スタンピード 乱戦
初っ端でつまずいたサヤカだったが、それ以降は問題なかった。主武装の刀だけではなく、他の武装や蹴り、時には体当たりを駆使して向かってくる鏡獣を吹き飛ばし、きざんでいく。
対精霊機装相手だと近接武器は何を使っても打撃武器になるが、鏡獣相手であると斬撃武器はそのまま斬撃になってしまうため逆にやりづらい。相手が生物であれば急所を一撃でいけるだろうが、鏡獣にはそんなものはないしな。
「次回以降は別の武器用意した方がやりやすいんじゃないか?」
『下手に武器を変えると、逆に取り回しに苦労する』
「……そりゃそうか」
『それ以前にこんな数相手にすることなんて、そうそうあって欲しくないんだけど?』
ごもっとも。
ミズホの言葉の通り、こんな大量の数を相手にすることが頻発されたらたまったもんじゃない。
ミズホに関しては深淵戦の時に大量の黒ナメクジを相手にしていたが、あれこそ本当にイレギュラー中のイレギュラーだろう。
「よっ……と」
遠くを抜けて行こうとした奴をライフルでぶち抜きつつ、滑腔砲の一撃を別の一体に叩き込む。後者は界滅武装ではないからその一撃で相手が沈むことはないが、動きは止まったのでそこに対して腕にマウントした二門の銃口で追加の一撃を連続して叩き込む。
それでもう一体の方も沈黙した。
全開射撃とまではいかないが、数が多くて流石に最高効率のライフルとだけとはいかず、全身に装備された武装を用いて戦う羽目になっていた。それに霊力弾のライフルだけ使っていると消耗がきつい。実体弾は装填数に限界があるが、弾切れになるまでは頼りにさせてもらう。防衛出動の場合経費は支給されるのでチームの負担にもならんしな。
『にしても、本っ当に数が多いっすね!』
襲ってきた鏡獣を裏拳で殴り倒しながらレオが言う。
「あともうちょっとで第一波が片付くんだから頑張れ」
『っスね』
すでに俺が落とした数は20に近い。エルネスト全体で言えば40は軽く超えているハズ。それだけ落としてまだロボットの姿をした鏡獣は残っていたが、さすがに終わりが見えてきた。残りは4体。
「一人一体ずつだな」
『ユージン一人でもなんとかならない?』
「なんとかなるだろうけど消耗はするんだよ、サボろうとすんな」
『はぁい』
これで終わりならやってもいいけど、この先を考えると出来るだけ消耗は押さえておきたい。俺は一度霊力武装のライフルを格納し、実弾武装のライフルを取り出し構える。
俺が目標とする鏡獣は真っすぐこちらへ向かって来ている。この距離であれば霊力弾の弾道操作も不要だろう、今回の鏡獣は以前のサメのような無茶な機動もしてこないしな。この辺の動きの違いはやはり元のイメージとかが影響しているのだろうか? あるいは別の要素があるのか。
……起きてる事象自体が出鱈目な事なんだから、あまり理論で考えても仕方ないのかもしれないがな。
ただスタンピードの場合は大量発生する分、一個一個の能力は低いケースが多いとは聞いたが。
そんな事を考えつつ、ライフルを放つ。狙いは左足だ。
霊力弾とは違い大きな銃声を伴って発射された弾丸は、真っすぐに鏡獣へと飛来しその左足を打ち抜いた。
ロボットとはいえ人型をしている鏡獣はそれだけでバランスを崩し、自らの勢いに負けて転倒する。
それでジ・エンドだ。地面に転がって動きを止めた鏡獣に立て続けに攻撃を数発ぶち込めば、それでそいつは消失した。
人型タイプはこういう所が楽でいいよな。本当に人の姿だと別の意味でしんどくなるけど。
自分の受け持ち分を片付け周囲を確認すると、ミズホもすでに自分の仕事を終えていた。残りの二人は……まだどつきあってるな。
距離が近すぎて援護射撃するのも難しかったのでそのまま見守っていると、二人もほぼ同時に鏡獣を叩き伏せた。
「お疲れー」
『いやぁ、さすがにこう連戦だと疲れるっスね』
「だなぁ」
時間経過を確認したら俺達が交戦を開始してから10分も立っておらず、リーグ戦の試合と比較してもまだ全然余裕の時間だ。だが一対一や二対一の戦いが主になるリーグ戦の戦いとは全然異なるからな、その分疲労する。更には戦闘開始後はほぼ息つく暇もなく前衛組は駆けずり回ってどつきあってたし、後衛組は射撃を行いつつ遠距離を突破していく奴がいないか注意を払っているわけで。
『30分ずっとこの状態とかだったら確実に力尽きてたわよね』
「あの量の敵がずっと30分湧き続けてるようだったら六都市壊滅してるだろ……ナナオさん、第二波の発生の連絡は?」
『来てないわ。今のウチに休憩しておいて』
「了解ー」
通信機に気の抜けた返事をしながら、椅子の側面のボトルホルダーの固定を外してペットボトルを手に取る。
ほんの10分しか経過していないのに、集中していたせいか妙に喉が渇いてしまった。
「ん……」
口を付けて、ごくごくと水を飲み干す。
美味い。一息つけた感じがある。
「はぁ」
こういうのって集中してる時は大丈夫なんだけど、その変わり集中が切れた瞬間にどっと疲労が来るよな。
リーグ戦の試合とかだと一度接敵して以降はずっと気の抜けない時間になるから試合中は大丈夫なんだけど、こういう戦闘の間が空くケースだと再度スイッチ入れるのが億劫になりそうだ。
まぁそんな甘えた事は言ってられないんだけど。
「あと2回か3回くらいかねぇ」
『聞いている時間から逆算するとそれくらいだろうな』
『霊力的には3回来てもなんとか持ちそうな感じっスかね』
現在の霊力消費量は全員2割に届かない程度だが、
『やっぱりユージンの消耗が少し大きいわね。このまま行くと3回目は厳しくない?』
ミズホの言葉通り、俺はほぼ2割に近いくらい消耗していた。元の霊力が低めな上に攻撃しまくっていたからな。
『実弾も結構撃ってたから、3回目まできたらそっちも持たないでしょ』
「……だなぁ。ちょっと第一波の相手で頑張りすぎたか」
距離のあった鏡獣も攻撃が届く範囲なら射撃していたが、俺達の後方にはB、Cランクや地域リーグのチームが控えているのだ。多少は通してしまっても支障はなかった。
「次はもうちょい後ろに回すか」
『それで良いと思うぞ。でないとミズホとユージンの負担が大きい』
「サヤカー。お前の方は大丈夫か?」
『私は大丈夫だ、もう慣れた。こちらの方が、以前やっていたVRゲームの感覚に近くてやりやすいまであるな』
確かに先程の戦闘、終盤のあたりはかなり動きが良くなっていた気がする。
『あれー、ユージン。アタシは心配しないのー?』
『俺の心配も欲しいっスね』
「お前らは、声の調子で大丈夫か大丈夫じゃないかわかるわ」
『あっ……』
『? ミズホさんどうしたんすか?』
『ユージンたら、アタシの事すごく理解してくれてるんだなって……』
「別に否定はしないけど、妙な声音で言うのはやめろ」
なんか感極まった感じで言ってるように聞こえるけど、それが完全に作ったものだっていうのも分かってるからな? 付き合い長いんだから。
「ミズホはまだまだ余裕そうだな。第二波はめいいっぱい頑張ってもらおうか」
『ひどーい。でもそんなちょっとSなユージンも好き』
「やかましい……って、ん?」
通信機から爆音とノイズが流れた。
我々は今戦闘中じゃないから当然爆発音などするわけがなく──あ、これ全体通信だ。そう気づいた瞬間、通信機から聞いたことのある声が流れた。
『ラブジャの浦部さね! すまん右翼側、そっちに高速移動する鏡獣が一体向かったさね。誰かとめとくれ!』
そこで一度言葉が途切れ、それからもう一度浦部さんの声が通信機から響いた。
『恐らく"異界映し"さね! 魚の姿をしてる!』
魚?




