第52話『闇狼魔法使いの装備』
「装備が変わった?」
スーマとトコが呆気に取られている。
「す、凄いぞ!この装備は……!」
そんなことも気にせず、ミツハが何もない場所を見ながら驚いている。
ステータスを見ているのか。
「装備と召喚獣を合体させるのが、マリー……君のチカラか?」
「そうだ。この力でミツハの装備も取り返したんだ」
「………ふっ、そうだったのか。マリー!君に強化してもらったこの装備で、勝利を約束しようじゃあないか!」
狼の刺繍がされたローブを翻し、右手を顔の前に広げて、左手でお腹を押さえるお馴染みのポーズをする。
「マリーよ、君は僕の後ろで見ていたまえ!『ダークウルフバレット!』」
「これは?!」
「黒い狼?」
ミツハの手から黒い狼が飛び出した。
赤く光る瞳以外は真っ黒い狼は、トコへと駆けていく。
「なんだコイツは?!」
トコが驚き、盾を構えて防ぐ。
黒い狼は盾に噛みつき、ガキン!と金属音が響く。
攻撃を防がれた狼は、黒い霧となり霧散して消えてしまった。
「驚かしてくれるわね……でも私のVITの前では無意味」
「防いでくれてありがとう」
「はぁ?」
「君のご自慢の盾をよく見たまえ」
指を刺した箇所を見れば、キレイに歯形が付いていた。
「これがいったい何だって……」
「僕の新しく手に入れたスキルが3つあるんだよ。優しい僕が君たちに、特別に効果を教えてあげようじゃないか」
「なに?」
ミツハがトコへと手を翳す。
「先ずは1つ目。『ダークウルフバレット!』僕の魔法は全て狼に変わる」
「この!!」
トコがまたも狼の攻撃を大盾で防ぐ。
「そして2つ目だ。僕の狼へと変わった闇魔法を受けたプレイヤーの装備にダメージを与える」
「まさか……!」
「そのまさかだよ。僕の攻撃を受けるとVITが下がる」
「そんなバカなスキルがあってたまるか!」
「さて問題だ。何回攻撃を受ければ君の大盾は壊れるのかな?」
ミツハが指を4本、前に突き出す。
「『ダークウルフマシンガン!』」
「そんな……ヤ、ヤメローー!!」
ミツハの突き出した指から、子犬サイズの狼が何匹も飛び出す。
「はあああーーーー!!!」
その小さな狼は、ミツハの指から止まらずどんどん出てくる。
「こ、この……!!」
小さな狼は盾に噛み付くと消えるを繰り返す。
そして盾にはピシリと音を立てて亀裂が入り……。
「バカな!!」
ガシャーンと盾が砕け散る。
「トドメは大技で決めてあげよう」
ミツハが攻撃を止め、右手を上に掲げる。
ミツハの頭上で、黒い霧が巨大な狼を形成していく。
「『ダークウルフラッシュ!!』」
ミツハがトコへと向けて放り投げる。
「あまい!誘導盾のスキルを解除したわ!そしてアンタが盾を壊してくれたおかげで身軽になれて、素早く動くことができるのよ!」
「なに?!まずいぞ、ミツハ!」
トコは横に跳んで、ミツハの放った黒い狼を避けた。
「大丈夫だよ、マリー」
避けられた巨大な狼は、方向を90°変更してトコへ襲いかかった。
「おっと、言い忘れていたね。3つ目のスキルは僕の闇魔法の攻撃を受けたプレイヤーに自動で追尾して攻撃するんだよ」
「キ……キャアアアアーーー!!!」
巨大な狼に噛み付かれたトコは、パリーン!っと砕け散った。
「ヒ、ヒィ……!!」
砕け散ったトコを見たスーマが悲鳴をあげる。
「お、お願い!許し」
スーマも巨大な狼に噛み砕かれた。
「聞いてなかったかな?僕の闇魔法の攻撃を受けたプレイヤーに自動で追尾して攻撃するって」
そういえば、最初にミツハの攻撃を受けていたな。
悔しいが、ミツハがカッコよく見えてしまったぜ。
「終わったようだね」
周りを見渡せば、先ほどまで居なかったプレイヤーがちらほら見える。
ミツハの装備も、いつもの装備に戻っていた。
「スゴイです!ミツハさんもマリーさんもスゴ過ぎです〜!」
遠くで見ていたアリアもミツハの近くで、興奮してピュンピョン跳ねている。
「こんなはずじゃあ……こんなヤツらに負けるはずでは」
スーマとトコが、立っていた。
今回は何で居るんだ?
「保険をかけておいて良かったわ。負けた場合に、始まった場所に戻るように設定しておいてね」
「くっ!」
俺はアリアの前に立ち、身構える。
「負けたからどうだって言うのよ。関係ないのよ!ヴァルハラに入りたいって言うまで、アンタに呪いをかけ続けてやるわ!」
「こいつ……!」
エリーに呪いをかけられて、熱くなり過ぎていた!
負けた時のペナルティを設定しなかったなんて、痛恨のミスだ。
こんなことになるなら……。
「カースアタッなっ?!なによこれ?!!」
スーマとトコの足元に、赤い魔法陣が描かれた。
そのままログアウトしたように消えてしまった。
「これは……強制ログアウト?」
呆然とする俺の横で、ミツハが呟く。
「ギリギリ間に合った〜」
弓を背負い身軽な格好をした女性プレイヤーが、こちらに向かって駆けてくる。
俺に頼みごとをしてきた女性プレイヤーだった。
「なんとか運営に連絡して、アイツらをBANしてもらったんだ〜」
BANってなんだ?強制的にログアウトさせるみたいな意味か?
あとでエリーに聞こう。
「ありがとう、マリーちゃん……それにあなたも」
「う、うむ」
「はい」
俺とミツハにお礼を言う女性プレイヤーを、アリアが不思議そうな顔で見ている。
「実はこの人にアリアを助けてほしいって頼まれたんだよ」
「そうだったんですか?!あ、あの!本当にありがとうございます!……でもどうして私なんかを?」
アリアは可愛らしく小首を傾げて質問する。
「そ、それは〜……可愛い子が悲しそうな顔をしていれば、ほっとけないのが大人ってもんでしょ」
っとグッと親指を立てる。
「それじゃあ、私はこれで!」
女性プレイヤーは、どこかへと走って行った。
「あの!お礼を!………行ってしまいました。もっと色々と話をして、お礼をしたかったんですが」
「まあ、次に会った時にでも言えば良いんじゃないか?」
「はい!あの方にもう1度会ったらお礼を言います!」
アリアは女性プレイヤーが立ち去った方向を見て拳を握った。




