第43話『シオリとカガリ』
「なんだ、ミツハ来てないのか……」
おにぎりパーティーを無事に終わらせた次の日。
午前10時ピッタリにログインし、誰も居ないマイルームで呟く。
「昨日といい、今日といい……普通こういうパーティーを組んだら毎日のように遊ぶものじゃないのか?組む前の方が一緒に居た気がするぞ」
椅子に力なく座りながら、つい愚痴がこぼれてしまう。
「『召喚』エリ〜」
召喚陣が空中に描かれると、エリーが召喚される。
「いっっっやっっっほ〜〜〜!!おっっはよ〜!!マリー!!」
「テンションたか」
「逆にテンション低すぎでしょ!もっとアップテンションでいこうよ〜」
今日は鬱陶しいくらい高いテンションだな。
でもこういう元気なところが、エリーの良いところなのかもしれないな。
「ねぇねぇ!今日は何するの?!どっか行く?!」
この元気な笑顔を、俺は守っていかないとな。
「ねぇってば!なにか食べにいこうよ?ねえ!!ねえ!!」
エリーは俺の後ろ髪をグイグイと引っ張る。
やっぱり守るのやめようかな。
「うっさい!!」
「なら返事くらいしてよ!
「考えごとしてたんだよ」
「考えごと?え〜、マリーが?」
エリーが俺をバカにするような顔をする。
「悪いかよ!たしかに俺みたいなチビガキ初心者が考えごとするのか?と思うけど……って誰がチビガキだよ!」
「え?!私言ってないよ!自分で言ったんでしょ?!」
「そうだったか、悪い悪い」
やっとエリーが静かになったので、予定でも考えるか。
「ミツハは今日も居ないし、なにしようかなって考えてたんだよ」
「ねぇねぇ、だったらパン屋に行こうよ!」
「パン屋?」
「そうそう!私だけイチゴ餅パン食べれてないから、食べたいの!イチゴ餅パンリベンジだよ!」
言われてみれば俺だけしか食べてなかったし、エリーが可哀想だな。
「じゃあ、パン屋に行くか」
「やった〜!さすがマリー、お礼にキスしたあげる」
「え〜い!やめい!恥ずかしい!」
顔に飛んでくるエリーを阻止しながら、マイルームから街へと移動する。
パン屋への道は頭に入っているので、迷うことなく向かうことができる。
イチゴ餅パンはあるだけ買って、エリーには俺の食べさしをあげて、残ったらミツハにも分けてやろうかな。
「マリーちゃ〜ん!」
などと考えていると、後ろから聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえる。
「マリー、シオリちゃんが走ってきてるよ!」
聞き覚えのある声だと思ったが、やはりシオリだったか。
声のする方を見れば、シオリが女の子走りでパタパタとこちらに向かって来ていた。
「ん?」
シオリの後ろに、見覚えのあるプレイヤーが一緒に走っている。
「はぁはぁ……やっぱり、マリーちゃ……はぁはぁはぁ、でした!」
「大丈夫か?シオリ?それと……」
息を整えるシオリの横には、三つ編みを一つ結びしたメガネをかけた理知的な少女。
年齢は俺やシオリと同じくらいの歳だろうか?
シオリとは違い、息を乱すことなく立っている。
「カガリです。あの時はどうもすみませんでした」
俺が悩んでいると、答えてくれた。
「あの時?」
「マリー、レクリエーションでゴーレムの上にいた」
俺が疑問を浮かべていると、エリーが耳打ちしてくれた。
「あ〜!あのベタベタした水をかけてきた!」
「……そうです」
「いや〜、勝負ごとだったし別に気にしてないけどな」
「そう言ってもらえると、私としても助かります」
カガリは嬉しそうに微笑むと、メガネを上げる。
「マリーちゃん、実はですね!相談したいことが!」
「相談したいこと?」
「はい!実は……困ったことがありま」
「見つけたぞ!カガリ!」
シオリが言い終わる前に、誰かの声に話を遮られた。
「あ〜!もう!しつこい!」
「うわっ……!」
カガリが声を荒げて叫ぶ。
見た目とのギャップに思わず驚いてしまった。
「しつこいだと!?お前は俺のチームに入るんだ!」
「そんなのイヤです!なんであなたのチームに入らないといけないんですか?!」
シオリの話を遮り、突然現れてカガリと言い合いになっているプレイヤーは……。
「シオリ、あいつは?」
「お、覚えてないですか?レクリエーションでゴーレムを操っていたプレイヤーです」
「あのバカ笑いして、調子乗ってたら俺たちに負けたアホか」
「聞こえているぞ!マリー・オレ!!」
カガリと言い合いになっていたのに聞こえているとは、案外地獄耳だな。
「まさかコイツらと組んでいるのか?!」
「そうです」
「フッ、コイツはけっさくだな。こんな弱そうなヤツらより、絶対に俺たちのパーティーに入った方が良いに決まってる」
「アトラ、まだ勧誘終わらねえのか?」
「に、兄ちゃん!」
横から現れたプレイヤーは、高校生くらいだろうかデカい。
いや、俺が小さいだけか……。
「そのガキンチョがレアなスキルを持ってるんだろ?なら俺らと組んだ方が良いに決まってんぜ」
アトラが兄ちゃんと呼んでるってことは、兄弟なのか?
名前はストラト。短い髪を金色に染めた、ガラの悪い戦士風の格好をしている。
そのストラトの後ろには、アトラと同じ歳くらいの魔法使いの格好をした少年がいた。
この3人がパーティーを組んでいて、カガリを強引に勧誘しようとしているのか。
「お断りします!私は同じ歳の女の子とパーティーを組むって決めてますので!」
「お前の足止めする魔法は、俺たちのパーティーとの相性が良い。絶対にパーティーに入ってもらうぜ!多少強引な手を使ってでもな」
「強引な手ですって?」
「どうだ?ちょうど3人いるんだ。俺たちと3対3で勝負して、勝った方が言うことを聞くってのはよ?!」
強引過ぎるだろ……。
俺とシオリと、未知数のカガリでか?
引き受けるべきか……みんな黙っていると。
「その勝負!引き受けたぜ!」
俺の目の前に、どこからともなくカレンが現れた。