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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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ルーキーの実力いろいろ

『試合開始』


通信機から流れ出た試合開始の合図と共に、全員が機体を走らせる。


相手チームの編成はオーソドックスな近近中編成。この編成ならいつもはレオとミズホが近距離機を抑えるために突撃するのだが、今日のミズホは俺よりは先行しているもののやや引き気味だ。


その代わりに、サヤカの機体がレオと同じ速度で先行している。


精霊使いの資格取得の際のシュミレーターの結果や資格取得後の訓練結果より、サヤカは近接向き、というよりは近接特化なのはすでに判明している。射撃に関してはイマイチだったが、格闘戦に関しては平均を超える霊力の多さも相まって想像以上の実力だった。


特に、機体の操作に関してが優秀だ。通常精霊機装や精霊は何度も使用して()()()()()()()スペックを出しきれない。


まだ資格取得して一ヶ月前後でしかないサヤカの機体は当然霊力が馴染んでいるとはいえないわけだが、にも関わらずすでにその機体を使いこなしていた。


天才って奴かねぇ。


同じ経緯で精霊使いになったのに霊力も技術も自分を遥かに上回るセンスを見せる彼女に全く嫉妬していないといえば嘘になるが、それ以上に同じチームの同僚として心強い。これからさまざまな面で馴染んでいけば本当に頼りになる前衛となってくれるだろう。


後はそのセンスをどこまで実戦で出せるかだが──


『攻撃開始するわ』


戦場に爆音が響き始める。

最初に戦端を開いたのはミズホだった。敵の後方、中距離型の機体に対して攻撃を開始し、それに応じて向こうからも反撃が開始される。


ただ、まだ本格的な戦闘開始ではない。少々距離があるし、どちらかというと敵の行動を縛るための行動だろう。実際ミズホも敵機も前進を続けている。そしてその前方をレオとサヤカの機体が疾走していく。


あちらさんは数の不利を解消するために最初サヤカを一気に狙う動きを見せたが流石に甘い。レオとサヤカの進行方向を俺が指示し、そこにミズホによる行動の阻害によって前線は3対3の構図になりつつあった。


そして前衛がぶつかりあう。


同時に俺も攻撃を開始した。目標は中距離型の機体。ミズホの相手だ。


今回の方針として、近距離組はまず単体で戦ってもらうことにしていた。目的はキャリアの浅い二人により多くの経験を積んでもらうためだ。


侮る訳でもなく純粋な実力としての判断として、今のウチの戦力だとC1下位のチームなら前シーズンのラウドテック戦などの様に策を弄さなくても勝てる。であれば、そういった相手との試合は個を磨くために利用させてもらう。


チーム戦術も磨く必要があるが、それは上位陣との試合でやればいい。


今シーズンのうちのチームはC1では戦力が突出した形になった以上、ただ勝てばいい試合だけをするだけで済ますわけにはいかない。


大きなトラブルが無ければ間違いなく俺達は次のシーズンはB2へ昇格する。正直断言してもいいくらいの自負がある。であればそこを見据えた戦いをする必要があるのだ。


そしてそこに向けてチーム力を上げる一番有効な手段が、まだキャリアが浅い分今後の伸びしろも多い二人の成長だ。そのためにはとにかく実戦が一番有効。勿論勝利が最優先だから不利になれば支援には回るが──


「いらねぇなぁ、これ……」


ミズホと連携して逃げ道を塞ぐように攻撃を行い敵の中距離機を封殺しつつ二人の戦いに視線を向ければ、どちらも心配いらなそうだった。


レオは相変わらず豊富な霊力を生かして、ある程度の被弾覚悟の強引な攻めで相手の機体をゴリゴリ削っている。


そしてサヤカだが、


「あいつ位置取り上手いな」


彼女は相手の機体の利き腕の反対側となる位置を常に抑えることで、半ば一方的に攻撃を行っていた。

精霊機装は精霊使いの考えた通りに動くとはいえ、全開駆動(フルドライブ)状態じゃない限りはあくまで信号を送る形で機体を動かしているから人間ほど柔軟には動けないし、微妙なラグが発生する。


が、初実戦のハズのサヤカはその分も考慮に入れているように滑らかに機体を操作し、常に相手が武器を振るいづらい位置を取っては日本刀で相手の機体を殴打していた。(ちなみに精霊機装の格闘戦は基本霊力に武器の重さや速度を乗せて殴ることが基本であり、それはメイスだろうが日本刀だろうが変わらない)


「なんなのあの娘」

『味方に対して言う言葉ではないぞユージン!』


こっちの呟き拾って突っ込む余裕まであるのかよ!


『このくらいの動きなら最近やったVRゲームの敵の方が厄介な動きをしてたからな、問題なしだ!』

「にしたって初戦の動きじゃねーわ」

『だとしたら精霊機装は私には向いていたということだろうな!』


テンション高めのその言葉と共に、サヤカは更に刀を打ち付けていく速度を上げていく。


……これ相手側の機体の精霊使い、本当に自分が戦っている相手がルーキーかよと疑っているだろうなぁ。


残念ながらアキツ滞在歴半年未満、精霊使い歴1ヶ月前後、実戦は今日が初めての完璧なルーキーです。


俺が相手側じゃなくて良かったなぁ、これ。相手側自信無くしそうだよね。少なくとも俺が初戦のルーキーにここまでぼっこぼこにされたら、一週間はへこむことになりそうだ。


とんでもない掘り出し物が、味方になってくれた事に感謝だな。


まぁ、これで何にしろ前衛二人は何の問題もなさそうだ。レオも前シーズンに比べると受けるダメージの量が明らかに減っているし。


であれば俺がやることはただ一つか。

俺は敵の中距離戦機に向ける意識の割合を上げ、同時に攻撃の密度を上げる。


『ミズホ! 申し訳ないがまずは彼にはフルボッコになってもらうとしよう!』

『了解~! まぁ美人二人に可愛がってもらえて彼もきっと満足してくれると思うわ』


攻撃してくるのは鋼鉄の鎧で中の人間なんか見えないし、そもそも今の彼殆ど弾丸の雨あられしか見えてないんじゃないかなぁ。


まぁ俺も昨シーズンにクレギオンにやられたことだし、戦力差のある試合ではよくあることだ。甘んじて受けてくれ。なむー。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


結局その後戦況がひっくり返るような事が起きる訳もなく、試合は4-0でエルネストの圧勝で終了した。


C1下位ランクの機体が俺とミズホの全力攻撃に耐え切れる訳もなく早々に脱落。これでもう試合の趨勢はほぼ決定(最初から決まっていたともいえるが……)。俺とミズホがそれぞれ前衛二人の支援に回った事でもはや向こうのチームはなすすべが無くなり、それぞれ撃墜される前に投了した。


俺とミズホはほぼ無傷、レオとサヤカはさすがに無傷とは言わないが二人とも充分すぎるほどの霊力を残しての勝利だ。ほぼ完全勝利である。


そして今、俺達は勝利者としてインタビューを受けているわけだが──


「何なのあの娘」

「ユージンさん試合中も同じ事言ってたっすよね?」

「嫉妬ね!? 嫉妬なのね!? 注目をサヤカに持ってかれて嫉妬してるのね!?」

「ちげーよ」

「大丈夫よ! 次の試合アタシが用意してきた服を着ればまた注目はユージンのものになるわ!」

「話聞けや!?」


これまでの傾向的に間違いなくフリフリのドレス持ってくるだろうお前。そんな格好して試合できるか。


それに、確かに嫉妬はしているかもしれないが、そういった類の嫉妬ではないのだ。


俺は視線を喧騒の方へ向ける。


そこではサヤカが幾人もの記者に囲まれインタビューを受けていた。


今日の俺達3人へのインタビューはあっさりしたものだった。何せ試合が薄味で終わってしまったので話す事もさほどない。何より最近注目を浴びているチームで、ルーキーがルーキーらしからぬ実力を見せつけてデビューしたのだ。そりゃ記者もその彼女に対していろいろ聞きたいことはあるだろう。


それは全然いいのだ、むしろ注目を持って行ってくれて感謝しているともいえる。そんなことより俺が嫉妬しているのは


「なんでアイツあんなにスラスラ受け答えできんの?」


こういうのって初めてだよね? 普通はもっと言葉に詰まったり目が泳いだりするよね?

そんなことを思いながらそう口に出すと、二人が半目というか生ぬるい視線でこっちを見てきた。


「……なんじゃい」

「いや、あれくらいなら普通っスよ?」

「ユージンが弱すぎるのよねぇ」

「いやいやいや、お前らがおかしいの! 俺の方が間違いなく多数派だって!」


世の人間の大多数は注目浴びすぎるとテンパるって絶対! お前らのメンタルが鋼鉄なだけだ!


「まぁでもいいのよユージンはそれで、可愛いし」

「やかまし」


もういいよ、こいつらに言ったところで俺の気持ちは分かってもらえないのは分かったし。


しかしあれだな、こうやってスペックの高さを見せつけられて嫉妬しているのを考えると、サヤカが物語の主人公で俺はそれを妬む性悪令嬢みたいだな?


……いや待て何故令嬢に当てはめた俺!? あああ精神まで毒されてきてるぅー!







誤字報告ありがとうございます。いつも助かります。

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