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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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待機中でもお仕事中です。


『……こないっスねぇ……』


通信機から、レオの気の抜けた声が響く。


「こないなぁ」


何度目になるか最早わからないそのボヤキに適当に言葉を返しながら、俺はスマホの画面をフリックして読んでいる小説のページをめくる。


読んでいるのは、丁度精霊使いになった頃に文字の勉強も兼ねて買ったこちらの世界の時代小説だ。さすがに前回読んでから3年も立つと内容も概ね頭から吹っ飛んでいるので、暇つぶしには丁度良かった。


そう、暇つぶしだ。


俺達は今、精霊機装の操縦席の中で暇を持て余していた。


スマホに表示されている時間は、現在PM1:32を過ぎている。


スタンピートの発生予測時刻を、すでに30分超過している時間だ。前後幅2時間のブレがあることは事前に聞いているし、その範囲ではあるんだが……


俺達の機体は今、トランスポーター上でリフトアップされた、直立不動で立っているような状態だ。発生位置によってはある程度の距離の移動が発生する可能性もあるため、いつでも元の横になった状態に戻れるようにトランスポーターの上からは下りず、尚且つ近場で発生した時すぐ出撃できるように起動状態というわけだ。


そんな状態なので、俺達はずっと精霊機装に搭乗状態。そしてそうしてからもう2時間半を超えていることになる。


確かにナナオさんには長期戦とはいわれてたけどさ。


精霊機装の操縦席は、まぁ当然といえば当然ではあるんだけどそれほど広くないし、物もあんまりない。

中にあるのは操縦席と補助席、正面と左右のモニター、操縦席の肘掛部分にある通信や一部操作用のコンソールに操縦宝珠(コントローラー)。それに持ち込んだ私物を仕舞っておくBOXだ。


戦闘中に機体が転倒することも珍しくないから、そこいらに転がしておいたら大変な事になるからね。


まぁそんな状態なので、暇を潰せるものがない。正面ディスプレイに映画とか流せればいいんだけど、そんな機能は残念ながらないので。


なので持ち込んだ私物でそれぞれ皆時間を潰しているんだが……そろそろ本も読み終わってしまいそうだ。


『なんというか……いい加減眠くなってきたな』

『サヤカちゃーん。何しててもいいけど、寝るのだけは駄目よー?』


サヤカはこういう防衛出動自体ほぼ経験がないせいか、操縦席の中に飲み物以外は何も持ち込まなかったらしい。だからモニターで平原をひたすら眺めながら待っていることになったわけだが……そりゃ眠くなるだろう。


『このモニターでゲームでもできれば良いのにな』

『あー、いーっスね。時間つぶしにもってこいだ』

「そっちに集中しすぎて、鏡獣が出ても気づかなかったりしてな。──あー、本読み終わっちまった」


椅子から立ち上がり、収納BOX内にある専用のホルダーにスマホをセットして固定する。


当然と言えば当然だけど、疲れるからシートに体は固定してないし、精霊の融合(フュージョン)も行っていない。タマモは今操縦宝珠(コントローラー)の上で丸まっておとなしくしている。


そのタマモに触れて落とさないように注意しつつ、俺は再びシートに腰を降ろすと通信機に向って話しかけた。


「レオ、ミズホ、お前等今何してんの?」

『スマホでダラダラとネット眺めてるっスね』

『アタシも似たような感じ、動画見てるー。ユージンもそうしたら?』

「自分の動画を誤爆しそうだからやめとく」


動画サイトは油断すると俺の切り抜き編集とか上がってるので危険だ。秋葉ちゃんにこないだ聞いたけど、CMや各種メディア出演時の切り抜きまとめとか上がってるらしい(これに関しては俺に限ったわけではなく、ある程度知名度がついた精霊使いの奴は大抵あるらしいが)し、中にはよくわかんない動画もあるらしい。1時間耐久ユージンちゃんとかなんだよ、タイトルだけ聞いたけど内容が思い浮かばねーぞ。


『難儀ねぇ』

「いやそもそもネットとか見ない方がいいって言ってきたのはお前等だからな!?」

『まぁ見ない方がいいと思うわ』

『私も見ない方がいいと思う』

『見ない方がいいっすね』


三人同時に口をそろえて言うんじゃねぇよ! ほんと何書かれてるかわからなくて恐くなるんだよ!


正直批判とか悪口ならある程度まで大丈夫なんだ。そんなものより自分の出演シーンの映像の恥ずかしいシーンのまとめとか、妙な妄想とかに登場させられてる方が心が死ぬ。


「お前らの情報だってあるだろうに、よく普通に見れるな……?」

『そういうの気にしてたらモデルとかやってられないわよ? 後ユージンほど酷い扱いはされてないし』

「えっ」

『ユージンさん、元が男だってのがあるせいか、いろいろとネタが豊富なんスよね──アングラ的な所を見ると』

『あと普通の女性に対してよりは遠慮がない所を感じるな。ここまではOK的な』


いやまぁサヤカやミズホに対してそういう事するくらいなら俺にやれとは思うけどさ……俺の目にさえ入らなければ。


……あとアングラは間違っても覗かないように注意しないと。


ひとつ、ため息を吐く。


「はいやめ。この話やめ」

『そうね。ユージンの気力が落ちそうだし』

『というか、本当に出てこないっスね。他所での出現の連絡もないんスよね?』

『ないわよー。いまだ兆候なし』


こちらの会話を聞いてたらしく、ナナオさんの方から即座に応答が帰ってくる。


『マジスかー。これは3時間超えてくるかもしれないっスねぇ』

『出てこないならまだしも、出てくるのが確実なら早めに出てきて欲しいものだな』

『そうね。さすがにこれ以上待たされると、それこそおトイレとかにも行きたくなりそうだわ』

「本当にな……」


ナナオさんに警告された通り事前に用は足してきているとはいえ、こう長くなると行きたくなってもおかしくない。時間ギリギリまで出てこなかったら、その後の戦闘の時間を含めれば5時間近く行けてない事になるし。


……というか、そういう話をして思い出してしまったせいか、少しもよおしてきた気がするんだが?


ちょっとしたいかも? くらいなんで別段まだまだ余裕があるけど、このあと+2時間近くとか考えるとちょっと不味い気がする。


一応緊急時用の携帯トイレはあるけど、正直使いたくないし……どうしよう。


『……ユージン? どうしたの、なんか呻き声上げてるけど』

「ん……あ? うん」


心配気に聞いてきたミズホに対して要領を得ない返答を返しつつ、考える。


機体を降りてトイレに行く場合、一度機体を寝かせてもらい、操縦席から出てトイレのついてる整備班の大型車両までダッシュ。往復で10分はかからないだろうけど、5分じゃ厳しいか……


『ユージン?』


今急いで行きたいってわけじゃないけど、長引いた場合最悪ずっと我慢しながら操縦席の中で激しく揺られるという地獄を見るわけだよな。


……よし。


速攻ですます! 往復で7分以内に済ませてその間に出現しないことを祈る!


そう決断し、機体を倒してもらうために通信機に声を掛けようとした、その時だった。


『鏡獣の出現が確認されたわ!』


通信機からナナオさんの声が響いた。


──タイミングわっるぅ! いや、逆に良いのか? 降りて丁度トイレにいる時だったりしたら最悪だったよな。トイレも別に更に長引くことを考えて行きたかっただけで、このまますぐ戦闘に突入するなら問題ないし。


よっし、切り替え切り替え!


「ナナオさん! どのあたりに出たんですか?」

『発見したチームはラブジャよ! すでに交戦に突入した模様!』


大本命の所に出たか。うちはやや右翼よりの配置なので、ちょいと距離があるな。


『トランスポーターで移動しますか?』


同じことに思い至ったらしいミズホの問いかけは、即座にナナオさんに否定された。


『想定以上に周囲に拡散するように動いているらしいわ。なので各チームは精霊機装で包囲を狭めるように動いて欲しいとのこと。このまま出撃するわよ!』

「……了解!」


俺の言葉に続いて了解、了解、と通信機から立て続けに声が響く。


さて、お仕事の時間だ。いやここまでの待機時間も立派なお仕事の時間だけどな!


寝ているわけじゃないだろうけど、丸まったタマモの体をつんつんとつっつく。するとタマモは一瞬びくっとしてから慌てて起き上があがると、こちらに視線を向けてきた。


あれ、寝てた?


まあいいや。


「行くぞ、タマモ! 融合(フュージョン)!」


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