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週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
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休憩時間


待合室のような場所に設置されている自動販売機で飲み物を買う。

甘いものが欲しい気分だったが、万が一着ている服にこぼしたらどうしようなどと考えてしまい、結局ミネラルウォーターにした。アイアム小市民。


「ふぅ」


ため息を吐きながら変にスカートに皺を付けないように注意して、椅子に腰を降ろす。


レオとミズホ主催の撮影会はまだ完了はしていない。が、さすがに撮り始めてからそれなりに時間が経過したので休憩することになった。……俺が申し出なければ時間一杯迄続いていた気もするが。


今二人はこの場にはいない。俺が休憩を取っている間に、スタジオの貸衣装から別の衣装を探してくるそうだ。尚サイズに関してはミズホが完全に把握しているとのこと。


というわけで一人休憩タイムである。


正直格好が格好だし部屋の中でおとなしくしていようかなとも思ったんだが、喉の渇きもあったので部屋のすぐ側までにあるここまで出てくることにした。今日はあまり利用者がいないらしいし、最悪人に見られたところでどうせこの格好は全都市ネットで流れる姿だ、気にしてもしょうがないよなウフフ……


まぁ着替えてくればよかったんだが、どうせこの後もう一回着替えるの確定してるしなぁ。


「はぁ」


もう一度ため息を吐いてから、ペットボトルのキャップを空けてミネラルウォーターに口を付ける。よく冷えたそれは、撮影で少し火照った感じのある体に心地よかった。


ペットボトルの3分の1くらいを飲み干してからキャップを閉じて横に置くと、俺は先程までの事を思い出す。


「……楽しそうだったなぁ、アイツら」


表情だけじゃない、声も、というか全身から楽しいという気持ちをあふれさせていた。


「ま。いい事だ」


今回の撮影会はこないだの約束の履行なわけだが、俺の中ではそれ以外に普段世話になっている分のお礼も兼ねている。この姿になって以降、あの二人にはマジでいろいろ世話になってるからな。あとここ最近のもろもろのせいで、あの二人の前ならこのくらいの格好をするのは気にならなくはなってきてるし。


それを言うと調子に乗られていろいろ要求されそうだからいわないけどな。ま、今日の二人の様子を見れば充分礼になってるだろうしいいだろ。


「さて、戻ろうかな」


人の通りがないとはいえ、わざわざ長居する理由もない。後は部屋の中で待てばいいだろうとペットボトルを手に取り席を立つ。


丁度その時だった。


「あ」

「あ」


丁度通路の向こう側から歩いてきた人物と目が合う。


「秋葉ちゃん、どうしてこ」

「きゃー! ユージンさん何ですかその格好、可愛い!」


俺の口から漏れ出ようとした疑問の言葉は、同時に放たれた黄色い悲鳴にかき消された。

現れた人物──秋葉ちゃんは通路から俺の方へと駆け寄ってくると、至近距離から俺の全身を見回しながら顔を輝かせ


「すごいすごい可愛い! ものすごく似合ってます! 何かの衣装ですか?」

「あ。うん……CMの」


彼女の勢いに流されるようにそう答えると、彼女は俺の手を取って来た。


「奇遇ですね! 私達も今日CMの撮影だったんですよ」

「あ、そうなんだ。その格好で?」

「はい、そうです!」


秋葉ちゃんの格好はちょっとだけ派手さはあるものの、日常の範疇からははみ出していないものだった。羨ましい──ん、私達?


ああ、金守さんかと思い、秋葉ちゃんがやって来た方角に視線を向けると想定通り金守さんが立っていた。彼女は俺の視線に気づくとにっこりと笑みを返してくる。


うん、そこまではいい。ちょっと笑みが秋葉ちゃんのような純粋なものじゃない気がするけど、それはいい。


その隣に想定外の人物がいた。


精悍な顔をしたその人物は、金守さんの横で膝をつき、こちらを呆けた様子で見つめている。

そしてその口から言葉が漏れる。


「女神だ……女神がいる……」

「いやこんな場所で人に向けて手を合わせるのやめて貰えますかねラムサスさん!?」

「おっと、申し訳ない体が勝手に」


俺の言葉に即座に頷き、俺に向って祈りを捧げようとしていた人物──うん、こんなことする人は一人しかいないよね──ラムサスさんが、眼前で合わせようとして手を下に降ろす。


「いきなり目の前に神々しい姿が見えたので自然と体が動いてしまいました」

「噂には聞いてましたけど──噂以上ですね」


どんな噂なのか金守さんに聞いてみたい気もするが、怖い回答が帰ってきそうなのでやめておこう。


「とりあえず普通に立ってください」

「わかりました」

「それで、ラムサスさんはどうしてこちらに?」

「私や秋葉ちゃんと一緒のCMの撮影があったんですよ」

「別チームの人間が集まって撮ってんの?」

「私達3人だけですけどね。アズリエルのスポンサーなんですけど、別に他のチームの精霊使いをCMで起用しちゃいけないなんてルールはありませんし」


ああ、そりゃそうか。ウチが(俺の要請で)基本スポンサー企業のCMにしか出ない事にしてるから勘違いしてたわ。よく考えたらミズホなんかはチームスポンサー以外の広告とか出てたりしてるし。


「本当はユージンさんにもオファーを出したそうですよ」

「あれ、そうなの?」


問い返す俺に、秋葉ちゃんがコクリと頷く。


「ご一緒したかったですー」

「あはは……ごめんね、ウチはスポンサー以外のCM依頼は受け付けてないから」

「まぁ私や千佳ちゃんもそうなんで仕方ありませんね。というか、やっぱり自チームのスポンサー以外のを受ける人って少ないんですかね?」


秋葉ちゃんの言葉に、首を振ったのはラムサスさんだった。


「いや、そんな事はないな。割と皆普通に受けるハズだぜ」

「でも今回イスファさんにも断られたらしいですし」

「ああ、アイツは今自主謹慎中だから」

「自主謹慎?」


俺が繰り返すと、ラムサスさんは頷いた。


「犯人が自チームの所属でしたからね、今は自分は表に出るべきではないと思っているようです。それと」


そこでラムサスさんが視線を落とした。向けられた先は──俺の左手。


「ユージンちゃんの前にも当面顔を出すべきじゃないと考えているみたいです」

「……イスファさん抱え込むタイプだったかぁ」


多分事件の主犯格にチームの同僚がいて、その事件の中で俺が怪我したから合わせる顔がないとでも思ってるんだろうけど。俺を殴ったのはガウルだし、同僚が事件を起こしたのだって思考誘導を受けていたせい。何よりイスファさんは事件を起こした側には一切かかわってないんだから、引け目を感じるところなんて何一つないんだが。


生真面目な人だし、そう簡単に割り切れないか。


「とりあえず俺の方からメールでも送っておきますよ。あんまり私に対して引け目感じてると怒りますよって」

「怒られたい」

「……へ?」

「いえ失敬、何でもないです。そうしてやってください」

「? はい」


なんだろう、途中で妙な発言が聞こえた気が……まぁいいか。この人の不規則発言気にしててもしょうがないし。


「それで、秋葉ちゃん達はこれから帰る所かい?」

「いえ、この後雑誌のインタビューがあって。そちらもラムサスさんと同席なので、一緒に向かうところだったんです」

「そうなんだ。だったら早くいかないと不味くない?」

「まだ大分時間に余裕があるので大丈夫です。あ、ユージンさん折角だから2ショット写真撮らせてもらっていいですか? その可愛い姿撮りたいです」

「SNSに上げないなら。後あまり可愛い連呼は勘弁して」

「りょーかいです。あ、ラムサスさんごめんなさい、もう少し大丈夫ですか?」

「気にしなくていいよ」

「ありがとうございます。千佳ちゃん、撮ってもらっていいかな?」

「任せて」


金守さんは頷くと、懐からスマホを取り出しカメラのレンズをこちらに向ける。


「はい、秋葉ちゃん、ユージンさんポーズ撮ってください」

「こんな感じかなー」


秋葉ちゃんは腰を少し落として俺の身長に合わせると、首を傾げるようにして俺の方へと寄せてきた。


「ユージンさんも」

「あ、うん」


言われた通り、俺も同様に首を傾げて頭を寄せる。ついでに秋葉ちゃんが小さなピースをしていたのでそれも真似て置く。


「千佳ちゃん、おっけ」

「はい、いきます」


シャッター音が数度、鳴り響く。


「綺麗に取れたと思います」

「ん、千佳ちゃんありがとー。ユージンさんもありがとうございます」

「いえいえ……ん、どうしたの?」


お礼の言葉と共に頭を下げた秋葉ちゃんが、顔を上げた後じっと俺の顔を見つめてきた。その表情がちょっと困ったようなものだったので、俺は顔を覗き込むようにしてそう問いかける。


その問いに彼女は


「あの」

「うん」

「あのあのあの」

「うん、ちょっと落ち着いて。どうしたの?」

「もう一個だけお願いしていいですか?」


そう言って彼女は、少しだけ上目遣い。もう一枚写真撮りたいってことかな。


「うん、いいよ」


俺が頷くと、彼女の表情が喜色満面になった。そして俺の方に身を寄せてくると、耳元で囁くように言った。


「あのあのあのあの。その姿で秋葉お姉ちゃんって呼んで欲しいです」

「はひ!?」

「あっあっあっ、やっぱり駄目ですか?」


いやそこで嬉しそうな表情から一気に悲しそうな顔に変わるのずるい! ていうか秋葉ちゃん間違いなくこないだのアレで変なモノに目覚めたな!?


あーもう、内容確認せずに安請け合いした俺が悪い!


俺はラムサスさんと金守さんの方へ振り返ると、二人に向けて告げる。


「ちょっと二人とも耳を塞いでもらっていい? 秋葉ちゃんにだけ伝えたいことがあるんだ」

「わかりました」

「はい、どうぞ」


二人は俺の頼みに素直に従って、耳を塞いでくれた。ありがたい。俺は秋葉ちゃんの方へ向き直ると、一つ深呼吸をしてから彼女に体を寄せ、二人には聞こえないように囁き声で言った。


「秋葉お姉ちゃん」

「きゃーっ! 可愛い!」


いやちょっと待って抱き着かないで!


あとなんでラムサスさんは倒れてるんだよ! それに金守さんはニヤニヤ笑ってるし絶対二人とも聞いてたろこれー!














いつにも増してぐだぐだになりましたがご容赦ください。


それとブクマが200を超えてくれたようです。ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
サブキャラもいいキャラしてて好き イスファさんもラムサスさんも無敵のおばあちゃんも
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