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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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戦い終わって


「それじゃ車出すわよ」


運転席から首だけこちらを向け、そう声を掛けてくるナナオさんに無言でうなずく。


窓の外に視線を送れば、大型のトランスポータが並んで出発していっていた。その中の一台の助手席からサヤカが手を振ってきたので、軽く笑みを浮かべながら振り返しておく。


体に、緩いGが掛かり始める。こちらの車も走り出したらしい。


俺は今、ナナオさんの車に乗っていた。同乗者はナナオさんとミズホだけだ。サヤカとレオは本拠に戻るチームの車両に同乗してカーマインに戻るとのこと。


サヤカは今晩は日本の方へ戻らないらしい。まぁアイツの機体、右手の指のジョイント部分がぶっ壊れてたからその修理と調整もあるしな。


俺も自分の機体を運ぶトランスポーターに乗ってカーマインに戻ってから日本へ帰るつもりだったが、ナナオさんがロスティアの転送施設まで送ってくれるといってくれたのでそれに甘える事にした。


正直な所、早く家に帰ってシャワーを浴びたい。そして酒でも飲んで眠ってしまいたい気持ちが強かったので。


それと、正直今の俺の状態に気づいていない人間の横に乗るのは申し訳なさもあるし。


いや、あの後ちゃんとトイレいって下着も変えたし、とりあえず綺麗にはしたけどさ。ミズホの用意してくれてた着替え、二泊を考慮して用意してくれててよかったよ、本当に。あとホテルに戻る予定がなかったから、着替えを整備チームの車両の方に乗っけておけたのも良かった。


はぁ。


正直、この年になってやらかすとは思わなかった。いくつかの条件が重なったとはいえかなりショックがでかい。


俺、24……もう少しで25だぜ? なのに驚きと恐怖で失禁するなんてさぁ……


唯一の救いはがっつりとはいっていなかったところか。少なくともシートには被害が無くて良かった。


思い出すほど、どっと力が抜ける。


俺は体をウィンドウの方へ預けようと、体を右の方へ倒す──倒そうとしたら、肩を掴まれて引き寄せられた。結構強く引かれたのと、俺自身は体から力を抜いていたので抵抗する事ができず、俺はそのままぽふんと倒れこむ。


「わっ」

「ほら、頭はここ」


そのまま位置を調整されて、頭が柔らかいものの上に乗せられる。ミズホの太腿だった。膝枕という奴だ。


「おい」

「いろいろとお疲れでしょ? 寝ちゃってもいーよ?」


こちらを見下ろすミズホの瞳は優しいものだった。ふざけているとかではなく、こちらに気を使ってくれているもの。


さっきから気を使われてばかりいるな、と少し笑う。


それから俺は彼女から視線を外し、布越しの彼女の温もりを顔に感じながら口を開く。


「──さっきはありがとな、ミズホ。ナナオさんも、本当にありがとうございます」

「いえいえ」

「所属選手のプライベートな事を護る事もオーナーの仕事だもの」


スタンピード第三波。


俺の【八咫鏡】による<<星屑の雨>>でその大部分を一掃し、残った連中も個別撃破した後。俺らの元に追加の鏡獣が現れる事はなかった。


俺達の後のタイミングで出現した所はあったらしいがそれも第三波の一部で、結論をいえばスタンピードは第三波で終了したということだ。


その後、チーム車両が待機している場所まで戻ってくると一部のメディアの撮影クルーが待っていた。


今回は前回の深淵の時と違い出現が予測されていたので、メディア関係者が同行しているのは知っていた。遠隔操作で戦闘中の撮影を行ったり、一部のチームの機体はモニタ映像の共有が行われていたハズ。


その中の一部のメディアがウチをインタビューしようと待ち構えていたのだが──そのメディアたちを足止めして、俺を着替えに行かせてくれたのがミズホだった。


これ、本当に助かった。だってぱっと見外から見たところは染みとかできてなくてわからないとはいえ、下半身が……な状態で全国ネットの映像に出れるわけないだろう。一生消えないトラウマになるわ。


俺の状況に気づいたミズホ、それにナナオさんによってそれは防がれたわけで本当に感謝しかない。


ただちょっと気になる所があるので、聞いてみることにする。


「なぁ、ミズホ」

「何?」

「その……なんで気づいたんだ?」


当然こちらからはカミングアウトしてなんかはいない。というか言えるわけない。なのになぜかミズホは気づいていた。……もしかして他にも気づいていた人間いたんじゃ? と不安になる。


俺のその問いに、彼女は俺の長い髪を整えながら苦笑いを浮かべて、


「表情と、あと体勢かな」

「体勢?」

「うん。ユージン機体から降りてきた時にあまりこちらに視線を向けようとしなかったでしょ。表情もそそ……恥ずかしそうにしてさ。あげく腰が明らかに引けてて、手でその辺り隠してるんだもの、気づくわよ」

「う……」


言われてみれば確かに……


「ってことはやっぱり他にも気づかれて……」

「あー、それは大丈夫じゃないかな?」

「本当に?」


そう問い返したら、ミズホの動きが止まった。次いで目を逸らされる。

ミズホの行動に不安が掻き立てられ思わず身を起こしそうになったら、そのミズホに頭を押さえられて再び太ももに押し付けられた。


「ごめんごめん、大丈夫じゃないかなってのは本当よ」

「じゃあなんで目を逸らしたんだよ」

「この体勢で縋りつくような目で見つめられたら、ほら、ヤバイでしょう。破壊力が」


なんの破壊力だよ。


「とにかく、大丈夫だと思うよ。あの場所で近くで見ていたのはアタシだけだし、それにユージンがあーゆー類のもの凄く苦手だってのを知ってて、あの出現時の言動も聞いてないと気づかないんじゃないかな?」

「……本当?」

「だからその目は……ねえ今日やっぱりウチに泊まっていかない?」

「それはやめとく」


今日は一人で、酒でも飲んで泥のように眠りたい気分なんだよ。


そんなやりとりをしていたら、前でハンドルを握っているナナオさんが口を挟んで来た。


「ねぇ、いちゃいちゃするのは見えるところでやってくれるー? 後ろが気になってしょうがないんだけど」

「いや、そこは見えないところじゃないんですか!? そもそもイチャイチャなんてしていませんよ!」

「どこが?」

「いや、どこからどう見てもイチャイチャはしてないでしょう?」

「そうよ、真のイチャイチャと言うものをナナオさんに見せてあげまもが」


ロリコンが流れに乗って妙な事を言い出したので片手を上げて口をふさぐ。

うん、この話題は止めておこう。話切り替え切り替え。


「そんな話は置いといて、ナナオさんは何で気づいたんですか?」

「露骨に話題を逸らしたわね?」

「してないです」

「まあいいわ。私が気づいたのはユージンが向かってる方向と、後はミズホの言動からね。私も通信は聞いてたし、庇いっぷりでわかったわ。まぁミズホの言う通り私達以外は気づいてないでしょうし、安心していいわよ」


ナナオさんにもそう言ってもらえて、ようやく俺は安心する。この二人に知られるくらいだった……うん、まだダメージは少ない。恥ずかしい事この上ないのは間違いないけど……被害は最小限で済んだ。よかった事にしておく。


安堵のため息を吐き、ミズホの口を押えていた手を離す。──こら、残念そうな顔をするんじゃない。


全くもう、そう思いながら全身の力を抜くと、ミズホがゆっくりと頭を撫でてきた。それが割と心地よかったのでされるがままにする。


せっかくだから、先程の言葉に甘えて施設に着くまで少しだけ寝かせてもらおう。


──今日は、本当に疲れる一日だった。




ひどい回

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