第47話『PvP後』
戦いが終わってみれば、凍った街並みが元に戻っていた。
周りを見れば、プレイヤーもちらほら歩いている。
「無事に終わったな」
「うん!」
「ど、どこに行ったんだ!アイツら!」
「なに言ってんだ?」
アトラは目の前に立っている俺たちを探しているようだ。
「どうしたんだ、コイツ?」
「言っただろ?金輪際関わらないって」
カレンがアトラに向かって歩きだす。
「金輪際関われないように、コイツらには俺たちが見えないようになったし」
カレンの体がアトラをすり抜けていく。
「触れない」
「なるほどな。これなら金輪際関わらずに済みそうだな」
「それじゃあ、俺は行くぜ。楽しかった、じゃあな」
「おう。ありがと……」
視界の端にエリーが入ってきて、あることを思い出す。
「待った!カレン、そういえばイチゴ餅パン持ってたよな?」
「あ、ああ、持ってる」
「1個譲ってくれないか?俺たちさ、イチゴ餅パン買いに行こうとしたら、アイツらに絡まれてさ」
カレンが俺やシオリたちの顔を順番に見るとため息を吐く。
「ちょうど人数分あるから、みんなで食うか?」
「カレン最高!」
「カレンちゃん最高!」
俺はカレンに肩に手を回し、エリーもカレンの顔に飛びつく。
「ぶっ!やめろ!お前ら!特にエリー!前が見えない!」
「さ!ベンチで食おうぜ!シオリもカガリもさ!」
「危ない!エリー!早く離れろ!」
カレンに肩を回したまま、歩かせる。
その後ろをシオリたちが付いてくる。
「ほらよ」
俺がベンチに座ると、カレンはぶっきらぼうにパンを差し出してくる。
シオリやカガリにも渡し、みんなが受け取るとベンチに座る。
右からカレン、俺、シオリ、カガリの順番だ。
「いっただきま〜す」
「カレンちゃん、いただきますね」
「いただきます」
イチゴ餅パンに齧りつく。
何度食べても、このパンは美味しい!
「ねぇねぇ、マリー」
エリーが物欲しそうにするので、千切って渡す。
「よく噛んで食べろよ」
「うん!ありがとう!マリー!カレンちゃん、いただくね!」
美味しそうにマリーがイチゴ餅パンを食べる。
食べ終えると、周りを千切って渡す。
「美味しい〜」
食べ終えたので、周りを千切って渡す。
「美味しい〜」
食べ終えたので、真ん中のジャムを避けるように千切って渡す。
「お、美味しい〜」
食べ終えたので……。
「ちょっと……ごめん、マリー」
「どうした?もうお腹いっぱいになったか?」
「いや……あの貰ってる立場で凄く言いづらいんだけどさ」
「おう、どうした?」
「真ん中も食べたいな〜って」
「あっ、本当だな!エリーも真ん中食べたいよな」
「うん!」
「ほら」
俺は手のひらに乗せて、エリーに差し出す。
「いただきま〜」
「待て!」
「え?」
エリーがピタリと止まり、しばらく沈黙が流れる。
「よし。食べていいぞ」
「あ、うん」
「もっと食べていいぞ」
先ほど同様に手のひらに乗せて、エリーに差し出す。
「ありがと〜」
「待て!」
「え?」
みんなが静かに俺たちを見ている。
「よし。食べていいぞ」
「犬じゃん!犬じゃないよ私!」
「一応、みんなに躾の良さとか見せとこうかと思って」
「犬じゃないんだから!大丈夫だよ!」
エリーはそう言いながら、俺の持っているイチゴ餅パンを勝手に千切って食べ始めた。
「ふふふ、マリーちゃんはエリーちゃんと仲が良いだね」
「まあな」
「だからマリーちゃんは、エリーちゃんをお気に入りの召喚獣にしてるんだね」
「お気に入りの召喚獣?」
そう聞き返すと、エリーがゴホゴホと咽せる。
「うん。召喚士の設定で召喚獣を1体だけお気に入りにできるの。お気に入りにしておくと、PvPが始まった時や終わった時に召喚された状態になるだよ」
「初めて知った……」
言われてみれば、PvPが終わればナイトやスピカは勝手に戻っているが、エリーは出っ放しだ。
メニューを開いて、召喚士の設定を操作する。
「ちょ、ちょっと!なにしてるの?!」
「早速ナイトに変更しておこうかと」
「なんでよ?!私のままでいいでしょ!」
「え〜」
エリーが操作する手に抱きつく。
「だめ〜!私のままにして〜!」
「でもな〜、戦えるナイトの方がな〜」
「その召喚士のグローブがあるんだから、別に良いでしょ!」
召喚士のグローブには、召喚中の召喚獣に攻撃が効かなくなる効果がある。
そう言われてみれば、エリーのままでも良いのかもしれない。
「じゃあこの話は、あとでゆっくりと考えさせてもらおう。君の今後を楽しみにしているといい」
「なにその嫌な上司みたいな言い方」
「その態度がいつまで続くのか楽しみだよ」
「もういいって嫌な上司は」
「そこの机の上で四つん這いになりなさい」
「私に何しようとしてんの!嫌な上司じゃなくて、いやらしい上司だよ!」
「その姿勢で体を伸ばしたりすると、柔軟性が上がったり、血流が良くなるよ。仕事頑張ってね」
「ただストレッチを勧めてる良い上司だった!疑った自分が恥ずかしい!」
「おい、もういいか?」
俺とエリーの雑談が終わったタイミングで、カレンが声をかけてくる。
「お前らいつもそんなのやってんのか?」
「いつもってわけではないけど……気分が乗ったらかな」
「そうか……そういうのは2人の時だけにしとけよ。周りはどうしていいのか分からなくなるから」
「……ごめん」
反省しながら、食べかけのイチゴ餅パンをエリーと分けて食べる。
「そういえば身体強化まだ覚えてなくてさ、次に会った時までに勝負しような」
俺は以前したカレンとの約束を思い出す。
「ああ、まぁ……覚えたところで今の俺には勝てないと思うがな」
そう言いカレンはベンチから立ち上がる。
「どういう意味だよ?」
「ふん、精々強くなるんだな。じゃあな」
後ろ向きで手を振り、歩き出す。
「私たちもログアウトしますね」
「おう」
メニューで時刻を確認すると、お昼の時間だ。
「俺もログアウトするよ」
「あ、あのマリーちゃん!私たちとパーティー組んでくれませんか?!」
シオリが俺をジッと見つめる。
「ごめん、もう別の人と組んでんだ」
「そうなんですか……」
「俺のパーティーに入るか?パーティーって言っても中学生の女の子と2人だけなんだけど」
「あ、あの……誘ってくれてありがとね。でも私たちは同い年くらいの女の子だけでパーティーを組もうって決めてて……」
シオリが申し訳なさそうに頭を下げる。
「気にしないでくれ!俺も誘ってくれたのにごめんな!別にパーティーじゃなくても遊べるんだし、また何かあったときは誘ってくれよ」
「はい!こちらこそ、その時はよろしくね!」
シオリとカガリも去って行った。
俺もマイルームに移動して、ログアウトした。




