第30話 『ヴァルハラ戦《前編》』
「返せ?フフ、あの装備はちゃんと私たちが正式に勝負して勝ち取った者よ」
「正式に勝ち取っただと?」
違う。こいつらはミツハを追い込み、戦わざるざる得ない状況にしたんだ。
コイツらさえいなければ、ミツハは今も楽しくアドワをやれていた。
怒りが込み上げ、2人を睨む。
「あらら、怖い怖い。可愛い顔が台無しだよ?」
アーリーが俺の顔に触れてくる。
「触んな!」
その手を払い、拳を握りしめる。
「俺と、ミツハの装備を賭けて勝負しろ!」
「どうする?生意気だしヤっちゃう?」
「フンッ、くだらない。私たちが相手をするメリットがないわ」
クイカはそう言い立ちあがり、立ち去ろうとする。
「そういことだから、ごめんね〜」
アーリーも馬鹿にするように言うと、手をヒラヒラと動かし、クイカに続いて行く。
「逃すかよ……!!」
持ち物からアイテムを取り出し、クイカに投げる。
「これは……?」
投げつけた物がクイカの背中に当たると、白い手袋が地面にパサりと落ちる。
『プレイヤー【マリー・オレ】の使用した決闘の手袋の効果が発動しました。PvPのルールを選択して下さい』
「このガキ……!決闘の手袋だと?!」
「マジ?!なんで?!」
「どうしてこんなガキが、決闘の手袋なんてレアアイテムを持ってる?!」
クイカとアーリーが驚く。
「さあ、ルールを決めろよ。俺は賭けるアイテムを決めさせてもらうからよ」
「クッ……この!」
予想外のことをされたクイカは悔しそうに俺を睨む。
元々目つきが鋭いので、睨まれるとめちゃくちゃ怖いが顔には出さない。
「……後悔しないでね。マリー・オレ」
そう言うと、クイカはメニューを操作する動作を始める。
俺もメニューを操作して、相手はミツハの装備、俺は適当に装備一式を4つほど賭ける設定する。
「俺は決まった」
「私たちもね」
クイカの決めたルールを確認する。
「うぅ……マリー、やっぱり不利だよ」
メニューを見たマリーが苦しそうな顔をする。
「2対1か……」
予想はしていたが、厳しそうだな。
「見て、マリー!2対1なのに、全くハンデがないよ!本来なら1人の方はHPやMPが倍になったり、ハンデを貰えるんだけど……」
ルール画面を見ると、それらしいハンデはない。
「始めましょうか」
クイカの一言で俺たち以外の周りにいたプレイヤーが消えた。
「場所はここにしたわ」
「俺はどこでも良い」
「そう?あなたが負けたら、ここに来るたびに思い出すわ。調子にのってPvPをしたせいで、私たちにボコボコにされたのをね」
「っ……」
なんて性格の悪いやつだ。
ミツハを追いかけ回しているだけのことはある。
「ねえ、私に倒させてよ」
アーリーがクイカの前に出る。
クイカは無言で、了承する。
「プッ、クククク……」
突然アーリーが笑い出す。
「プププ、思い出したら面白くなっちゃった!」
「……?」
「マリーちゃんも聞いたら笑っちゃうよ?アイツとPvPで勝負をしたときの話なんだけど」
「ハッハッハ!あの時のアイツの最後の言葉ね?言われてみれば、この状況は笑えるかも」
お互いに何かを思い出したのか、笑い合う。
「聞いてくれる?アイツをめちゃくちゃボコボコにしてやってさ、地面に這いつくばって死にかけてるアイツが何て言ったか知ってる?」
「………」
「『お願いだから、マリーには何もしないでください』って言ったのよ!でもこの状況どう?アイツが可哀想〜!願いは届かず、こうしてマリーちゃんをPvPで倒しちゃうんだからさ!」
「てめぇら……!!」
怒りが込み上げてくる。
これほど怒りを覚えたプレイヤーに出会ったのは、ガーヴィ以来だ。
「キャハッハッハ!!さあ!私のスピードについてこれる?!」
アーリーがこちらに向かって来る。
「『俊速!』これで、終わり!」
短剣を握り、攻撃を繰り出そうとしている。
「『超加速』」
アーリーの短剣を、すんでのところで躱す。
「エ?」
「『ウサギの頭突き!!』」
「ガッ……!!!」
左の拳がアーリーの腹部にめり込む。
「「巨大ウサギの突進!!』」
右の拳が、アーリーの顔面へ打たれた。
「そんな……?!」
アーリーは驚いた顔をして、ガラスのように砕け散った。
「次はお前の番だ!」
「なるほど……。ガーヴィに勝ったウワサは本当だったのね」
「なに?」
「半信半疑だったの。アーリーで試して様子を見たけど、ガーヴィに勝ったのは本当なのね」
「知っていたのか?それなのにどうして仲間に教えなかったんだ?」
「仲間?違うわ。ヴァルハラは2人1組で行動しないといけないルールなの。そのためにアーリーとは仕方なく一緒に居るだけの関係」
肩をすくめて、クイナは呆れて話す。
「それと良いことを教えてあげる。ヴァルハラには1組ごとにペアのコンセプトがあるのよ」
「へぇ、だったらお前らは性格が悪いってコンセプトか?」
「フッフフフ、その強がりがいつまで続くかしらね?」
クイナの両手に短剣が出現した。
「マリー、あいつも近接系みたいだね。だからこっちからは」
「だったら、こっちから行ってやるぜ!」
「ちょ、マリー!!」
俺はクイナに向かって走る。
この装備のスピードなら、勝てる!
「『ウサギの頭突き!!』」
「残念、ユニークスキル『武術家の眼』」
突き出した拳は、誰もいない場所に放たれた。
「なに?!」
「どうしたの?これで終わり?」
「この!『正拳突き!』」
「でも無駄」
俺の攻撃は、あっさり躱される。
「俺のスピードが避けられるだと……?!」
「残念ね。私たちのチームのコンセプトはスピード、よ!!」
「ぐああ!」
短剣が空振りした腕に突き刺さる。
俺はガムシャラに攻撃を続ける。
「遅い遅い!遅いのよ!!」
「がはっ!」
刺さっていた短剣を素早く引き抜かれると、腹部を蹴られる。
勢いよく倒れると、クイナの足音が迫る音が聞こえる。
「マリー!ナイトを出して!壁だよ!」
「っ!『召喚!』ナイト!」
エリーのアドバイスを聞き、倒れている俺の頭上にナイトを召喚する。
「壁だ!ナイト!」
「ワウ!」
「チッ……」
距離を空けるため、急いでエリーの元まで戻る。
「なんの作戦もないのに、どうして突っ走るの!!」
「この装備のスピードなら大丈夫と思ったんだよ!」
戻ると、エリーからの叱責された。
「くそ!でもこの装備のスピードが負けるなんて……!」
「落ち着いて!ナイトに時間を少し稼いでもらっている間に作戦を考えよ!」
後方ではナイトが壁を消して、クイカと戦闘していた。
ナイトではクイカのスピードには追いつけないので、負けるのは時間の問題だろう。
「どうすればいいんだ……」




