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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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ユージン、初めてのお泊り⑤


「み゛ゃ゛ーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「すっげぇ悲鳴っスね。どこから声出してるんスか」


ミズホの家のリビングに備え付けられている特大のディスプレイに表示された映像に、思わず俺は甲高い悲鳴を上げてしまった。


悲鳴に驚いてびくりと体を震わせたレオがこちらにそう問いかけてくるが、俺は反応を返せない。

驚きと恐怖で、体が固まってしまっていたのだ。


その様子を見たサヤカが、目を細めてこちらを見ながら呟く。


「──見事なまでのフラグ回収だったな」

「早かったわねぇ」


その呟きにミズホが同調したあたりで、映像のシーンが切り替わった。俺の動きを固めていたそれは画面に表示されなくなり、俺の硬直が解除される。


「っ……」


ごくりと唾を一つ飲んでから、俺は皆に向けて突っ込みを返した。


「お前等、俺じゃなくて画面を見ろよ!?」

「いや、あんな声上げられたらそっち見ちゃうっスよ普通」

「それこそホラー映画で怪物に襲われたヒロインみたいな悲鳴だったわよね」

「そもそもお前等なんであのシーン見て反応しなかったの!?」


俺はちらりとディスプレイに視線を向けると、今は危険から逃げた主人公とヒロインが相談をしているシーンだった。また先程と同じものが出ていない事に安堵する。


先程のシーンは、その、思い出すのも嫌なんだが──主人公の同僚の腹部が破れて、臓物と、それと同時にその同僚に寄生していたミミズのような触手型の生物が飛び出してくるシーンだった。


いや、スプラッタ系かよ! 前の方は幽霊の祟りとかそっち系だったから普通その次もそれ系だと思うじゃん!しかもこの映画、そこまでは多少何かおかしい気配は醸し出していたものの、そういったのを想起させるシーンは一切なかったのにそれである。悲鳴の一つくらい上げるのが普通だ。


そのはず、なのだが。


「私はあの程度くらいなら平気だなぁ」

「俺、ホラー系は全然余裕なんスよ」

「怖かったし驚いたよ? でも悲鳴あげるほどじゃないかなぁ」


マジかよ……確かに俺はグロ系苦手だし(特に臓物系はちょっと……)、それプラス大の苦手の触手なんてきたから過剰に反応した部分はあるけどさぁ。俺以外誰も悲鳴をあげてないのはちょっと恥ずかしいというか……


全員ホラー耐性強すぎだろ。


「なあ、この映画俺向けに選んだ……?」


余りにも俺へクリティカルに決まる内容だっただけにミズホにそう聞いてみるが、首を傾げられた。


「ううん? 単純に半年前位にこっちの世界で人気のあった奴だよ? 恐いとは聞いてたけど」


……だよなぁ。明確に何々が嫌いって話したことないし。こないだのイソギンチャクの時にちょっと情けない姿を見せちゃったから触手に関しては感づかれた可能性もあるが、あの時もキモイって言っただけだしなぁ。


「あー、もしかしてユージンこういうの本格的にダメ?」

「うっ」


映像を停止させ、そう聞いてきたミズホの言葉に俺は言葉に詰まる。


普通に心配げな顔で聞いてきたので、正直に言えば別の映画に変えてくれそうな感じではある。


が、ここで先程の自分のセリフが足を引っ張った。


"悪趣味な話だけど、ホラー映画ってやっぱり怖がる奴がいてこそ盛り上がるよな?"

"できれば誰か一人くらいは怖がるくらいのがいいな"


こんなセリフほざいておいて、いざその一人が自分になったからって皆が普通に見れている映画を別の映画に変更してもらうのってダサすぎない?


……


……


「ユージン、どうしたんだ?」

「どうしたんスか?」


黙りこくってしまった俺を、サヤカとレオが覗き込んでくる。

その二人に視線を正面から返しながら、俺は告げる。


「……いや。このまま見続けよう」

「え、本気で? 無理しなくていいのよ?」

「無理……はちょっとしてるけど大丈夫だ。さっきは全く予想もしてなかったからすごい驚いちゃったけど、そういのが出るのが解ってればそこまで驚くこともないし」


そう、そうなのだ。てっきり俺は幽霊系のホラーだと思い込んでいたから過剰に驚いてしまっただけであって、触手とか苦手は苦手でも出てくるのがわかってれば耐えられる。学生時代とかその手の奴見たときはビビりはしたけど悲鳴までは上げなかったし。


この視聴を止めてしまったら、ホラーに対してイキッたあげくブサマを晒して即時前言撤回したくっそ情けない男のままで終わってしまう。


俺にだってプライドってものがあるんだよ!


レオ……は正直無理そうだが、せめてサヤカかミズホ、特に怖いとは言っているミズホがちょっとくらいは悲鳴を上げるまでは引いてたまるか……!


「え、ほんとにいいの?」


改めて聞いてくるミズホに頷きを返す。あ、でも──


「その前にちょっとトイレ行ってきます」

「えっ、まさか」


そう言葉を続けた俺に、サヤカが口元を抑え目を見開いてこちらを見てきた。

その彼女の反応の意味に気づいた俺は、慌てて両手を激しく振って否定する。


「いや違うぞ!? 多分!」

「多分て。そこは断言しなさいよ」

「……大丈夫だ!」


多分。


しでかした感じはなかったし、今もそんな感触はないから大丈夫──なハズ。

ただほら、散々ビールとか飲んでるわけで、この後万が一の事が起こらないようにね?


「別に戻るまで待たなくてもいいぞ? 先に見ててもらってていい」

「別にそんなに時間が掛かる話でもないだろう。普通に戻ってから皆で見よう」

「そうねー」


……そっすか。


そうして俺が用を足すのをまって、中断されていたホラー映画視聴は再開されたのであった。


あ、ちなみにセーフでした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ずいぶんふわふわしてるな、ユージン」

「ふわふわって?」

「眠そうだって事だ」

「ああ、まぁそれなりに酒飲んだからなぁ」


ベッドに腰掛け、こちらにそう声を掛けてきたパジャマ姿のサヤカに対し、俺は小さく頷きながらそう答える。


今俺がいるのは、ミズホの寝室だった。ベッドが一つに、床に敷かれた布団が二つ。俺、ミズホ、サヤカの三人分である。


さすがにレオは寝室は別。もう一つ個室があるのでそちらで寝ることになっている。


本当は俺もリビングあたりで寝るつもりだったんだが、サヤカとミズホに押し切られて同室になった。

その代わりとして俺が"露出の少ない寝間着にしてくれ"と頼んだので二人とも大人しめのパジャマだ。

ミズホがスウェット、サヤカがシャツタイプのパジャマである。


因みに俺は、オーソドックスな丸首長袖の生地の厚い温かそうな奴。……胸元に可愛らしい動物のイラストがプリントされてる奴な。別に俺の趣味じゃなくて、買いに行ったらサイズが合ってかつ可愛すぎないやつがこれしかなかったので妥協の産物である。


一番最後にシャワーを浴びて、この格好で部屋に戻ってきたら二人にキャーキャー言われることになったが。


──映画の視聴時は一切悲鳴を上げなかったくせにな。


「あ、なんかむくれだしたぞ」

「うっさい」

「え、ちょっとユージン、アタシが見えない状態で可愛いことするのやめて?」


俺の髪を乾かして今は漉いてくれているミズホが、後ろからそう声を掛けてくる。


「そんなことはしてない」

「えー」

「可愛いといえば、先程のユージンは可愛かったな。ビクッとして手をぎゅっと握ってきたりして」

「正直凄かったわアレは」

「手を掴んできたのはお前等だろ!」


そう、俺から握りになんていってない、掴んできたのは二人の方からだ。

恐がってとかではなく、"俺がビクビクしてて可哀想だから"という理由で。


なんてことを言われたけど、あれ悪質だろ! 両手を握られてたせいでこっそり体を背けようとしてもバレるし、驚いて反応した時もばれるし! 絶対お前等楽しんでたよな!?


「だいたい何でお前ら全然平気なんだよ!」

「私はあーいうのはVRで見たこともあるからな。平面の映像だとあまり驚きは感じない」

「アタシは隣の可愛い生き物が気になって、それどころじゃなかったです」


映画に意識を集中しろやオラぁ!




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