ユージンちゃん撮影会
最近はもう、女物の服を着る事に対する抵抗感はほぼなくなってきている。
女性化してからしばらくはスカート等を履いたときどうしても「女装している」という意識が強く出てきてしまったが、さすがに数ヶ月も着ていればそういう違和感を感じなくなってきた。普通に鏡を見て、似合っていると思えればそれでいいと思うようになってきている。それがいい事なのか悪い事なのかはわからないが……体型の都合上男性用やニュートラルな服だと殆ど似合う服が見つからないので、仕方ないことだとは思う。
なので、最近はアキツ側に来るときもスカートが多い。当初の頃は頑張って探したパンツルックで来てたけどだんだんめんどくさくなっちゃってな……ただそろそろスカートに生足はしんどい季節になってきたから、本当はズボンにしたいけど。まぁ諦めてタイツ履くしかないかなぁ、肌にピッタリ付くようなの好きじゃないんだがなぁ。
閑話休題。
女物に慣れたといっても、あくまでそれは普段着のレベルに限った話である。
スカートから胸元から袖から、これでもかという程フリルの取り付けられた白と若草色のドレス。こんなの俺が元から女だったとしても恥ずかしさを感じるだろといった服を、今俺は身に纏っていた。自分の貧相な想像力でいえば、可愛いもの好きのお嬢様が来ているような服だ。この姿がお茶の間に流れるのかと思うとしんどいものがある。
そう、なんでこんな格好をしているのかと言えば、今日も今日とてCM撮影である。これで3社目だ。
今日のスポンサー企業はスマホゲームメーカーだった。この格好はゲームのキャラらしい。
元々俺はこっちの世界ではスマホというかゲーム自体手を出していないが、特にこのゲームに関しては絶対
手を付けないと心に決めた。
だってどんなキャラかもよくわからないのに自分がコスプレしたキャラクターなんて、どういう目で見ていいのかわからないよ……元から知っているキャラだったらまだしも。
いや、知っているキャラだと今度は演じる時が辛いか。
ただ今回の衣装に関しては、クレアウィズの時みたいなエロさのある奴よりは百倍マシだ。あくまで比較したらって話だけどさ。
そういう意味では2社目の自動車メーカー、ラズロック社は良かったな……女物とはいえ、普段着とさほど変わらない衣装で3人で車に乗って会話しているだけで良かったし。ありがとうラズロック社、俺こっちの世界で免許取った時はラズロック社の車買います。
「ユージン、なんか視線が虚空に向いてるけどどうしたの? ちゃんとアタシを見て?」
「……ああ悪い。ちょっと自分が将来乗る車について考えてた」
「意味わからないんだけど? 目の前にこんなキメた美女がいるのにあんまりなんじゃないかなぁ」
そう口にする正面に立つ女性──ミズホの格好は悔しいが確かにキマっている。
身に纏うのは燕尾服。銀色の髪を今は後頭部で纏め、中性的な雰囲気を醸し出している。ただ胸元は彼女が女性である事を激しく主張しているが。
彼女の格好も俺と同じゲームキャラのモノだ。男装の麗人で、姫である俺のキャラに仕える従者キャラ。
はい、俺の配役はお姫様キャラでーす。
中身的には逆じゃないっスかね、配役。王子様って柄じゃないけどさ。
ただ外見的にはミズホだけじゃなくて俺の方も割とがっつりキャラにはまってたのが笑えない。スポンサーの会社の人には「4か月後の4周年イベの時もよろしくお願いします!」とほくほく顔で言われたし。わぁい、スポンサー様に大好評だよ、わぁい……
いやマジで喜ぶべきところではあるし今更泣き言を口には出さんけどな? 心の中で思うくらいは許してくれ。
「ほらほら両手握って握って」
顔を緩ませたミズホが差し出してくる手に俺が掌を合わせると、彼女は指を絡めるようにして俺の手を握りこむ。そしてその状態のままゆっくり顔を近づけるミズホに、俺はジト目を向けつつ言ってやる。
「今のだらしないお前の姿、ゲームのファンが見たら"こんな表情ありえない"って炎上するよな」
「だらしないって何よ?」
「鏡で自分を見てみるといいぞ。──顔緩み過ぎ。そのキャラクール系だろ、確か?」
「別にいいじゃない。ここで撮った写真、私とレオ以外で見るとしたらチームの人間くらいだし」
「チームの人間に見せるのもやめて欲しいところなんだが……」
洋風の屋敷の一室を模したであろう、家具や調度品の並べられたスタジオ。今その空間の中にいるのは俺とミズホ、それにスマホではなくデジカメを構えたレオの3人だけだった。他の撮影スタッフやスポンサーの姿はどこにもいない。
当たり前だ、CM撮影はとうの昔に終わっている。撮影の関係者は皆撤収し、ナナオさんも用事があるというのですでに姿を消している。マテウスさんはそもそもこないだが顔合わせで来ていただけで、今頃は必死に勉強中だ。当然この場所にも来ていない。
じゃあなんでまだこんな格好してポーズを取っているのかと言えば、だ。
はい先日の出動時にした約束の件です。ご褒美上げるっていっちゃった奴ね。二人してきっちり覚えてたし請求してきたので、支払っている最中になります。俺は約束を守る男なんでな……!
恰好がCM撮影の衣装のままなのは、ミズホがスポンサーの方に頼んだため。せっかく可愛い格好してるんだし今日撮ろうよといいだした彼女が、SNS等にはあげないプライベートの撮影に使っていいかとお願いしたら、いや別に上げてもらってもいいですよという言葉と共になぜかあっさり許可が出てしまった。なんでだよ。後、絶対に上げないけどな。
それでまぁ、衣装はキープできたので同撮影スタジオ施設内の小規模の部屋を借りて(費用はミズホとレオ持ち)撮影に突入しているわけである。
「ほら、二人とももっとくっついて欲しいっス!」
「カメラマンさんのご希望よ! ほらぴとーってしましょぴとーって」
「お前等俺に対して欲望を隠さないよな」
早々に性癖カミングアウトしてきたような連中だし、何を今更な話だけどな。
ミズホと両手を繋いだまま、彼女の方に体を寄せる。吐息がかかるくらいまで近寄って
「これくらいでいいか」
「もっとよ、こう!」
レオの方に顔を向けたら、横からミズホが頬を押し付けてきた。──ほんとこの姿になって以降ミズホの距離感がどんどん近くなって来ている。
最初の頃はこれで散々ドギマギさせられたものだ。いい加減慣れてきたけどな。ただもう一カ所押し付けられる方は今でもドキドキするのは、男の意識がちゃんと強く残っている証拠だろう。
「ういっす! 素晴らしいっす!」
左の頬にミズホの肌のぬくもりを感じつつも、レオがシャッターを連写しているデジカメに身を晒す。
何回シャッター押すんだよという回数を押してから、ようやくカメラから目を離すとレオは満面の笑みを浮かべて、次のポーズを指示してくる。
「次は後ろに回る感じがいいんじゃないっスかね!」
「俺がか?」
「ユージンが後ろに回ったら写らなくなるでしょう、こうするのよ」
絡めていた手指を放し、ミズホが俺の背後に回る。そして背後から俺の胸元に手を垂らすように降ろし、軽く抱き寄せてきた。
「こんな感じよね?」
「そんな感じっス!」
後頭部に胸が。胸が。
「ユージン? どしたの?」
「ナンデモナイデス」
本当にコイツ俺が元男っていうの忘れてるんじゃないかなー。後、男だとはいえ今や自分にもあるモノなのにドキドキするのもある意味不思議感はあるかもしれない。
「なんか頬が赤くなってていい感じっスね! 最高っス!」
鼻息荒くしながら、レオが再びシャッターを連写。
そのレオに対し、ミズホは少し俺を抱き寄せる力を強くしながら楽しそうに言う。
「あー、私もみたいー。まぁ後でデータ見るのを楽しみにしとこうかな」
「事務所戻ったらデータコピーっスね」
「よろしくー」
「……マジでデータ管理はちゃんとしろよ。変に流出させたら二度と撮らせねーからな?」
「了解っス。完璧なセキュリティを心がけるっス」
「それでまぁ、大分枚数撮ったし今日の撮影はこんなもんで終わりでいいよな」
「何言ってるの? スタジオのレンタル時間はあと1時間はあるわよ?」
「いや、さすがに後1時間も撮影は無茶が……」
「ここのスタジオでの貸衣装もあるから衣装変えてもっといっぱい撮ろ?」
ニコニコ。
そうこちらを見下ろしてくるミズホの雰囲気は、誘うような言葉とは裏腹に「せっかくのチャンスなんだから逃がさないよ」と言っているように見えた。
──失敗した。なんで俺約束実行前に時間指定しなかったんだ。
「……とりあえず少し休憩させてください」
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