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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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ご近所さんが増えました


聞き覚えのない言葉だった。

だが聞き覚えのある声だった。


言葉の聞こえた方向、男の向こう側に視線を送る。


そこには、最近顔を合わせる事の増えた20前後の金髪の女性が立っていた。

彼女は突然の想定していない登場人物に動きを止めた男を一瞥しつつ俺に歩み寄ると、手を差し出してくる。


Los geht's(いこう)

「あ、うん」


何といったのかさっぱりわからんが、行動から考えて「立って」か「行きましょう」かな。


差し出された手を握ると彼女は軽く引き寄せてきたので、その勢いに任せて俺は立ちあがる。


「あ、ちょっと……」


そこで、フリーズから復活した男が慌てて声を掛けてきた。

その言葉に俺が反応する前に、目の前の彼女が男に視線を向ける。


彼女は目を細め、


Sie(君は) kennen sie(彼女の知り合いか)

「あ、えっと……」

Sie hat(彼女は) jetzt(これから) einen(私と) Termin(約束が) bei mir(あるのだが).」

「えっと……ソーリー!」


聞き取る事もできない言葉で立て続けに話しかけられた男は表情を歪ませると、その言葉と共に慌てて小走りに立ち去っていった。

その男の背中を眺めて、彼女──サヤカは嘆息すると共に手を放すと、俺の方に向き直る。


「──確認せず追い払ってしまったが構わなかったな?」

「うん大丈夫、ただのナンパだったから助かった。──さっきのってドイツ語?」

「そうだ。聞こえた会話の内容でナンパではないかと思ったからな。日本人は言葉の通じない異国人が寄ってくると視線を逸らしたり距離を取ったりすることがあるからそうしてみたが、正解だったようだ」


成程、そういう理由だったか。


「いやほんと助かったよ、ありがとう。ナンパされるなんて初めてなんで困ってたんだ」

「おやそうなのか? ……ああ、年齢か、見た目の」

「そういうこと。とりあえず移動しようか、ちょっと視線集めてるし」


周囲を見たら遠巻きこちらの方を見ている連中が何人かいた。恐らく視線を集めているのは彼女の方だろう。うちの駅の辺りでこんな金髪の美人見るのそうそうないしな。その視線に気づいたのだろう、彼女も視線を周囲に巡らしながら頷く。


「そうしようか。あまり遅くならないウチに回っておきたい」


そう言ってから、彼女は何かを思いついたように口の端を吊り上げて笑うと俺の方に再度手を出してきた。


「何?」

「またアルトがナンパされてもいけないしな。離れないように手を繋いでやろうかと」


それ、俺が迷子で手を引かれてるように思われかねなくない?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


サヤカ──サヤカ・マテウスとこちらの世界で会うのは初めての事だ。尾瀬さんの所でも会った事もない。

というのも彼女、言葉の勉強と精霊使いの教習でほぼアキツ側に行きずっぱりらしい。たまに家族や友人に連絡するためにこちらに戻ってきているらしいが、すぐ戻ってしまっているそうだ。


なので彼女と会うのはほぼ事務所。チームの方で事務所の近くに部屋を一個借りてもらいそこに滞在しているらしく、精霊使いの養成所に行く前などに顔を出したとき以外はあまり顔を合わす事もなかったんだが──


「さすがにそろそろこちらの拠点を確定しておかないとな。仕事関連の問い合わせもそろそろ受付再開しないといけないし」


 とのことで、彼女はこの近郊で部屋を借りる事にしたらしい。


この近郊にした理由は単純で、向こうへの転送拠点である尾瀬さんの家があるからだ。それで街の案内を彼女に求められたのである。


ちなみに彼女、元々移住予定で日本に来ていて(彼女は祖父が日本人のため、定住者ビザで来日しているらしい)、定住先を決める前に旅行をしている最中に論理崩壊(ロジカルブレイク)を喰らったそうだ。


祖父が存命ならそこに住んだ方がいいのではと思ったが、どうやら祖父が住んでいるのはかなり人里離れた所らしい。なのでさすがに不便だということだった。


「でもさ、移住するにしても仕事はどうするんだ?」


とりあえず必要なのは生活に必要な情報だろうということで、スーパーや飲食店、衣料品店などを案内して回りながらそういった話を彼女から聞いていた俺は、ふと気になり彼女にそう質問する。


この辺りは地方都市と呼べる場所なのでそれなりに働き口はあるが、当然都心ほどではない。移住して一人暮らしをするなら当然収入源は必要になるわけで、その辺は考えているのだろうか?


そう心配して聞いたわけだが、彼女はその言葉に心配無用と笑みを返してきた。


「貯金はそれなりにあるし、収入源もある。問題ない」

「そうなの?」


こちらに来て間もないのにすでに収入源があるという事に疑問を感じたが、すぐにその疑問は消える。ああなるほど、こないだまでの自分と同じと考えればいいのだ、規模は違うけど。


「成程、別に元居た企業を止めなくてもオンラインで仕事継続できるもんな」

「違うぞ? 私は企業勤めではないし」


あれ?


「じゃあ、いったいどうやって」

「ああ、私はフリーで3Dモデラーをやってるんだよ」

「すりぃでぃもでらー」

「うむ」

「えっと、ゲーム製作とかしてるの?」

「ゲームもそうだし、VRSNSのアバターやワールド製作のオブジェクトとしても使用可能なモデルを作成して販売している感じだな。それなりに稼がせてもらっている。停止しているワンオフの依頼も再開すれば生活していくには問題ない程度にか稼げるだろう。おちついたらどこか勤め先を探してもいいしな」


ほえーと俺は思わず立ち止まり、間抜け面で彼女を見上げてしまう。


「その年でフリーで食べて行けるレベルでやれてるのか」

「モデリング自体は15の時くらいからやっているからな。食べていけるレベルになったのは1年くらい前だが」

「……最近の若い子はすげーなぁ」


思わずそう漏らしたら、サヤカに苦笑された。


「若いって、4つしか違わないだろう。それに外見上はアルトの方が年下だぞ?」

「外見は関係ないだろー。それに元の姿だったら普通に年上に見えるぞ」

「男だった頃の姿か。今可愛らしい君が元がどんな姿だったか興味はあるな、写真とかあるか?」

「あー、どーだっけなー」


元々自撮りなんかしないし、見つかった時にややこしい事になりそうだから少ないデータも概ね処分しちゃったんだよなー。

あ、でもアキツ側にいきゃ数は少ないけどいくらかあるな。


「今度アキツに行ったときに見せるよ。あっちなら映像とか写真とか残ってるはずだし」

「こっちにはないのか?」

「ほぼ処分しちゃったからな」

「そうか。まぁもし見つけたら教えてくれ。すぐに見にいけるし」

「同じ町内だしな」

「そうだな」


彼女は何故か俺の言葉にフフっと小さく笑いながら頷いた。

笑うようなところなんてなかったと怪訝に思いつつ首を傾げた俺に、彼女はその笑みを顔に残したまま言葉を続ける。


「──時間もいい事だし、そろそろ帰るとしようか」

「んー、そうだな」


時間はすでに6時を回っており、陽は完全に落ちて辺りには夜の帳が下りている。


お互いの年齢を考えれば別にまだ問題がある時間帯ではないけど、寒さも増してきたことだしこの辺でいいか。他はまた今度必要に応じて教えてやればいいしな。


「そうするか。サヤカは今日はこっちに泊まるのか?」

「ああ。今日の日中に祖父の所から送ってもらった荷物が届いたが、その荷ほどきも全然進んでないしな。今夜一晩その辺を進めつつ泊って、明日またアキツに戻る」

「そっか。ちなみに部屋はどっちだ?」

「向こうだ」


俺の問いに、サヤカはある方向を指さした。その指さした方角は──俺の部屋がある方角と一緒だった。


「あれ、同じ方角?」

「ああ、出来るだけ近い方がいろいろ都合がいいと思ってな。アルトの部屋の側を選んだ」


そういえば向こうで俺の住所とか聞かれたけど、そういう理由だったのか。


まぁ確かに、お互い事情を知っている人間が側に住んでいるっていうのは都合がいいかもしれないな。


「じゃあ途中までは一緒に帰るか」

「ああ」


──10分後。


「おい」

「なんだ?」

「ここは俺の部屋の前なんだが?」

「そうだな」

「いや、そうだなじゃなくて……お前まさか今晩俺の部屋に泊まる気か!?」

「まさか、事前に頼みもせずいきなりそんなことはしないさ」

「だったら、なんで」


いや、そう聞いてしまったが、もう答えはほぼ分かっている。


俺の住むアパートは2階建て。それぞれの階に6つの部屋があり俺の部屋はその2階の205号室。

そしてその隣の206号室は半年前に住人が引っ越したため空室である。


その俺の予想を裏付けるように、サヤカは通路の先、206号室の扉を指差して笑みを浮かべて言った。


「今日から隣に越してきたサヤカ・マテウスだ。よろしく頼む」




Deepl翻訳です。

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