第32話『ヴァルハラ戦《後編》』
「な〜に?私と接近戦で勝負しようっていうの?」
「だったら、どうする」
左手からクナイを取り出して投げまくる。
「フフ……なるほどね」
投げたクナイを短剣で弾き落としながら、クイカは何かに気付いたようだった。
「その手に持っているのは、ガーヴィの戦利品の麻痺クナイね?ガーヴィが弱い者イジメをする時に、良く使っていたって聞いたことがあるわ?」
「だったらどうだって言うんだ!『加速!』」
クイカの距離まで残り2メートルでスキルを発動する。
俺はクナイを握る手に力を込める。
「弾き落とされるなら、直接突き刺すまでだ!!」
「フフ、単純な考えね!」
俺は左手で投げながら、隙を作る。
「いまだ!!」
俺はガラ空きになった腹部に、クナイを構えて飛び込む。
「残念!右手とお別れね!!」
「そうくると思っていた!」
クイカの短剣で右手首を切断される前に、クナイを上に向かって投げる。
「があああああ!!」
右手に痛みが走るが、俺は堪えながら左手にクナイを取り出す。
「残念!残念!当たらないわ!!」
予想通りに、クイカの顔へと向かっていたクナイは避けられる。
「それで?!この避けたクナイも私を追い掛けてくるんでしょ?!」
クイカは上を見上げ、短剣を構える。
「これを弾いたら終わグアッ……!!」
「ああ、終わりだ……」
「まさか……?!」
俺が左手に持っていたクナイは、クイカの右横腹に突き刺さっていた。
『ピポーン』っと頭の中で音が鳴る。
「お前は絶対に俺の手からクナイを、どうにかして叩き落とすと思っていた」
「グ、グウ……!」
「だから俺は弾き落とされる前に、絶対に上に向かってクナイを投げることを決めていた」
クイカは身体が麻痺してきたのか、力なく両膝をつく。
「上を見上げている間は無防備になって、AGIがどれだけ上がろうと意味ないからな」
「ク、クソ!!」
「おっと……近くに居ると攻撃されちまうからな、離れるとするぜ」
短剣をガムシャラに振り回すクイカから距離を空ける。
「さてと……終わりだ『追狼劇』」
左手に持てるだけのクナイを持つと、それを無造作に空中に放り投げる。
「お前も味わってみろ!追い掛け回される恐怖をな!」
「や、やめ……!!」
クイカは麻痺で上手く動けないのか、ヨタヨタとふらつきながら逃げ出す。
空中に放り投げたクナイは、意志を持ったようにクイカに向かって飛んでいく。
「……仇は取るぜ、ミツハ」
俺はまたクナイを取り出しては、放り投げる。
それを何度も繰り返す。
「ガアア!お前はグアッ、ヴァルハラにガアッ、喧嘩を売った!!グウウ、こ、後悔するわ……よ」
クナイが刺さりながらも、最後にそう言い残すと砕け散った。
【プレイヤー《クイカ》の装備を獲得しました】
メッセージが表示されると、居なくなっていたプレイヤーが戻っていた。
「やったね!マリー!!」
エリーが俺の顔に抱きついてくる。
どうやらPvPのフィールドから戻ってきたようだ。
「良かった!本当に勝って良かったよ〜!」
俺のほっぺに頬擦りをしてくる。
「わかった、わかったって、マイルームに戻ろうぜ」
メニューを開いて、マイルームに戻る。
「良かった良かった〜」
マイルームに戻ったのに、エリーはまだ俺の顔で頬擦りをしている。
「もう良いって!」
エリーを摘んで、顔から引っぺがす。
時刻は11時10分。
「昼にログインしてくれって言ったけど、早く報告したいし呼んでみるか」
ミツハに話したいことがあるので、今からログイン出来ないかとメッセージを送る。
「取り返した装備がミツハちゃんのか、ちゃんと確認しといた方が良いんじゃないの?」
「まあウソをついているとも限らないしな……どうやって確認したほうが良いんだ?」
「マリーが1回装備してみれば?」
なるほどな。
アイテムボックスを見る限り、闇魔法使いの装備一式と、色々な特殊装備が増えていた。
「これだな」
全て選択して、装備する。
「どうだ?ミツハの装備かな?」
自分の姿が分からないので、エリーに聞いてみる。
「ま、まあ……ミツハちゃんってかんじ、かな?」
「なんだよ?変な言い方だな」
マイルームにある姿見で自分の姿を確認する。
メインの装備は俺の装備とあまり変わらないので問題はない。
そのほかに付けている特殊装備に問題があった。
左眼には黒い眼帯を、右手と左の太ももには包帯を巻いてある。
「いたいセンスだな……」
一緒に歩くの嫌だなぁ、返すのやめようかな……。
「そうだ!このまま装備したままで、驚かしてやろうぜ!会った時にミツハの決め台詞みたいのも言ってやろ!あったよな?僕こそが邪龍闇ミツハこと、闇魔法の使い手だ!……だっけ?」
ミツハと初めて会った時に、変なポーズをしながら言っていたセリフだ。
「ちょっと違くない?セリフが前後で逆だったような」
「そうだっけ?」
「……うん、やっぱりそうだよ!」
「そうだったか、ごめん」
エリーに手を合わせて謝る。
「え?別にいいけど」
「ホントごめん」
「もういいよ」
「ホントにごめん」
「もういいって!」
「次から気をつけるから、ごめん」
「だからいいって!そんなに謝ることではないよ!」
『ピコン』っとメッセージの通知音が聞こえる。
ミツハから『今からログインする』という連絡だった。
「ミツハ、今からログインしてくれるそうだ」
「ミツハちゃんのリアクションが楽しみだね〜」
「そうだな……あと、さっきセリフ間違えてごめんな」
「もういいって!しつこいよ!」
ミツハを待つ準備を始める。