第44話『チーム戦《前編》』
「カレン!どっから出てきたんだ?それに……」
現れたカレンは、いちご餅パンをもぐもぐと食べていた。
「あ〜!いちご餅パンだ〜!良いなぁ〜」
エリーが指を咥えて物欲しそうにする。
「恥ずかしいから、やめなさい!」
「良いだろ?たまたま残ってたからな、全部買い占めてやったぜ!あむっ、ひょれで?こいちゅらとひゃひゃかうんりゃろ?」
「飲み込んでから喋れよ」
カレンは音を鳴らして飲み込むと、食べている途中のいちご餅パンを仕舞う。
エリーを横目で見ると、名残惜しそうな顔をしていた。
「それで?コイツらと戦うんだろ?おれも入ってやるよ」
「いやいやいや、3対3だからな……」
周りを見回すと、シオリとカガリと目が合う。
最後にカレン目が合い、肩に手を置く。
「なっ、察してくれよ」
「イヤだ!私もやる!」
「駄々っ子かよ!」
「わざわざ出て来たのに、入れないなんて恥ずかしいだろ!」
たしかに。かっこよく現れたのに仲間外れにされるのは恥ずかしいな。
でも3人しか出れないし……よしっ、日本古来の決め方をするか。
俺はシオリとカガリに耳打ちで段取りを説明する。
「なら俺が出るのやめるよ」
「え〜……だったら私も」
「わ、私もです」
「え?お、おい……じゃあ、おれも」
「「「どうぞどうぞ」」」
カレンが手を上げた瞬間に譲る。
ちなみに、シオリは言わなかったので代わりにエリーが言った。
「お〜い!なんだよこれ!バカにしてんのか!」
「してないって、そんなに怒るなら俺が出るのやめるよ!」
「だったら私も」
「わ、私もです」
「ならおれも」
「「「どうぞどうぞ」」」
「いい加減にしろ!!」
怒ったのはカレンではなく、ずっと黙って見ていたアトラだった。
「もういい!3対4で!ただしハンデは貰うからな!」
「ふん、上等だ」
なぜか、あとから来たくせにカレンが答えた。
俺がそんなことを思っていると、エリーが俺の耳元まで来る。
「ねぇねぇマリー、なんであのギャグ知ってたの?」
「あ〜、なぜか覚えてたんだ。でも誰がやってたとかは覚えてないけどな」
自分でも不思議だ。もっと自分の人生の基盤になるような、大事な記憶を覚えていてほしかったものだ。
「それじゃあ、ルールの確認だ」
1番年長のストラトがそう言うと、目の前にメニューが表示される。
メニューにはPvPのルールが詳細に書かれていた。
どうやら、俺たちがふざけている間に決めていたようだ。
「時間無制限で全員負けるか、降参するかで勝敗は決まる。俺たちが勝った場合はカガリは俺たちのチームに入る。俺たちが負けた場合は金輪際関わらない」
「それプラス、金も賭けろ。こっちはプレイヤーの人生賭けてんだ。お前らの全財産も賭けろ」
ストラトが言い終える前に、カレンが条件を追加した。
言われてみれば、カガリの今後が懸かってるなら当然の提案かもしれない。
「良いだろう。負けるつもりもないからな」
「よっしゃー!!スタートだ!!」
アトラが叫ぶと、『ビーー!!』っと大きな機械音が鳴る。
戦いに適した場所に切り替わるのかと、周りの景色を確認したが……。
「ん?場所が変わってない」
「よく見てマリー。プレイヤーが居なくなってるでしょ?」
「ホントだ!え?……ってことはココでやるのか?」
「そういうこと!」
なんだろう……普段は過ごしている場所で戦うことに対するこのワクワク感は。
「観戦は出来ないようにしておいた、弱いものイジメしてるのは見られたくないからな」
「そうかよ!逆に俺らみたいな子どもに負けるのを見せなくて良かったな!」
カレンが戦いを始めようとしている。
俺はエリーに助言をもらおうと目線を向ける。
「マリー、レクリエーションでも使っていたゴーレムから考えると、アトラともう1人の子は土魔法使い。ストラトは戦士と魔法使いだと思うよ」
「よし、だったら」
「だったら魔法を使う前に仕留めてやるぜ」
カレンがアトラたちに向かって走り出す。
「おい!勝手に!」
「ああ!勝手にやらせてもらうぜ!『身体強化!』『パワーアップ!』
カレンを赤いオーラが包む。
「おい!来たぞ!いつも通りだ!」
「うん!『ストーンクリエイト!』」
アトラじゃないもう1人のプレイヤー『トリトン』が魔法を唱える。
「させるか!」
「こっちのセリフだ!」
魔法を唱えたトリトンに向かうカレンの前に、両手に小さな斧を構えたストラトが進行を妨害する。
「ちっ、カレン1人だと危なそうだ!俺も行くぞ!」
「邪魔すんな、マリー!お前らはもう少し見てろ!」
「なに?」
カレンを見ると、ストラトとの戦闘が始まっていた。
「やるな!ガキンチョ!俺と互角とはな!」
「バカが!互角じゃねぇよ!『パワーアップ!』『パワーアップ!』」
「グアッ!!なにっ?!」
付与術師の魔法で強化したカレンの拳が、ストラトの腹部に直撃する。
「どうだ?効いたか?」
「やるな……だがそれが格闘家のパワーアップの限界か?」
「だったらどうした?」
「やはり1番厄介そうなのはお前のようだな!」
ストラトが斧を振り下ろすが、カレンはそれを躱す。
「『アックスインパクト』」
「うわっ!」
斧が地面に叩きつけられると、ストラトを中心に爆発が起きる。
カレンが吹き飛ばされて、俺たちの元まで戻ってくる。
「ちっ、しょうもねぇスキルで」
「それはどうかな?本命はこっちだ!『シャドーロック!』」
カレンの足元にストラトが投げた斧が突き刺さる。
「どこに投げて……なっ?!からだが!」
「マリー!あの斧を抜いてあげて!」
エリーが俺の肩を掴んで揺する。
「なんだよ?急に慌てて」
「さっきのスキルは、斧を相手プレイヤーの影に刺すと身動きを封じるスキルなの!」
「じゃあ今カレンは……」
カレンの足元を見れば、斧が影に刺さっていた。
「トリトン、今だ!」
「『ストーングラビティロック』」
カレンの足元に魔法陣が描かれると頭上から2メートルほどの岩が落ちてくる。
「なめんな!ぐぐぐぐ……!!」
落ちてきた岩を、カレンが持ち上げて堪えている。
「大丈夫か?!カレン!今助けるぞ!」
岩を動かそうとするが、ピクリとも動かない。
「ムダムダ。その岩は受けた時の相手プレイヤーのSTRのプラス100の重さになる。それを退かしたいならパワーアップしないとね。まあできるならの話だけど……ククク」
「ぐ、ぐぐ……喋ると陰気なヤツだぜ」
「さて!作戦通りだ!主戦力となるプレイヤーは封じた!こっからはゴーレムによる蹂躙だ!『アイアンチェンジ!』」
土と岩で作られていたゴーレムの色が変化していく。




