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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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お洋服を準備しましょう


ミズホの再びの申し出は改めて丁重にお断りして、その上で今後の事を考える。

事務所に泊まる事は確定。俺がこっちの世界でやることは試合や精霊使いとしての取材がない限りは概ねこの事務所で事足りるので、出歩く必要はほぼ無くなる。この事務所には仮眠室、シャワー、トイレ、給湯室と生活に必要なものはあるし、自分の端末もあるからデータの分析なども行える。食料品だけなんとかしてもらえれば、このビルから一歩も出なくても数日間程度なら充分やっていけるレベルだ(仮眠室のベッドはあくまで仮眠用なりのものだし、風呂もシャワーだけだからずっとここで生活はちょっとアレだが)。


食料品は……まぁ悪いが後でレオあたりに買ってきておいてもらえればいいとしてだ。問題は──服か。

今は元々着ていた服をかなり無理やり着ているが、事務所から出ないにしてもさすがにこれでは動きづらすぎる。かといってこれ以外の服もないし、誰かに借りるにしてもこの体じゃサイズが合わない。というか、サイズが合う奴を着てしまうと元に戻った時多分ダメになるよなぁ……


そんな事を考えながらダブダブとなってしまった服の袖を眺めてため息を吐いていると、それを見たミズホが声を掛けてきた。


「どうしたの? 自分の腕見てため息なんか吐いて。自慢の鍛えた体がか細くなっちゃってショックとか?」

「ナルシストか俺は……そもそもそこまで鍛えてもねーわ。そうじゃなくて服をどうするかと思ってな、さすがにずっとこの格好はしんどいし」

「サイズが合う服買ってくればいいんじゃないッスかね?」

「体のサイズに合わせた服着てると、元の姿に戻った時にヒデーことになりそうでなぁ……」


あー、と頷くレオ。その向こう側でナナオさんが俺の姿をざっと眺めていった。


「……破れたりするのが嫌なら、サイズの大きい半袖のシャツでも着てればいいんじゃない?下も大き目のキュロットパンツ辺り買ってきてさ。腰はベルトか何かで大分絞らないといけないだろうけど」

「あー……そうですね」


時期的にもう寒いという時期でもないし、そもそも表にほぼ出る気もないからそれで問題ないか。

俺が頷くのを見てレオが立ち上がる。


「じゃあ俺買いに行って来るっスよ」


そういってすぐにでも駆けて行きそうな気配をだすレオを、だがミズホが呼び止める。


「いえ、私が行って来るわ。さすがに服となるとちょっと足を延ばさないといけないし、車で来てる私の方がいいでしょ」

「あー、そッスね」

「レオは食料品とかそっちの方買ってきて。必要でしょ?」

「ああ、勿論」


最後の部分は俺の方を向けて言われたので頷いておく。


「了解っス。何買ってきます?」

「あー、待ってメモを書く。ナナオさん、俺の机の上からメモとペン取ってもらえます?」

「えっと……これね。はい」

「ありがとうございます」


差し出されたメモ帳を受け取って思いつく食品の類を書いていると、正面に座っていたミズホが自分のハンドバッグを取って立ち上がった。


「じゃあ私は行って来るわ。さっきナナオさんが言ってたのでいいのよね?」

「ああ、念のため3セットくらい頼む。後サンダル辺りかな」

「オッケ。あと一着くらいサイズ合わせた服買っておいた方がよくない? 病院とかから呼ばれたときダブダブの格好じゃ行きづらいでしょ」


あー……確かに。あと誰もいない時に外に出る必要が出来てもこまるから、一着は必要か。


「そうだな、それじゃそっちも任せるわ。サイズ計るか?」

「目検で大体わかるしいいわ。服の種類は私が選んじゃっていい?」

「動きやすければなんでもいいよ」

「了解~。それじゃ行って来るわね」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


それから大体1時間半くらい後。

そう言って出て行ったミズホを、世話掛けて申し訳ないと思いつつ黙って見送ったことを俺は後悔することになっていた。


「……おい、ミズホ」

「なぁに?」

「俺は()()()()()()と言ったよな?」

「そんな気もするわね」

「じゃあなんだこれは!?」


俺はミズホが買ってきた服を自分の体の前で広げて突き出す。


「やだ……超似合う。ちょっと着てみて?」

「着てみて? じゃねーんだわ」


思わず手に持った服を叩きつけそうになったが、すんでの所で踏みとどまる。


「でも本当に似合うと思うッスよ」

「いや、だからな……?」


ああ、確かに今の俺には似合うかもしれん。だが俺は似合う似合わないの話をしているのではなく、頼んだものと全く違う物をミズホ(アホ)が買ってきたことを言ってるわけで。


車を出してわざわざ買い出しに行ってくれたミズホ。その彼女が帰ってきて俺に差し出した服はヒラヒラのフリルやリボンが各所にあしらわれた服──俗に言うロリータワンピースという奴だった。どう見たって動きやすい服じゃないし、中身が男の人間に着せる服ではない。


「ズボンとYシャツあたりでいいだろうが。何でこんな正反対のものを買って来た」


ジト目で聞く俺に、ミズホは頬に手を当てペロと舌を出し


「いやぁ、私もそう考えてたんだけど? いざ店にいったらその服が目に入ってさ~」


……絶対嘘だな。

よくよく考えたら買い物にも時間が掛かりすぎなんだ。歩いて行くには遠いとはいえ、車でいけば10分ちょっとでそういった店のある区域には着く。なのにこれだけ時間が掛かったといことは……最初からこういう服を買うつもりで、そういった服向けの店舗に行きやがったな。


「お前……俺で遊んでるだろ」

「遊んでなんかいないわ。本気よ」


何に対する本気だよ。

ミズホの答えに俺はため息を吐く。


「はぁ……もういい。シャツの方はちゃんとしたの買って来たんだよな?」

「勿論。もう片方の袋に入ってるわよ」


ミズホが持って帰って来た袋は3つ。うち一個はサンダルなのを確認済みで、一つは今の服のセットだった(靴までついてた)。俺は残りの一つの袋に手を伸ばし、中身を引っ張り出す。


「ああ……こっちは大丈夫だな」


元の俺の体に合わせたサイズのシャツが数枚、それにキュロットパンツも複数。下は半ズボンでもいいじゃねーかと思わなくもないが、これはナナオさんが言ってたままなので別段文句はない。それにベルトと……あれ、なんだこれ?


袋の底に、別の袋が入っていた。俺はその袋を取り出し中身を覗いて……再びミズホをジト目で見た。


「おいミズホ」

「何かしら?」

「なんだこれは?」


先程と同じ言葉と共に袋の中から取り出された俺の手には、下着がぶら下げられていた。女物の。


「ちょ、ユージンさん! そういうのそのまま出すのやめましょうよ!」


慌ててレオがそう言いながら目を逸らす。純粋(ピュア)かよ、別に未使用なんだからただの布でしかないしそんなに気にするもんでもないだろ。ああ、顔まで紅くなってら。


まぁ純真少年は置いておいて、だ。


俺がミズホに視線を戻すと、彼女は肩をすくめて


「いやあなたずっと下着身につけないでいる気なの?」


呆れ顔で言われた。その表情は俺がするべき表情だと思うんだがなぁ……


「なんで女物なんだよ、普通に男向けでサイズ合うのあるだろ」

「いやよアタシ男物の下着なんて買うの」


俺なんでコイツに服買いに行かせたんだろ……普通にレオに行ってもらった方が良かったが、後悔先に立たずだ、買ってきてしまったものは仕方ない。とりあえず事務所で着る用の服はできたし、一応買いにいってもらっているという立場上さすがにもう一回行ってこいというのもアレだ。


俺は取り出していた服を元に戻すと心の中でもう一度ため息を吐いてから、二人に向けて言った。


「気になるところはあるが……二人とも助かったよ、ありがとう。ミズホ、代金はいくらだ?」

「ああ、代金はいいわよ。余計なもの買ってきたし、それにその服結構するし」

「いや、そういう訳にもいかないだろ……ちなみにいくら位したんだ」


俺の問いにミズホが返してきた金額は、ネタ的に買うような額ではない結構な金額だった。え、じゃあ本気で俺に着せるために買って来たのこれ?


結局その後もミズホは支払い拒否してきたので、今回は奢りということにさせてもらった。まぁ元に戻ったら何か奢り返せばいいか……











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