗れている場合じゃないからだ。
だから、そろそろ動くハズなんだが──そう思ったとき、ミズホから通信が入った。
「ユージン、来たわ! 動きが変わった!」
動きが変わった。その言葉が意味することは全開駆動に切り替えたということだ。
そしてBランク以上では、全開駆動でやれることが一つ増える。
魔術の行使。戦局を一変させる可能性を秘めた力だ。
「対象は!?」
「ディド、キュラス! アタシ達の相手の二人よ!」
俺は思わず操縦宝珠に触れていない左手で小さくガッツポーズをしてしまった。
今回の戦いで俺達側が明確に有利な点が一つある。
それは、魔術に関してこちら側の情報を向こうはほぼ知らないのに対して、こちら側は全て知っているということだ。
ミズホの【沈む世界】に関しては深淵戦やスタンピードでの使用で知れ渡っているだろうが、俺の【八咫鏡】は知られているのは<<星屑の雨>>だけ、しかもあれはリーグ戦では使えるようなものではないので知られてないのとほぼ同意味だ。
それに対して、向こうの方は過去のリーグ戦の情報で丸裸になっている。
近距離機のキュラスは、巨大なサブアームを出現させる攻防一体の術だ。
中距離機のディドはオーソドックスな攻撃転用型。威力を上げた光線を自機の周囲から大量に発生させ敵を蹂躙する。
前者はおいておくとしても、後者は俺の魔術の大好物だ。
だから俺は叫ぶ。ここから先はスピード勝負だ。
「サヤカ! 俺とお前でディドを落とすぞ!」
「OK、プランBね!」
──そんな名前は付けた覚えはないんだが、自分の中でネーミングしていたのだろうか。
まあやることはわかっているだろうし、別にいいだろう。
行くぞ。
次の瞬間、俺とサヤカの声が重なった。
「「全開駆動!」」




