第20話『講習会(前編)』
「ふわ〜……」
建物の中に入ると、目の前に広がる光景にマヌケな声が漏れてしまった。
一言で言えば広い学校の教室……学校には行った記憶はないが知っている感覚は不思議だ。
にしても広い。これだけ席が多いと、どこに座ろうか迷ってしまう。
「なあ、エリ……」
居ない筈のエリーに話しかけてしまいそうになる。
いつも横を飛んでいるエリーが居ないのが、けっこう寂しいことに気付いてしまう。
「ん?」
座る席を探していると、見知った顔を見つける。
「お〜い、シオ……リ?」
駆け足で近づき、声をかけようとしたが……雰囲気が暗く声を止める。
声をかけて良いのか?俯いて泣きそうになっている。
「シ、シオリ……」
「え?マリーちゃん!」
俺の顔を見たシオリは、花が咲いたように満面の笑みを浮かべる。
「お、おう、シオリも先に来たんだな」
「はい!ジッとしてられなくて!」
「そうか、俺もだよ」
ウソのように明るくなった。
先ほどまで暗かった理由は何だったんだろうか?
「マリーちゃんに会えて良かったです。いつも一緒に居てくれるリスペンが居なくて心細くて……」
「あ〜……」
暗かった理由はそういうことか。
「わかるわかる!俺もさ〜、いつも一緒に居るのが居なくて寂しくてさ」
「マリーちゃんもですか?」
「ああ、でもシオリが居てくれて寂しくなくなったよ」
「そうですか?ふふふ、だったら私も早めに来て良かったです。マリーちゃんを心細くさせなくて済みましたので」
シオリは手で口元を押さえて嬉しそうに笑う。シオリ、めっちゃ良い子!
「いて……」
シオリと話していると、誰かが俺にぶつかったきた。
「チッ!」
ぶつかってきた、生意気そうな少年に睨まれる。
「……悪いな」
少し腹が立ったが、俺は大人な対応で応える。
「おい!当たっておいて、それだけか?!」
「え?」
ぶつかってきたのはお前だろ。っと言いかけたが、俺は寛大な心を持つ歳上の男なので堪える。
「ああ、ごめんって」
「フン!いつもなら許してやらないが、俺は心の広い年上の男だ」
こ、こいつ……!堪えろ。我慢だ。
「お前みたいな弱そうな魔法職に怒るほど子どもじゃない」
「あ、そう……」
「許してやるかわりに、俺のパーティーに入れ」
「はぁ?」
話が飛躍し過ぎるだろ。意味が分からないバカなのか?
記憶にはないが、もしかしたら俺もこの少年くらいの歳の時は、こんなにバカだったんだろうか?
「いや、もうパーティー組んでるし」
「だったらそのパーティー抜ければいいだろ」
「いいわけないだろ」
「フン!どうせ弱いパーティーだろ?!だったら俺のパーティーに入ったほうが絶対に良いに決まってる!」
なんだかイライラしてきた。
この、え〜……頭上に名前があるな……『アトラ』っていうガキンチョ、ミツハも馬鹿にしたようでムカつくので、もう言い返してやろう。
「そもそもさ、立ち止まっている俺に、歩いていたお前がぶつかってきたんだ。前見て歩いていなかったお前が悪いんじゃないのか?」
「なんだと?!」
「もしかして可愛い俺とシオリと話す口実がほしくて、わざとぶつかってきたとか?もしそうなら普通に話しかけることもできない根性なしとパーティーなんて組みたくないな」
「ふざけんな!!……イデェッ!!」
怒ったアトラが俺の胸元を掴もうとすると、何かに弾かれる
「お前!!なにしたんだ?!」
「え?何が?!」
「知らないのか?子どもは危害を加えられそうになると、アドワのAIが守ってくれるんだよ」
背後から聞いたことのある声が聞こえる。
「カレン!」
「なにやってんだよ?マリー」
カレンは横を通り過ぎ、俺とアトラとの間に立つ。
「おれの友だちになにしてんだ?」
「ウッ……」
カレンが睨みつけると、アトラは何も言えず後ずさる。
カッコいい!完全にヒーローじゃん!俺が女の子だったら惚れちゃうよ!
「チッ、覚えてろよ!絶対に復讐してやる!」
そう言いアトラは後ろの席へと逃げるように向かって行った。
「復讐って、バカかよ」
カレンが半笑いで呟く。
「もう始まるみたいだから席に座ろうぜ」
「ああ」
俺はシオリの横に座ると、カレンは俺の後ろの席に座った。
「みなさん、席に座って下さい」
教室に真っ黒なスーツを着た若い女性が入ってきた。
茶色のウェーブがかった長い髪に、縁が細いメガネをかけており知的に見える。
「席に着いていない子は、どこでも良いので座って下さい」
女性がそう言うと、座っていなかった子どもが席に座っていく。
教室には、何が始まるのかなどの話し声が聞こえる。
「全員座りましたね。自己紹介の前に先に行っておきます。私の話の邪魔をするプレイヤーは直ぐに教室から出ていってもらいます。私にはあなた方を簡単に外に出すことができますので、静かに話を聞いていて下さい」
先程まで聞こえていた、席に座っていた子どもの話し声がピタリと止む。
「私は今回の講義を担当するカリマです。カリマ先生と呼んで下さい」
カリマ先生はメガネを縁を指で上げる。
「今からこの【New Equip Adventure World】についての講義を始めます。45分の講義のあと、レクリエーションをして終わります。15時に終わる予定ですので、何か用事のある方は今のあいだに言って下さい」
しばらく沈黙が流れる。
「分かりました。それでは講義を始めます。前のスクリーンで説明をします」
カリマ先生が指を鳴らすと、天井から巨大なスクリーンが降りてくる。
「それでは講義を始めます。静かに聞いていて下さい」
それからカリマ先生による講義が始まった。
内容は魔法の使い方やスキルの使い方、プレイヤーキラーへの注意などだ。
エリーに聞いていて知っているので、とても暇な時間である。
俺が眠そうに聞いているのに対して、横のシオリは真面目にカリマ先生の話を聞いていた。
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