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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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お着換えユージンちゃん


リーグ戦二戦目以降は破竹の快進撃と言ってよかった。

二戦目、三戦目もいずれも4-0で被撃墜機無しの完全勝利だった。特に俺なんかは開幕三戦まで被弾ゼロで、こんなこと口に出したらバッシングされそうだが、正直戦っている感が薄い事このうえなかった。


そして本日第四戦。前シーズン4位で俺達と昇格を争う実力を持つイスファーンとの試合──だったのだが。


「まさか、イスファーンすら圧倒出来るとはなぁ」


チームに用意された控室の中、先程迄の試合を思い出し独り言ちりながら、椅子に腰を降ろしてタイツをゆっくりと履いていく。寒さ対策で履いているので、下の肌が殆ど見えなくなる160デニールの厚手のやつだ。正直ぴったりフィットするようなものは苦手だし履くのも面倒なんだけど、暖かさには代えられない。この時期スカートで素足でいる子は狂気の沙汰だと思う。


「とはいえ、これまで戦った相手の中では一番手ごたえがあったがな」


俺の言葉を拾ったサヤカが、椅子の背もたれに頬をついてこちらの方を眺めたままそう返してくる。

その彼女に突っ込んだのが、同じように椅子に腰かけてこちらを見ているミズホだった。

彼女は肩を竦めて小さく息を吐き、サヤカに言う。


「そもそも、手ごたえがあったってあなたが表現するのがおかしいんだけどね」

「ルーキーがキャリア上の人間に対して言う言葉ではないな」

「むう。だが事実だぞ?」


そう、事実だ。なにせ彼女はこれまで4試合全て一対一の戦いを行っているが、その全てで優勢に勝負を進めている。今日の試合ですらもだ。だから彼女の言いぶりは間違いではない。


近接戦闘、一対一という条件付きであれば彼女の実力はすでにC1トップクラスと言えるレベルにあった。


「化け物め……」

「こら、うら若き乙女に対してその言いようは失礼だぞ」

「そりゃ失礼。まぁでもサヤカもレオもタイマンならC1クラスは超えた感じがあるなぁ。ちょっと悲しいぜ」


サヤカだけではなくレオも実力は上がっている。


今日のイスファーンの相手も前回対戦時はまだ向こうが格上の感じだったが、今日の試合では明らかに実力差が逆転していた。霊力も含めて考えれば今シーズンのC1で相手になるのはそれこそラウドテックの面子くらいだろう。


その俺の言葉に、ミズホがクスクス笑う。


「ユージンは完全な一対一だと厳しいもんね」


事実な部分が大きいので反論できない。相手が強引に距離を詰めてきた場合、距離を詰められる前に落としきれなかったら俺の負けだからな。なので


「うっせ」


とだけ言葉を返して、俺は席を立った。タイツを履き終えたので、後はスカートを履くだけだ。隣の椅子に掛けてあったロングプリーツスカートを手に取り──それから二人をジト目でみる。


「なあサヤカ。お前人の着替え、そんなガン見するタイプの人間なの?」

「何故私だけに言う? ミズホもずっと見ているだろう」

「ミズホはいつものことだからだよ」


あとミズホには普段から服を買うのに付き合ってもらったりしているので、下着姿程度ならもう見られ慣れてるから本当に今更なんだよな。しかもアイツは本当にアウトなところは弁えているからこの状態で直接的なちょっかいを出してくることはないし。


ちなみに、二人はとっくに着替えて私服だ。着替え途中なのは部屋の中で俺だけ。


別に俺の着替えが遅いわけじゃないぞ?


……いや正直ちょっと遅い気はするけどそこまで極端に遅くはない。今俺が一人で着替えているのは、単純に順番で控室を使っているためだ。


俺は基本、ミズホ達と一緒には着替えない。当人たちは一緒で構わないと言ってくるが、俺はあくまで男なのだしそういう訳にはいかないという気持ちは女になって半年以上たった今でも変わっていない。


なので更衣室がある会場の場合二人には更衣室で着替えてもらい、俺は控室で着替えている。


あ、ちなみに俺が共用施設の更衣室を使うことは更にあり得ないぞ。痴漢だと思われたくないし、これは二人に対しても一緒だが痴漢しているような気がしちゃって落ち着かないんだよな……


それで今回の会場なんだが、仮設の施設なため更衣室が無かった。そのため全員控室での着替えとなったので、まず時間がかからないレオ、続いてミズホ達二人、そして最後に俺が着替えているわけだ。


この着替え順は俺の我儘なので出ていってもらうのも申し訳なく結果二人の前で着替えてるわけだが……女性の同性同士が着替えをじっと見るのってどうなんだろうなぁ……男同士と考えた場合、あんまり人の着替えをじっと見つめるような奴は少なくとも俺の友人にはいなかったな。


まぁ、別にサヤカもスケベ親父みたいなねちっこい視点で胸とか股間とかそういうところを見て来るわけではなく、単純に着替えている俺の動きを見ているだけという感じなので、気になりはするものの別に嫌な感じはしない。


この辺はミズホも一緒で、そういう目で見ているというよりは本当に俺の事が可愛くて見ていたいというのがわかるから特に強く拒絶することもないんだが──いや自分で言うと恥ずかしいセリフだなコレ。


しかしアイツが俺の事をそういう目で常に見ているのは今更疑う所でもないんだが、サヤカもそれと同じような目で見てくるのはよくわからん。


「……ミズホならともかく、俺の着替えなんか見てて何が楽しいんだが」

「楽しいというか、見ていて和む感じがするのだ」


和むって……これあれか? 慣れない服を着ようとして四苦八苦している子供とか、あるいは小動物を見ている感覚なのかなぁ。さすがにもう女物の服を着るのも慣れたし、別におかしい所はないと思うんだがね。生まれついての女性から見るとまだ不自然な所とかあるのかな?


「どうしても嫌なら、頑張って視線は外すぞ?」

「頑張らないとダメなのかよ」

「うむ」


即答かよ。


結局のところ、見る時の感情の方向性は別としてミズホと同種ってことか。

俺はため息を吐く。


「ま、別にいーわ。ミズホもいるし今更だ」

「そうか」

「ユージン、最近着替え見られてても気にしなくなったわよね。悲しいわ」

「人が露出狂になったと勘違いされそうな言い方やめろ。あくまで身内の女性に対してだけだし、気にしすぎなのは自意識過剰だろ」

「でも以前は私の方気にしてちらちらみながら、出来るだけ体縮こまらせて着替えてたじゃない。あの姿本当に可愛くて可愛くて……」

「それ、映像残ってないか?」

「あ っ て た ま る か」


着替えの最中まで撮影してくるようだったら、いくら身内で現同性だとしてもさすがに通報してるわ。


「ったく」


二人を再びジト目でみながら、スカートを履き終えた俺は部屋の中にある大きな鏡で自分の全身を確認する。


よし、問題なし。そのまま俺は椅子の上に置いてあったハンドバッグと上着を手に取る。


「行く?」

「レオ待たせてるしな。アイツどこで待ってるんだっけ?」

「自販機の所のベンチで待っていると言っていたぞ」

「自販機って外じゃん……」


まだまだ寒い時期なのに元気だなぁ、アイツ。っていうかそこまで行ってるんだったら、そのままチームの車の方に先に戻ってればいいのに。


「それじゃレオが凍える前に俺達も行くか」

「あの子が凍えてる姿ってあまり想像できないんだけど」

「そりゃ確かにな」


笑いながらミズホにそう返しつつ俺は控室の鍵を開けて扉を開く。


と、丁度目の前の廊下を数人の集団が通りがかった。いずれもまだ私服姿だが、見覚えのある精霊使いの一団。その中に特に見知った顔があったので、俺は部屋から出つつ声を掛けた。


「イスファさん……お久しぶりですね」









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