全力出せばお前等なんか恐くねぇんだよ
日本語とアキツの言葉の会話が混在となるため、日本語の発言は
《》で記述しています。
外見は完全な外人さんだったが、その口から流れ出た言葉は多少イントネーションに違和感があるものの流暢な日本語だった。驚きと共に、俺の口から自然と安堵のため息が漏れる、
言葉が通じるなら話が早い。
とりあえず操縦宝珠からあまり長い事手を放していると全開駆動状態が自動的に解除されてしまうので、操縦宝珠に手を置いて操縦席に腰を降ろしながら正面に立つ膝立ちの女性の碧い瞳を見つめ、
《大丈夫だ、完璧に通じる。細かい事情は後で説明するけど、この中なら安全だから安心して欲しい》
《ここはなんだ、トクサツの撮影中なのか?》
こんなの実際に動かしながら撮影してたらそれはもう特撮じゃないよなぁと思いつつ、俺はもう一度後方の椅子を指差し、
《その辺も含めて落ち着いたらちゃんと説明するんで、そこにある補助席に座って体を固定してくれ。場合によっては結構揺れる可能性があるから急いで》
《……承知した》
なんか固い口調だなとも思うが、意志疎通ができるならどうでもいい。
彼女は明らかに困惑や驚愕を感じさせる表情を浮かべていたが頷くと、俺の後方に回り補助席へとベルトで体を固定していく。
状況的にもっと錯乱状態になっていたりこちらを問い詰めにきてもおかしくない状況だったが、素直に従ってくれるらしい。冷静でいてくれて非常に助かる。ようやくツキが回って来た感じだ。
なにせまだ状況が終わったわけではない。
俺自身もベルトで体を固定しながら、ハッチが閉じたことによって再展開された正面モニターに目を向ける。
そこでは、丁度レオの機体がサメの一体に駆け寄り組み付いたところだった。
明らかに先程より移動速度が上がっているので恐らくレオも全開駆動に移行しているようだ。
レオはサメの巨体をがっちり抱えると、かなり強引にその巨体を持ち上げる。
そこに連続して銃弾が撃ち込まれた。ミズホの銃撃だ。
撃ち込まれた弾丸はあっさりとサメの体の数カ所に穴を空け、当然その先にいるレオの機体にもぶち当たる。モニター端に表示されたレオの霊力ゲージが割とガツンと減る──が、機能停止までにはまだまだ程遠いラインだ。
だがサメの方はそうもいかない。打ち抜かれたその巨大な体躯は、次の瞬間にはバラバラと崩れ消失していった。
脆い。やはりこれは"意識映し"で間違いなさそうだ。となるとやっぱり完全に俺が犯人──まぁそれは置いておいて。
先程俺が提案し、たった今二人が実行した戦法は完全に消耗度外視の短期決戦用だ。通常のシーズン中の防衛戦ならまず選ばない戦法ではあるが……そもそも現在の状況が特殊すぎるし、当面リーグ戦の試合がない今の状況なら消耗も大きな問題にならない。
ここで消耗しすぎたとしても、この戦闘を理由に次回以降の防衛出動のスケジュールを調整してもらえばいいだけだ。
だから、俺は後ろの補助席に座っている女性を振り返って
《すぐ片付けるんで、ちょっとだけ待っててね》
《うむ》
空返事が返って来た。彼女の視線は俺ではなくモニターに注がれている。
安全圏で見るなら迫力のある一大スペクタクル映像だし、まぁわらかんでもない。とりあえず大人しくしててくれるならいいか。
俺も視線をモニターに戻すと、言葉を日本語からアキツの方の言葉に戻して通信機へ向けて言う。
「こっちもう大丈夫だ、復帰する!」
『救助対象は大丈夫なの?』
「操縦席の中に回収したから大丈夫だ」
『それ大丈夫なんスか?』
「同郷だったからな、問題ない。今もおとなしくしてくれてるしな」
言いながら俺はモニターに視線を巡らし水面を走る背びれを探す。
──いた。
レオの方に向って一体、俺とミズホのいる方向へ向けて一体。恐らくミズホ狙いだとは思うが行動が不規則なので確定はできない。
ま、どっちでもいいがな。
こちらの機体の動きが全開駆動によってよくなっているのに対し、サメの動きは半減とはいわないまでも明らかに落ちていた。
恐らく全力ではないだろうが、ミズホが【沈む世界】を使用してたのだろう。であれば猶更短期決戦だ。
この速度なら……うん、行ける。
「レオ、右側の方押さえておいてくれ! まず俺とミズホで一匹沈める!」
『了解っス』
『タイミングは?』
「俺が撃てっていったら2秒後、進行方向の左全面を頼む」
『わかったわ』
連中は割と無茶な軌道で泳いでいるが、さすがにあの速度で突進してきてからのバックはないだろう。だとすれば進行方向に一斉射撃してやればどれかぶち当たるハズだ。
さっきまでの速度だとそれもなかなか難しかったが、今の速度なら充分狙える範疇だ。
大分離れた距離までいっていたサメは、俺達の方へ向けて多少迂回するようにして泳いでくる。俺はそいつに向けて銃口を追いかけさせながら、じっとタイミングを待つ。
静寂。
サメはミズホと俺の間を抜けるような位置でこちらへ直進し──そして途中で方向を変えた。
俺の方へと。
「撃て!」
同時に俺は叫んだ。そして一呼吸おいて、さっきぶん投げてしまった実弾のライフルと射程が足りない装備を除いた全ての武装をサメの方へ向けて発射する。
轟音が響く。
サメが進んだ場所にいくつもの銃弾や砲弾が一斉に降り注ぐ。
結果は予想通りのモノとなった。
2方向から襲った銃撃の嵐。それに気づいたサメは咄嗟に体を捻り躱そうとしたが、速度の落ちたその巨躯で銃弾を躱しきれるハズがない。俺とミズホがばら撒いた攻撃の内数発がその体を撃ち貫き、次の瞬間には先程の一匹と同様に消失して行った。
こうなれば後は楽勝だった。
俺達がその一匹を片付けている間、レオが自分の方に向ってきたサメに最初の一匹目のように組み付いたので、後は俺が界滅武装のライフルをぶち込んでジエンドである。
「もういないな?」
『見える範囲にはいないわね。まぁ【沈む世界】は解除するわ、わりと霊力削れてるし』
言われてみれば、ミズホの霊力ゲージはサメの突撃を数回受けた上に俺やミズホの銃撃ももらっているレオほどではないものの、それなりに削れていた。やっぱり便利だけど重いな魔術のコスト。
『水は……引かないっスね』
「まぁ別事象だろうしなぁ。こっちに関しては俺等にできる事は何もないし、放っとくしかないだろ」
『そうね。一応周辺一通り確認したけど鏡獣の姿は見当たらないから、全開駆動も解除するわ』
「だな。後はとりあえず歩いて戻って、水の端まで行って出られなかったらその時考えよう」
『はぁい。指揮車の方にはアタシの方から状況報告しておくわね』
「よろしくー」
ふう、いろいろドタバタしたけどこれで一段落──
《……終わったのか?》
してませんでしたね!
なんか本当に静かにしてくれてたので本気で頭から抜け落ちてたわ。
俺は思考だけでタマモに全開駆動の解除の指示を出しつつ、後方を振り返る。
《ああ、もう大丈夫だ。化け物は完全に片付けたから》
《そうか。状況がまだ飲み込めてないがまずは感謝を》
《あー、うん。お気持ちは察します》
《それから確認したいことがあるのだがよいか?》
よくはないのだが、流されやすい小市民である俺は思わず反射的に頷いてしまった。
《先程聞いたことのない言語で会話していたが、ここは日本ではないのか?》
《あー……》
これどこまで話していいんだろうか?
彼女が俺と同じ地球からの彷徨い人として、こちらの世界に永住を求めるようなことがなければ記憶を消して地球側へ送還される。その際は記憶を消去されるハズなのでそう考えれば今何を話しても問題ないんだろうけど……すでに今俺がやってる事自体がマニュアル外の行動だから、その辺のルールがよくわかんないんだよな。
《うん、ここは日本ではないよ》
この狭い密室の中で質問に対してずっと黙ってるのはしんどすぎるし、そこはとりあえず肯定しておく。
どうせこの辺は街の方に戻ればわかる事だしな。
《ではここはどこだ?》
《えーと……》
《それだけじゃない。他にもいろいろと君に聞きたいことがあるのだが》
ですよね?




