表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/109

第18話『クッキー』

「『召喚!』エリー!」


 時間が経つほどエリーの機嫌が悪くなる気がしたので、マイルームに戻ると急いでエリーを召喚した。


「も〜!遅いよ〜!マリー!」


 召喚されたエリーは冗談めかして、怒りながら言う。


「ああ、悪い悪い」

「それで?パン買えたの?」


 何も知らないエリーが嬉々として聞いてくる。

 食べてしまったと、どう言えば良いものか……。


「エリー……良い報告と悪い報告がある。どっちを先に聞きたい?」

「え?なに?急に海外ドラマみたいな質問」

「どっちから聞きたい?」

「じゃ、じゃあ先に悪い報告から」

「ふぅ〜……」


 俺は眉間にシワを寄せ、深くため息を吐きながら額に手を当てる。


「どれだけ悪い報告なの?!誰か死んだの?!」

「すまん!イチゴ餅パン、1人で食べちゃった」


 下をペロリと出して可愛く謝る。

 姪のマリアの見た目の可愛さで、きっと許してくれるはずだ!


「え〜!なんでぇ〜?!」


 無理だった。

 エリーは勢いよく飛び掛かると、俺の胸ぐらを掴む。


「ちょ、落ち着けって!食べた理由を聞いたら『こりゃ仕方ない!』って言うよ」

「……ホントに?」


 不満げな顔をして、エリーはゆっくりと掴んでいた手を離してくれた。


「もちろん!聞いたら『こりゃ仕方ない!私の負けだね!』って言うよ」

「え?私は何に負けたの?」

「そう言いながら服を脱ぎ始めるよ」

「脱がないよ!何にも負けてないのに脱ぐわけないでしょ!」

「いや、聞いたらもう、シュルシュルって、ちょっと恥ずかしそうに脱ぎ始めるよ」

「私はそんな音がする服は着てないよ!完全に帯状の物を巻いてるよね?!」


 エリーに冗談を言うのもこれくらいにして、俺はエリーを戻したあとに起きた出来事を話す。


「ふ〜ん、それなら仕方ないか……」

「だろ?話に夢中だったし、うっかりしてたんだよ」

「うっかりって」

「俺の可愛いところが出てしまったと思って許してくれよ」

「いや全然可愛くはないけど!……でもまあ」


 エリーは怒っていた顔から笑顔になる。


「マリーに友達が増えたから許してあげる!」

「ありがと、許してくれると思ってたよ」


 まだ怒られると内心では思っていたので、許してくれて良かった。


「それで良い報告は何なの?友達が増えたってこと?」

「いいや、これだ」


 俺はメニューを開いてアイテムからパン屋で買った物を取り出す。


「なに?その袋?」


 エリーは俺の手にある紙に包まれた袋を不思議そうに見つめる。

 口を縛っているリボンを解いて、中身を開ける。


「クッキーだ〜!」

「餅パンの代わりに買ったんだ」

「やった〜!ありがと〜!」

「クッキーかマロングラッセかで迷ったんだけど、クッキーで良かったか?」

「クッキーで良いに決まってるよ!美味しそ〜!」


 俺が聞くと、エリーは嬉しそうにクッキーを眺めながら答える。

 このまま食べさすだけは嫌なので、ふざけよう。


「そうか。マロングラッセも結構美味しそうだったんだけどな」

「そうなんだ。でもクッキーも美味しそうだよ」

「それなら良かった。でもただのマロングラッセじゃなくてミールマロングラッセって言うマロングラッセなんだ」

「ふ〜ん、ねぇねぇ早く開けてみようよ」


 机の上にクッキーを置いて、袋を広げる。


「この黒いのがチョコで、茶色のがミールマロングラッセかな?」


 俺は2種類あるクッキーを指差してエリーに聞く。


「普通にプレーン味じゃない」

「でも色的にはミールマロングラッセでも良いんじゃないか?」

「……もう食べて良い?」


 エリーが呆れたように聞いてくる。


「良いけど、食べるときにミールマロングラッセのことを思い出してから食べてあげて」

「もういいよ!バカじゃないの?!ミールマロングラッセばっかり言って!」


 我慢できなくなったエリーが叫んだ。


「聞いたことないよ!ミールマロングラッセなんて!」

「知らないのかよ?あのパン屋では有名なのに」

「なに?ミールマロングラッセって?ミールマロングラッセなんて知らないよ。ミールマロングラッセなんて!ミールマロングラッセ……」

「え?ちょっと待て!ミールマロングラッセって声に出して言うの気持ち良くなってないか?」

「そ、そんなことないよ!ミールマロングラッセだなんて言いたくなよ!ミールマロングラッセだなんてさ」

「やっぱり言いたくなってるじゃないか!俺のミールマロングラッセで気持ち良くなるなよ!」

「別にマリーのミールマロングラッセじゃないでしょ!」


 俺の言葉にエリーが抗議してくる。


「著作権は絶対に俺にあるだろ」

「著作権はパン屋さんでしょ!」

「パン屋にそんな聞いたこともない物が売ってるか!」

「えっ!やっぱりウソだったんじゃん!」

「あ……やばっ、バレた」

「とっくにバレてるよ!」


 お互いに睨み合うと、一息付いて椅子に座る。


「時間もないし、しょうもないこと言ってないで食べよう」

「マリーが言い始めたんでしょ」

「ほら、食べろよ。俺の買ってきてあげたクッキー」

「なんだか恩義せがましいけど、貰うね」


 机の上に座ったエリーは両手でクッキーを持つと、大きく口を開ける。

 クッキーはエリーが持つと大きく見えるが、俺が持つと普通の大きさだ。


「あ〜ん……う〜ん、おいし〜!」


 美味しそうにエリーがクッキーを食べ始めるので、俺も茶色のクッキーを食べる。


「うまいな」

「うん!」


 クッキーを2人で黙々と食べ、あっという間に食べ終える。


「美味しかったね〜」

「そうだな。……それじゃあ、ログアウトするよ」


 俺はメニューを開いて時刻を確認すると、ログアウトのボタンを押す。


「うん!1時の講習に遅れないようにね!」

「おう!」


 手を振るエリーに、片手を軽く上げて答えると意識が薄れていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ