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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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ファン感謝デー①


シーズンオフ。


スタンピードの発生というイレギュラーはあったものの、それ以外は例年と同じようにシーズンの疲れを癒すのんびりとした時間を──過ごせるわけなかった。


去年の同時期は元々の所属だったグェンの移籍、それに伴うレオの加入に伴い機体に乗っての訓練は多かったものの、それ以外は特に用件がなかったのでのんびりする余裕があった。


だが、今年は全く余裕がない。機体も殆ど乗れていないくらいだ。


メディア出演、取材、CMや広告の撮影。前者はもともとそこそこ数があったのに、スタンピードがあったことで更に増えてしまった。それにエレメンタラーズアワードもあった。今回はウチは昇格チームなので無条件に参加だ。


俺以外の面子は土日以外は(ある程度はそういったものがあるにしても)休息や機体の機乗は行えているらしいけど、俺に関しては平日は日本での仕事があるわけで日中はほぼフル稼働だ。むしろシーズン中の方が、メディア出演や撮影が必要最小限に絞られている分余裕がある。


女性化したことに関する取材はさすがに減りつつあるんだけど、昇格したことと本来は珍しい俺と同じ経緯で精霊使いになったサヤカがいることでその分の取材が増えて結果として数増えてんのよな、吐きそう。


女性になった直後のオフは取材はある程度あったもののCMとか広告の仕事はなかったし、半年前のシーズンオフは怪我で強制休養が入ったあげくそのあと3か月がそのままオフシーズンになったため、スケジュール的には余裕がまだあった。


だけど今回は一ヶ月のオフシーズンの中に目いっぱいスケジュールが詰め込まれているので……死ねる。


だがそれも今日で終わりだ。今日はシーズン最後の週末の日曜日。来週からは新しいシーズンが始まる。シーズンが始まればほぼリーグ戦関連の事以外はやらなくなる(ようにしてもらっている)から、大分楽になる。


ただその前に大変な問題が残っているんだが……


喧騒が聞こえる。遠くから──ではなく、割と近い。しかも数十人とかそういったレベルではなく、それより遥かに多くの人数が生み出す喧騒だ。


舞台袖、そこに置かれたパイプ椅子に座っている俺は、自分の太腿の上に置いた手を強く握りしめ固まっていた。


今日は、ファン感謝デーだ。勿論、エルネストの。


すなわち、この喧騒を生み出している膨大な観客たちは全員俺達を見に来ている。


実は、アキツでも最大のエンターテイメントたる精霊機装リーグ戦のプレイヤーである精霊使いはファンと直接触れ合う機会は少ない。


なにせ精霊機装は観客席のスタジアムで行われるわけではない。なので基本的に試合観戦は多角的に撮影される映像によるものだ。テレビやネットでの配信、そして専用の施設を使用したパブリックビューイング。だから試合後に俺達精霊使いが直接ファンの前に行って挨拶するようなこともない。


基本的にファンにとって俺達精霊使いは、モニターの向こうの存在なのだ。


そんな精霊使いと直接会える数少ない機会が各チームが個別で開催している、サポーターズクラブのメンバー向けのファン感謝デーだ。


地域リーグだといろいろ採算も取れないからまずやらないし、Cランクでもやるところはそれほど多くない。だがBランク以上は全てのチームがやっているファン感謝デー。来期Bランクに上がるうちもサポーターズクラブを設立したこともあり、今オフから開催する事になったんだが──


もう、聞こえてくる音だけで圧がヤバイんだよ。俺、今からあの喧騒の中に飛び込むの?


「ユージン、顔青いけど大丈夫?」


椅子に座ったまま固まって、太ももの上においた自分の手をじっと見たまま固まっている俺に声がかけられる。


顔を上げれば、ナナオさんがこちらを心配げな顔で見つめられていた。


ナナオさんはイベントに参加するわけではないが、いろいろなスタッフの統括兼責任者としてここに来ている。


そのナナオさんに、ダメな事はわかった上で聞いてみる。


「大丈夫じゃない場合は、参加しなくてもいいですか?」

「いやだめだけど」


ですよね。


本当に体調不良ならまだしも、緊張してるだけでチケット買ってやって来ているファンの人たち放置して休めるわけがない。わかってる、わかってるよ、そんな不誠実なことできるわけないよね。


因みに、現在ファンクラブの総数は5桁を超えたらしいが、さすがにその全員は来ていない。それだけのキャパを収容できるハコがキープできなかったそうだ。


ファン感謝デー、基本的には精霊機装と精霊使いの撮影タイムがあるんだが、精霊機装は街中での起動は基本的に禁止なので郊外しか使えないのよな。そうすると使える会場数はそれほどないわけで、かつ他のチームや別のイベントとの兼ね合いもありそうそう簡単に抑える事ができない。でかい所とかは上位の常連チームが抑えてるしな。


どうせならハコを抑えられなかったら良かったのに。……というのは、さすがに往生際が悪すぎるか。


覚悟を、決めよう。いや、ここまでにも何回も覚悟は決めたんだけどな。その度にしばらくしてから揺れてるんだけど。


椅子から、立ち上がる。


「あ、ユージン覚悟決まった?」


ミズホさん、心の中読まないでもらえますか?


「ユージン、動きが固いぞ、リラックスだ」


後ろに立っているサヤカが俺の肩を軽く揉んでくる。


「……なんで緊張しているのが俺だけなんだよ」

「あれじゃないっスかね。自分より緊張してる人見ると自分は落ち着いてきちゃう奴」

「よし、レオ。お前今すぐ俺より緊張しろ」

「過去一の無茶ぶりが来たっスね」


そういってレオがけらけら笑う。そういうコイツが緊張してるところ殆どみたことねぇなぁ……心臓に毛が生えてるんじゃなかろうか。他の二人も含めて。


「? 何、ユージン胸のあたりじっと見て、触りたいの?」

「さっ……何言ってるんだお前!」

「いや、ユージン。今はお前にだってあるものだぞ?」

「そうよねー。それなのに今だに見えそうになったら目を背けるし、今もこの程度で紅くなっちゃってほんとかーいー。さっきまで青ざめてたのにね」

「信号機みたいな変わり方したっすね」

「うるさいよ」


……ただアホな会話のお陰で少し緊張はほぐれてきたかな。その辺気を使ってくれたのかもしれん、そういう気づかいは出来る連中だし。ただ素でこういう会話もする奴等だから、本当はどっちだかわからん。


結果は同じだからいいか。


「よし」


拳を握り、気合いを入れる。後はなるようになれだ。


「もう大丈夫?」

「はい」


改めて聞いてきたナナオさんに、今度は頷きを返す。


「皆もチケット買ってまで応援にきてくれたんだし、ちゃんと役目を果たします」

「よーし、えらいわよー」

「……ナナオさんちょっと?」

「ナナオさん、それ髪のセット崩れちゃいますよ?」

「あ、そっか、ごめん」


いや、それ以前に幼子にするみたいに頭撫でられるのはちょっと……


「しかしチケットか。すごかったらしいな?」

「発売後数分で完売らしいわね。次回以降は抽選にするんでしたっけ?」


サヤカの言葉にそう返したミズホが、ナナオさんの方に視線を向ける。

彼女は頷き、


「ええ、次回は枠をもっと増やすための会場を探してるけど、それでも今回の勢いを考えれば足りないと思うからね」

「え?」

「? どうしたの?」


聞き返してくるナナオさんに対して言葉を返す事ができず、俺は思わずナナオさんに縋りついてしまった。

そして彼女の顔を見上げて首をプルプルと降る。


もっと数を増やす? 今でも音だけでこんな圧を感じているのに?

死んじゃいます。ほら、ウチまだBクラスだし、あまり背伸びはせずに暫くはこのくらいの規模にしときましょ?

俺も精いっぱい頑張るけど、限界というものがですね。急に増やすのは体に良くないと思うんですよ。


そんな考えが声として出ず、ただプルプルと首を振って意志を伝える俺の姿をポカーンと見下ろしていたナナオさんだが、数秒をおいてからなぜか俺じゃなくてミズホの方を見た。


そして口を開く。


「ねぇ、この子、ヤバイ事になってない? なんかあざとく自分を活かす方法覚えちゃった?」

「なってますね。後それ素でやってると思いますよ」

「ウチの子にしてもいいかしら」

「ダメですよ、アタシのです」


お前のでもねぇよ。というか何の話だよ。


それと、後で確認したけど増枠の件は本格的に動いてるし要望の数も半端ないから確定事項とのこだった。


ですよね。











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