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週末の精霊使い  作者: DP
1.女の子の体になったけど、女の子にはならない
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精霊使いは荒野を駆ける


間近で起こった爆発に、機体が大きく揺さぶられる。

爆風に負けて傾きそうになる機体を、右足を踏み出してふんばることで何とか体勢を保たせた。


あと少しずれてたら貰ってた可能性もあるな、というかC1に上がりたてのチームが連装ミサイルランチャーなんて金の掛かる武装使ってんじゃねぇよ、これだからバックに金持ってる企業がついてる連中は!


機体を操作しながら脳内で明らかに八つ当たりなことを愚痴っていたら、操縦席(コクーン)内に備え付けられた通信機から普段なら耳触りのよい、だが今は甲高くて脳に響く女性の声が流れ出した。


「ユージン! 無事!?」


側頭部に発生していない幻覚の衝撃波のようなものを感じながら、俺は通信機の方へ向かって怒鳴る。


「ゲージ見りゃわかんだろ! 貰ってねぇよ! 中身も無事!」

「無事なら援護射撃早くぅ! こっち今二人がかりでガンガン削られてるッスよ!」

「爆発で起きた砂埃でそっち見えねぇんだよ! 今移動中だからもうちょい粘れ!」

「アタシの方、もうちょっとでぶちのめせるからもうちょい頑張りなさい。ほらゲージまだ半分残ってるからまだまだ持つでしょ!」

「急いでぇーっ!?」


大騒ぎである。まぁ今のチーム構成になってからは毎度の事だけどな、前のメンバーは寡黙なタイプだったのでそこまでじゃなかったけど。


「……よし!」


砂埃を抜け、視界が開く。操縦席(コクーン)の前面の壁を覆う巨大ディスプレイには広がる赤茶けた荒野と遠くに動く小さな姿が映し出されていた。俺はそちらに視線を合わせ、()()に指示を出す。


「タマモ! ズーム出して!」


別段口に出さなくても考えるだけでいいんだが、口に出した方が鮮明にイメージをしやすいので俺は動き以外の指示は大抵口に出す。前雑誌か何かで特集されてたけど、大抵の同業者たちは俺と同じと言う統計が出ていたんで別に珍しい行為ではない。


俺の指示に応じて、正面モニターの中央部にウィンドウが現れる。その中に映し出されたのはファンタジーに出てくるパラディン……それを模した姿をした鋼鉄の騎士。俺は今この戦場にいる5体全体を映した状態から左方向に視界を移し左側にいる3機を表示内に収める。


それから視線を移し、ディスプレイの左下に表示されている6本のゲージの内、左側3本を見る。

そこに表示されているゲージはいわば残りライフで、赤い部分がそれぞれ全体の4割、6割、3.5割といったところだった。内一番ゲージが少ないのは先程の甲高い声の主──ミズホが相手をしている奴で、これは彼女に任せてしまって問題なさそうだ。狙うべきは4割の相手、今両手剣を振りかざしてもう一人のチームメイト、レオンガルドの機体に襲い掛かっている奴だ。


俺は自分が機乗している機体、精霊機装『タマモ』が左手に抱え込んでいるライフルを構えることをイメージしながら、先程切ったマイクの設定をオンに切り替える。


「レオ、今から狙撃する。あたっても大丈夫だよな」

「大丈夫じゃないっスよ! で俺はどうすればいいですか?」


ウチの後輩君は理解は早くてすばらしいね。


「お前に今接近戦を仕掛けている奴の左側に1秒ごとで2発()()。お前は1発目の着弾を確認したら突っ込んで右側の武器を叩き込め」

「了解ッス!」


余計な事は聞かずに素直に従ってくれるのはありがたい。後は信頼にこたえるだけだ。俺はマイクを再びオフに変えて集中する。


標的の動きはデータと現場で確認済み。キャリアが一年にも満たない若手なので動きは機敏ではあるが素直なものだ。


俺(正確にいえば『タマモ』が)はライフルを構え集中し、今も尚レオの機体に攻撃を仕掛けている標的がアイツの機体の左側に現れるのを待つ。相手のこれまでの攻撃パターンから見ればあと5秒前後でそちら側に回るハズ。


4、3、2、1……出た!


機体の姿がほんのわずかにレオの左側に出現した瞬間、俺は立て続けに2発銃弾を発射する。


一発目は標的より離れた位置に着弾。二発目はそれより大分寄せて標的の右側の足元に着弾させた。その二発目の弾着によって、次の()()を警戒した標的の動きが止まる。本来は反対側へ飛ぼうとしたのだろうが、精霊機装の動きは人間と一緒だ、片側に重心が言ってる状態で反対側に即座には飛べない──その結果がやや体勢を崩しかけることによる静止だ。


そこへレオの機体が持つ武器が、横殴りに襲い掛かる。


体勢を崩しかけている標的はなすすべもなくその一撃を受け、画面に表示されている一番左側の赤いゲージが減少する。そしてズームされた画面に表示されている実際の機体の方は、レオの強烈な一撃を受けてそのまま体勢を崩し横転した。


──チェックメイトだ。


倒れたそいつに対して、レオが振り抜いた武器を両腕で握りなおし──全力で振り下ろす。


それが叩きつけられたと同時、一番左側のゲージが3割のラインを切り、赤いゲージが灰色に変わった。と同時に、左側から三番目、ミズホが相手していた機体も灰色に変わる。


そして。


その間にあったゲージも、その割合は6割のままでグレーアウトした。


同時に、通信機からミズホでもレオでもない声が流れる。


『試合終了! 勝者、エルネスト!』


その声を聴き遂げて、俺は体の力を抜いて椅子の背もたれに身を投げ出した。


「投降かー、まぁそうなるよな」


グレーアウトは戦闘不能判定になったことを示す。

通常、その戦闘不能はゲージが3割を切った時点で判定されるが、その値に達していない事態でグレーアウトしたということは自分の意思で戦闘不能申請したということだ。まぁ残った一体は射撃メインだったのでこちらの前衛がフルに残った状態では最早どうにもならないと考えたのだろう。妥当な判断ではある。精霊機装のリーグ戦では消耗を防ぐことも重要だからな。俺も最後は温存したし。


「ユージンさん、ミズホさん、お疲れ様っスー!」

「お疲れ様~」


通信機から味方二人の音声が流れてきたので、俺もマイクのスイッチをONにする。──以前から思ってるんだが、なんでこれだけ手動切替なんだろう?


「お疲れー」

「いやぁ、圧勝できましたっスね!」

「さすがにC2から上がって来たばっかりの連中にいきなり負けるわけにはいかんだろ」


一応こっちはC1リーグの上位のチームだ。


「そいや、なんで最後俺の方に攻撃させたんスか? ユージンさんなら当てられたでしょ、あれ」

「ああ、単なる力の温存だよ。こっちはお前みたいな霊力タンクじゃないんだから、余計な消耗は押さえないとな。あの2発は殆ど力入れないでぶっ放したわ。だから()()()()()()()()って言っただろ?」

「ああ、そういう意味で……」

「はいはい、お話しはそこまでね」


通信機越しにレオと話し込んでいると、ミズホが割り込んできた。


「今日の業務は終了しました。──とっととシャワー浴びたいんだから、トランスポーターまで帰るわよ。話したければ降りてからにしなさいな」

「はいはい了解」


年齢は俺より下だが、チーム在籍年数では俺より上の先輩の言葉に素直に頷いておく。まぁシャワーはともかく精霊機装は動かしているだけでも消耗していくので、とっとと帰投するのは正解だ。せっかく戦闘で温存したのに雑談して消耗しては意味がないしな。そもそもリーダーはミズホなので、従順なメンバーとしてはいう事を聞きますよ、ええ。


なにせ俺がこの精霊機装に乗って戦い始めてからずっと一緒の先輩だ。


先頭を走り始めたミズホの機体に続いて、レオと並んで機体を走らせる。


さて、これで俺の日曜日に楽しみは終わり。明日からまた5日間の労働が始まりますよっと。

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