表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
週末の精霊使い  作者: DP
2.女の子にはならないけど、女の子の体には慣れてきた
102/345

ユージンも大好き

日本語とアキツの言葉の会話が混在となるため、日本語の発言は

《》で記述しています。


森の中は静寂に包まれている。


その森の中の巨木の一つの元に、二つの人影があった。


一つは、羽衣のような向こう側が透けて見えるほど薄い絹のドレスを身にまとい、巨木の地上に張り出した根の上に浅く腰掛けたミズホ。


そしてもう一つは彼女と同じドレスを身に纏った──俺だった。


ミズホと俺の目が合う。


彼女はニコリと柔らかい笑みを浮かべ、優雅な動きで立ち上がりゆっくりと歩を進めると、あるモノの前で立ち止まる。


彼女の正面には、したたり落ちる水の流れがあった。水道の蛇口を軽くだけ開いたような弱い勢いで降り注ぐそれは、まるで森が生み出しているかのように巨木の枝から零れ落ちている。


彼女は目を瞑ると、木漏れ日を受ける美しい銀色の髪をかき上げ、その水の流れへ横から口を付けた。そしてこくこくと艶やかなその唇で、したたる水を飲みこんでいく。


「……ん」


小さな声。その声と共に彼女が水の流れから口を離した。そして一歩下がると俺にも勧めるように、水に対して伸ばした右手の平を向ける。


その誘いに応じて、俺も水に対して一歩歩を進める。そしてミズホのように直接口を付けるのではなく、両掌を合わせて作った小さな器で流れ落ちる水を受け止めていく。


冷たい水が、俺の手の中に溜まっていく。


それほど強くない水の流れ。だが俺の小さな手の器は、すぐに溢れるほどの水で満たされる。


俺はその水に満たされた手のひらを口元に引き寄せ、そっと口を付けた。


冷たい水が、体の中へと浸透していく。俺はそれを堪能するように一度目を瞑ってから改めて目を開き、いまだ掌を満たしている水を()()()()()()()差し出した。


そして精いっぱいの笑顔と共に、定められた言葉を口から紡ぐ。


「ユージンも大好き、クレアウィズの天然水。あなたもどうぞ」


……


……


「はいカットォ! OKです!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「やっと終わった……」


複数のカメラと大勢のスタッフ、そしてレオやナナオさん達見学者の視線からようやく解放された俺は、その言葉と共に大きくため息を吐いた。


どっと疲れが出たので木に寄りかかるか地べたに腰を降ろしたい気分なのだが、今着ている衣装を汚すのも不味いと思い踏みとどまる。ちょっとでも汚れるとすごく目立ちそうだしな、これ……


「お疲れ様っスー」

「ユージン、お疲れ様」


前方からレオやナナオさん達が労いの言葉と共に歩み寄ってきて、


「初CM撮影お疲れ様だね、ユージン」


後方からはミズホが、言葉と共に肩に手を回してきた。


そう、今日は最近新しくチームのスポンサーになったクレアウィズ社のCMだった。

クレアウィズ社は飲料品メーカーで、今度発売される新製品のミネラルウォーターのCMに俺達は抜擢されたのである。


……チームと契約が締結されたのは2週間前なのに展開早すぎない?と思っていたら、どうやらあの一件の直後すぐから俺達を想定してCMの絵コンテの作成に突入していたらしい。動き出しが早すぎる……


「一応この後最終チェックして、問題なければ撮影終了になると思うわ」


これまでにも数度CM出演経験があるミズホが教えてくれる。

俺は、その彼女を見上げ


「ミズホもお疲れ様。悪かったな、何度も付き合わさせて」


そう、謝罪した。その言葉にミズホは笑って、


「気にしなくていいわよ。間近で可愛いユージンがたくさん見れたもの」


ちょっとだけ茶化すような感じでそう言葉を返してくる。

いつものミズホの言いそうなことではあるが、今に関しては俺にあんまり気をつかわせないような気づかいも入っているだろう。


なにせ、先程の撮影は10回目。それまでに9回NGを出している。そのNGすべてが全部俺が原因だ。


1回目は完全に頭が真っ白になってて動き出しから失敗。2回目3回目も緊張で動きがガッタガタでNG。4回目、5回目は照れが入りすぎてダメ(現場監督曰く、大分顔が真っ赤だったらしい。スポンサーの会社の人が「これはこれでありなのでは?」などと口を挟んだが、さすがに不自然ということでアウトになった)。少し休憩を入れて6回目はセリフが頭から飛んでアウト。7回目は声が裏返っちゃってアウト。8回目は失敗続きの焦りからかつまずきかけてNG。9回目は一通り上手くいったけど何やらダメなところがあったらしくNG。で、10回目でようやくOKである。


自分自身が疲れ切ったのは勿論だが、それ以前に一度もミスもしてないのにずっと付き合う羽目になったミズホには本当に申し訳ない。


「後で甘いものでも奢るわ」

「あら、お詫び? お詫びとしてなら、アーンして食べさせてくれるかしら」

「……外の店じゃないなら」

「事務所で! 事務所でお願いするっス!」


レオうるさい。


「あとできればその格好のままがいいわね」

「それは勘弁してくれ。このエロ衣装は早く脱ぎたい」

「エロ衣装て。ちゃんとインナー付けてるじゃない」


うんまぁ確かに。今俺とミズホがつけている羽衣のような衣装は生地が薄すぎてその向こう側が透けて見えてしまうため、その下に競泳水着のようなインナーを身に着けている。だから際どい所が見えてしまう心配などはないのだが……


でもこういうの、普通の水着よりむしろエロく感じたりするの、分かってくれる同士はいるだろうか?

あとこれ人が着るのを見るならエロさや色っぽさを感じるだろうけど、自分で着るとなると恥ずかしいだけである。


「とりあえず羽織るもの貰えるか? さすがにちょいと肌寒い」

「あ、それはアタシも」

「ういっス、どうぞっス」


レオが差し出してくれたジャケットを、俺とミズホは受け取り羽織る。本当はとっとと車に戻って着替えたいが、最終OKが入る前に着替えるわけにもいかんしな。ああ、でも一枚着るだけで肌寒さも恥ずかしさも大分違う。


「あとは無事OKが出るのを祈るか……」

「多分大丈夫じゃないかしらね? さっきのは全く問題なかったと思うわよ」


俺の呟きに、ナナオさんがそう言ってくれる。


「特に最後の所、うっすらと頬も染まってていい感じだったわ」

「えっ、嘘、まだ紅かったですか!? それじゃ撮り直しになるんじゃ」

「うーん、大丈夫だと思うわよ。監督さんもスポンサーさんも満足そうにうなずいてたし」

「でも頬を染めて大好きなんてセリフ言うなんて、確実にあのシーンだけ切り抜かれてネットに流される奴っスよね」

「動画サイトに"ユージンたん大好き10分間耐久"とか他の発言と組み合わせた奴とかその類の動画は間違いなくあがるわね」

「やめろぉ!!」


ああ、現時点でもこっちのネットとかほぼ見ないようにしてるのに、更に見づらくなるじゃねーか! というか、これでテレビも見づらくなったよな。特に精霊機装関連の番組の時間とか確実に流れるだろうし、このCM。


番組見ている最中に突然流れ出したりしたら憤死するぞ俺、間違いなく。


「俺、しばらくテレビもネットも見ないわ……」

「アタシしばらく車の中や事務所でこのCMエンドレスで流すつもりなんだけど?」

「虐待やめろ」

「冗談よ。あ、でも今日の撮影データはNG分含めて全部貰って、自宅でしばらく流しっぱなしにするつもりだけど」

「それも冗談だな?」

「こっちは本気よ? 別に家の中ならいいじゃない」

「ああミズホ、そのデータ私の方にも後で貰える?」

「ナナオさん!?」


想定外の方から来た言葉に俺が慌てて彼女の方を振り向いて悲鳴に近い声を上げると、これまでナナオさんの後ろで黙ってこちらの話を聞いていた女性がクスクスとした笑みと共に口を開いた。


《実に和気あいあいとした職場だな》








いつも読んでくださる方、ブクマや評価やいいねしてくださる方、ありがとうございます。


何か今日の話過去一でスムースに書けた気がする……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どのくらい経済効果があるのか… そろそろパパラッチとかもスタンバイしそうかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ