第29話『敵討ち』
起きると早々に朝食なども済ませ、午前10時にログインする。
マイルームのベッドから起き上がると、椅子に座っている見知った後ろ姿を見つけた。
「ミツハ、ログインしてたんだな!」
エリーにご飯を作ってあげたいので、どこか食材が売っている場所を教えてほしい。
買い物に付いてきてくれると、嬉しいけど……。
「……ミツハ?」
返事をしてくれないミツハに、違和感を感じて近付く。
座っているミツハの格好をよく見れば、白のタンクトップに、白の短パンだった。
嫌な感覚が胸の中で渦巻く。
「ミツハ……どうしたんだよ?その格好」
俯くミツハに、恐る恐る訪ねる。
「風邪ひくぞ……服を」
「ごめん……!マリー!」
ミツハは勢いよく顔を上げ、俺の方に顔を向ける。
「い、一体……どうしたんだよ?」
「うっ……うう……ヴァルハラと……戦ったんだ!」
「ヴァルハラ……」
ミツハの邪魔をしてくると言っていたヤツらか。
そいつらに装備を奪われただったか……。
「うう……!!ごめん!!」
「そうか……そういうことか」
ミツハはまた奪われたんだ。
最後の装備だった冒険者の装備。
「ごめん!もうマリーと……冒険できない!」
悔しそうにミツハは泣いている。
ヴァルハラに関しては、いつか会った時に倒す気でいた。
俺が甘かったんだ。
「ミツハ……」
いつかなんて言わず、さっさと倒しておくべきだった!
俺は自分の中に湧き上がる怒りを抑え込み、優しくミツハに話しかける。
「今はログアウトして、ゆっくり考えてくれ。そんで昼になったらさ、もう1度ログインしてミツハの考えを聞かせてくれよ」
「マリー……わかった。心配かけてごめん」
ミツハはそう言うと、ログアウトした。
1人になったマイルームで深呼吸をし、覚悟を決める。
エリーなら、ミツハと戦った相手の場所を知る方法が分かるはずだ。
「『召喚』エリー」
「やっほー!おはよう!マリー!……ってあれ?どうしたの?」
元気よく召喚されたエリーだったが、マイルームの空気の重さを察したようだ。
「エリー、ミツハがヴァルハラと戦って装備を全て取られた」
「そうだったんだ……」
「俺はそれを取り返したい。だから相手が居る場所を知りたいんだ」
「………だめだよ」
エリーは静かに俺の覚悟を否定する。
「どうしてだ?!」
「当たり前でしょ!それでマリーまで装備を取られたらどうするの?!」
「大丈夫だ。装備が取られるだけだろ?」
「それでも!それでも……マリーにそんな危ないことしてほしくない。ミツハちゃんの話だと、相手は2人だって言うし……無茶だよ」
エリーは消えそうな声で言い終える。
「エリー。お前なら相手の場所を知る方法を知ってるんじゃないか?頼む!相手の場所を教えてくれ」
「絶対に教えない。そんな危ないことさせれない」
「………エリー。今のミツハはな、ガーヴィに負けた俺なんだよ」
「え?」
泣いているミツハを目の前にして、俺は失礼かもしれないがそう思ってしまった。
「あの時……俺がガーヴィに負けていたら、今のミツハみたいになっていた。装備も、励ましてくれる相棒も失って泣いていたんだろう」
「……」
「もしもだ……俺がガーヴィに負けていて全部取られちまって、泣いている俺が居たら……エリー、お前ならどうする」
「そんなの決まってる!大丈夫だよ!って何度も励まして、一緒に泣いてあげるよ!」
エリー、お前ならそう言ってくれると思っていた。
思わず泣きそうになってしまった。
なんとか堪えて話を続ける。
「それならもしもだ、エリーにガーヴィと戦う力があって、俺の装備を取り返しに行けるならどうする?」
「そんなの……召喚獣の私じゃ」
「もしもだよ。もしも自由に動き回れてガーヴィと戦えるなら、エリー……お前ならどうする?」
「決まってる……決まってるよ。マリーの大切な装備を取り返して、もう1度笑顔になってほしい」
あぶない……泣きそうだ。
俺は天井を見上げ、溢れそうになった涙を流すまいと堪える。
「っ………」
……よし、大丈夫だ。
なんとか堪えた。
「今の俺だってそうさ、ミツハにもう1度笑顔になってほしい」
「……ずるいよ。そんなこと言われたら」
「エリー、頼む」
「知らない!」
エリーは俺に背を向ける。
やはりダメか……。
「メニューのフレンドを開いて、ミツハちゃんを選択したあと、対戦経歴で対戦相手から場所が分かることなんて知らないから!」
「エリー……!!」
「早くしないと、相手がマリーの行けない場所に逃げられるかもしれないよ」
「おう!」
エリーの言った通り操作していくと、ミツハが直近で戦った相手が出てきた。
1対2のPvP。間違いないコイツらだ。
プレイヤー名は『クイカ』と『アーリー』
「現在地は……」
プレイヤー名を押すと、マップが開いた。
「よし、近いぞ!第1の街の噴水だ!いくぞ、エリー!」
「仕方ないね!行こう!ミツハちゃんの装備を取り返そう!」
マイルームから出ると、俺はコソコソと路地に入る。
「え?!どうしたの?!あんだけ行く気満々だったのに行かないの?!」
「行く前に準備だ……『合成!』」
『格闘家の装備一式』と『スピカ』を合成する。
1度合成した物だと、あまり考えなずにササっと出来るので楽だ。
「よし!本当に行くぞ!」
「……ねぇねぇ、マリー」
「どうした?急いでるんだけど」
「前にスピカが合成をめちゃくちゃ嫌がって、ウナギみたいに逃げたって言ってたけど、なんで毎回普通に合成できてるの?」
そういえば恥ずかったので言い訳で、そんなことを言った気がするな。
ウソでしたと言うと、面倒なことになりそうだな。
「さっ!エリー捕まれ、置いてくぞ」
「あれ?私の質問は?ねぇねぇ、なんで普通に合成できるの?」
「スリー……ツー……ワン」
「待って待って!」
エリーは質問を諦め、俺の肩にしがみつく。
ヴァルハラが居る噴水へと走る。
俺に驚くプレイヤーたちを縫いながら向い、数分走ると辿り着いた。
「どこだ……?」
それらしきプレイヤーが居ないか、辺りを見回す。
「マリー」
エリーが指差す先を見る。
そこには露出した太ももに、一輪の薔薇のタトゥーが彫られている女性プレイヤーが、ベンチでパンを食べていた。
「よし」
「待って、マリー」
「どうした?トイレか?」
「違うよ!……まず妖精はトイレなんてしないから!」
「じゃなくて!」っと小さく言うと、俺の耳元に寄って来る。
「そもそもさ、アイツらがPvPを引き受けてくれなかったらどうするの?」
「大丈夫だ、俺も何も考えずに来てない。ちゃ〜んと考えてある」
エリーに笑いかけ、近付いて行くと、2人も俺に気付いた。
俺はお構いなしに、座っている2人の前に立つ。
「なにか用?……まあ、大体分かるけどね」
左に座っていた剣士風の装備をしたクイカが、薄気味悪く笑う。
クイカは、リアルの俺と同じくらいだろ年齢の見た目をしている。
肩まで伸ばした黒い髪、鋭い眼をしている。
「そうか、だったら俺の言うことも分かるか?」
「あいつの装備を返してほしんでしょ?キャハハ」
右に座っていた、ガーヴィと似た装備をしているアーリーがケラケラと笑う。
アーリーもクイカと同じ歳くらいだろう。
クイカとは対照的なほど明るい金色の髪をしており、その髪は腰まで長い。
「そうだ。ミツハの装備を返してくれ」




