新たなる力①
「くふっ、くふふっ……」
抑えようとしても、自然と口から笑いが零れ落ちる。
胸の高鳴りを抑えきれない。この場所こそが自分の本来いるべき場所だと実感する。
そう、
「本業だーっ!」
『いやいきなり叫ばないで?』
『笑い方もちょっと恐かったス』
『アタシ的にはそっちはOK』
「おっと失礼」
笑いだけじゃなくて言葉まで、口からあふれ出しちまったぜ。
あとミズホはもうちょっと俺を見る目を厳しくしろ、全般的に俺に対する許容範囲が甘すぎる。痘痕もえくぼがすぎるというか……。
さっきの笑い方、思い出してみると自分でもどうかと思うぞ。マッドサイエンティストか何かかよ。
『ユージンさん、最近出撃の度に叫んでる気がするっスね』
『溜まってるでしょうから仕方ないわよ。でもさすがに突然叫ばれるとビクッとするからやめて?』
「善処シマス」
衝動的なモノなので、約束はできない。ただまぁ、
「自分で言うのもアレだが、ここから先は大丈夫だろ。そっち方面の仕事量は大分減ったし」
『そうね、開幕までは後2個くらいしかないはずだし』
通信機に向けて言った言葉に、ミズホから同意の言葉が返ってくる。
そう、開幕だ。
元々今のリーグ戦休止は1シーズンを構成する前期後期のリーグ戦の内、前期だけとなっていた。後期は論理崩壊などの発生状況を見て──となっていたが、後期開始予定まで残り1ヶ月となった先日、後期開催が正式に発表された。
論理崩壊の発生状況が想定を下回っており、この発生率であれば開催しても問題ないと判断されたらしい。
ただむしろ想定より減りすぎていて、可能性としてはどこかで大きな規模のモノが来る可能性もあるとのことで、その場合は即以降の試合を延期するとのことだった。
ただまぁ何にしろ、開催が決定したことで各チームはメディア出演を抑えはじめ調整に入ったようだ。昨シーズンのリーグ戦終了から3か月、実戦経験も鈍り始めている時期だし当然だろう。
もちろんウチのチームも同様だ。
『取材も大分落ち着いたっスよね』
レオの言う通り、さすがに例の事件から2か月も立っているからそれに関する取材は落ち着いてきた。
それでもメディアから出演依頼が舞い込んでいるが、その大部分はバラエティ系統だ。
そっち方面は俺が難色を示しているので、チームが弾いてくれている。
だってさぁ、ある程度いう事が決まっている取材だって言葉に詰まったりするんだよ? アドリブが求められるバラエティなんて出たら、自分が何を口走るかわからなくて怖すぎるよ……
そしてその失言でネットの話題とかになるんだぜ。尤も、もう大分こっちのネットは見てないけどな!!!
「とりあえずテレビやネット放送局の出演はもうないよな?」
『ないない。これから開幕に掛けては番組出演は受けつけないって、ナナオさんも言ってたし』
「助かるわ……」
『ああでも?』
「でも?」
『例のドラマの出演オファーは、受けたかったら受けてもいいわよってナナオさんが』
「それもうすでに断っただろう!?」
悪戯っぽい笑いを浮かべて、ミズホにそのセリフを言ったナナオさんの顔が頭に浮かぶ。
ナナオさんってチームオーナーと思えないくらいフランクな人だけど、その分たまにこーゆー揶揄いも入れてくるんだよな。
うん、来てたんだドラマのオファー。勿論話題性を上げるのだけが目的の、メインの役どころではなくちょっとした役だけど……出る訳ないだろう。こちとらCMの撮影クラスの演技でいっぱいいっぱいだし、そもそも時間拘束の大きそうな仕事をこっちにほとんどいない日本人に振ろうとするのは頭おかしい。
「だいたいだな、あのオファー俺だけだったじゃねーか。その時点でお断りなわけだが」
『全員に対して出演依頼が来てたなら出てたっスか?』
「いや、でないけど。でも、明らかにそういう仕事するなら俺よりミズホの方が向いているだろ?」
『アタシに来てたとしても受ける気ないけどね。スポンサーと何も関係ないし』
そう、そこも重要だ。
俺は──いや俺達全員別に芸能界でのし上がりたいとかそんな願望は欠片も持ち合わせちゃいないので、精霊機装関係の取材でもなければスポンサーも関係ないドラマなんて出演する意味は皆無である。
ん? ちょっと待て。例えばテレビ局がスポンサーになった場合とか出演しなくちゃいけなくなるのか?
いやいやいや、さすがにないよな。うん……でもとりあえずその系統のスポンサーが来たときは契約内容確認させてもらお。
「ま、とにかくウチのチームはそういう仕事は基本お断りってことで」
『そうねー。まぁユージンとイチャイチャする役とかだったら出てもいいけど』
『じゃあ俺はその二人を暖かく見守る同僚役で行くっス』
「レオお前、それたんなる普段のお前じゃねーか」
『アタシ達も普段のままだしドラマというかドキュメンタリーね!』
「いや、イチャイチャした覚えはないし……ベタベタはされてるけど」
『うーん……もう一押し?』
「何が?」
これから戦闘になるかもしれないのにアホな会話してるなぁ、と思いつつ周囲を見る。今の所は特に何も変化なし。
ま、試合の前だろうが鏡獣出現前だろうが、気の抜けた会話をしているのはいつもの事だ。二人もそんな話をしつつちゃんと周囲に注意は払っているだろうし、何の問題もない。
今、俺達は各々の精霊機装に乗りこみ、荒野の上に立っていた。移動はしておらず、通常駆動で静止状態だ。
リーグ戦の試合では勿論ないし、模擬戦とかでもない。また最近行っているパトロールでもない。
警報発令からの防衛出動である。実は俺にとってはワリと久々。こないだの一戦はパトロール中での出来事だったし、ほんと数ヶ月ぶりだ。俺の場合土日だけだからぶち当たる可能性高くないからなぁ。
今はすでに予測地域に到着して待機している状態。予測時間までは残り5分を切っているので、そろそろいつ出現してもおかしくない時間帯だ。
「んー、ちゃんと出てきてくれるかなぁ」
『それ問題発言じゃないっスかね?』
『推しのアイドルの出待ちしている追っかけみたいな言い方だったわね』
「いやだってさぁ。俺、サヤカがこっちに来たあの日以降まともに撃ってないんだぜ? もう一ヶ月超えてるぞ」
『それも問題発言じゃないっスかね』
『トリガーハッピーみたいなこと言ってるわね』
「おまえらは途中で防衛出動が入ってただろー」
『ユージンがこっちに完全に移住すれば、もっと頻繁に撃てるわよ。住むところはウチでいいしね』
そう言われてしまうと何も言い返せない。あとシームレスに同棲を提案すな。
『そもそも俺達は別に防衛出動したい訳じゃないっスよ? ないに越したことはないっス』
『スポンサーがいっぱい増えてチーム予算も余裕あるから、防衛出動の報酬もそれほど重要じゃないしね』
「まぁ俺もこっちよりはリーグ戦の方がいいけどな……。っと、来たか?」
モニターの向こう側、一部の空間が歪んだように見えた。気のせいでなければ、鏡獣出現の前兆現象だ。
「どうだ?」
『こちらでも確認したわ』
『同じく確認。結構離れてるっスね』
「今日に関してはそっちの方が都合がいいな。タマモ、精霊駆動に移行」
操縦宝珠に触れて、半休眠状態ともいえる状態にあった機体を目覚めさせる。
俺の意志が伝わるようになった機体にイメージを伝えいつものライフルを構えさせると、通信機からミズホの声が届いた。
『それじゃ予定通り、ひとまずユージンに任せるわよ?』
その言葉に俺は、獰猛な笑み(自分ではそう思ってる)を浮かべて答える。
「ああ、任せろ」
一話でおさめるつもりだったんですが例によって長くなってしまったので分割です……
誤字報告助かります。ありがとうございます。




