第6話 『ミツハの実力』
「やっと着いたな」
森の入り口に無事に到着した。
話しながら来たおかげで、道のりが長く感じなかった。
「マリーよ、このままダンジョンでも攻略するか?」
「いや悪いけど、まだ講座を受けてないから入れないんだ」
「ふむ……そういえば13歳以下は冒険者講座を受けないとダンジョンや街から出れないんだったね」
大変だね。っと言いながらやれやれとポーズを取るミツハ。
この態度から察するにミツハは13歳以上のようだ。
「ミツハって13歳以上なんだな。ってことは講座は受けなくて良いのか」
「僕は14歳だからね。講座はオールスルーだよ!」
「へぇ〜」
ミツハとそんな話をしていると、茂みからゴブリンが1体出てきた。
「マリー!敵だよ!」
「ここって敵出るんだったな!」
俺がナイトを召喚しようと構えると、ミツハが前に立つ。
「マリーよ。ここは僕に任せてくれたまえ!」
「おう」
「くらえ!我が闇魔法!」
そう言いながら腕を斜めに挙げる。
ミツハの闇魔法が見れる。そう思っていたが。
「闇に誘いし!」
ガニ股になって腕を前に突き出すミツハ。
そんなミツハに構わず、迫り来るゴブリン。
「我が最強の」
「ミツハ!その変なポーズをしないと闇魔法ってのは使えないのか?!」
ゴブリンが向かって来ているのに、悠長に腕を手でクロスさせながら叫んでいるミツハに文句を言う。
「変とは失礼だな!これは僕が考えた闇魔法を出す際のカッコいいポーズだぞ!」
「そんなポーズしなくていいから、さっさと魔法を……危ねぇ!!」
ゴブリンの攻撃を俺とミツハは何とか避ける。
「せっかく考えたのに仕方ない……」
ミツハがゴブリンに手を翳すと。
『ダークバレット!』」」
手からバスケットのボールほどのサイズの黒い球が飛び出す。
「ガギャッ!!」
黒い球がゴブリン直撃すると、ガラスのように砕け散った。
「まあ、こんなもんかな」
「強いじゃないか!ミツハ!」
「そ、そうかな」
「闇魔法ってこんなに強かったんだな!それに魔法って初めて見たけどカッコいいな〜!なあなあ!もっと魔法見せてくれよ!」
「ふ……ふふふ。そうだろう!そうだろう!闇魔法は強くてカッコいいのさ!!」
ミツハは偉そうに仁王立ちして踏ん反り返る。
「森に入れないのならば、森の周りを歩きながら敵を探そうじゃないか!」
腕を腕を大きく振りながらミツハは闊歩する。
「俺も召喚しておくか。『召喚!』ナイト!」
召喚陣が現れてナイトが召喚される。
「おお!これがマリーの召喚獣か?!カッコいい狼じゃないか!」
「だろ?」
「黒い毛に青い毛があるのがカッコいいね!本物の狼を初めて見たけど、こんなにカッコ良いんだね!!」」
ミツハがナイトをべた褒めしてくれる。
「……エリー、褒められてないからって気を落とすなよ」
「落としてないよ!マリーがそんなこと言うから、気にしてなかったけどちょっと気にしちゃうようになったよ!」
「はっはっはは!エリーも可愛いよ」
俺とエリーの会話を見ていたミツハが、気を使って褒めてくれる。
「そ、そうかな〜」
褒められたエリーは照れながらモジモジとする。
「俺も本当にエリーは可愛いと思ってる」
「ホントに?!」
「鰹節を必死に食べる猫くらい可愛い」
「なんで猫のそんな瞬間と例えるの!もっと猫の可愛い瞬間で例えてよ!」
エリーが不満を叫んでいると。
「ギャギャ!」
ゴブリンが3体、森から現れる。
「マリー!!ミツハちゃんに2体任せて、残ったのをナイトに倒させよう!!」
「うるさっ!」
エリーがいつもより大声で俺に作戦を言う。
例のごとくエリーの作戦を自分が考えたことのように言おうとしたが。
「ミツハ、2体を魔法で」
「『ダークバレット!』『ダークバレット!』」
俺が話している途中にミツハは攻撃を始める。
「マリー!エリーの作戦通り、残りは任せた!」
「え?!お、おう!ナイト!」
指示しながらナイトを見ると、ナイトは俺が言う前に走り出していた。
そのままゴブリンの頭に噛みつき、倒してしまう。
「前みたいに作戦を横取りされたくなかったからね」
「だから大声で言ったのか……」
エリーがしてやったりの顔している。
いつかこの件は仕返ししようと、頭の隅にメモをする。
「さてと、12時前にはログアウトしたいから……このまま森の周りを時間までグルっと歩くか」
「うん、僕もそれでいいよ」
エリーも頷いているので、森の周りを歩き出す。
ゴブリンが3匹出てくれば、ミツハが2匹倒してナイトが1匹倒す。
ゴブリンが4匹出てくれば、ミツハが2匹倒してナイトが2匹倒す。
ゴブリンが5匹出てくれば、ミツハが2匹倒してナイトが2匹倒して、俺が残りの1匹の注意を引く。
「ミツハってどれくらい魔法使えるんだ?」
戦い疲れたので、森から少し離れた場所で小休憩をする。
ゴブリンも数十体は倒したので、ミツハの体力も心配だ。
「まだまだあと100回くらいは使えるよ」
「ミツハのMP多いんだな」
「まあね!闇魔法を多く使えるようにする為に工夫をしてるからさ!」
ミツハは立ち上がると、右手を顔の前に広げて、左手でお腹を押さえる気に入っているポーズをする。
「そうか。ミツハ、レベルいくつ上がった?」
メニューを開いてステータスを確認する。
「1つだね」
「俺も1つだ」
ゴブリンを倒しまくっても、レベルは少ししか上がらないようだ。
「マリーの召喚士のレベルも、もう少しで上がりそうだよ」
横から俺のステータスを覗いていたエリーが言う。
「そうなのか?」
「そうだよ。ほら」
エリーはステータスの召喚士のレベルの下にあるゲージを指差す。
ゲージは8割ほどが青色で、残りは透明をしている。
「これが青色が満タンになったらレベルが上がるんだよ」
「へぇ〜、知らなかったな」
これを目標にして頑張るとするか。
「なあ、ミツハ」
「……」
声を掛けたミツハは、心配そうに周りを見回していた。
「ミツハ、どうしたんだ?」
「ああ、すまない……今日はヴァルハラのヤツらが来ていないかっと思ってね」
ミツハは小さく溜息を吐く。
そういえば、街から出たら襲われると言っていたな。
「街で歩いている時も悪かったね」
「え?……ああ」
街をミツハと歩いていた時に、道行くプレイヤーが何か言っていたな。
『パーティーをいくつも壊したくせに』『最低』『マリーちゃんに教えた方がいいかな』などなど聞こえてきていた。
こうなったのも、今もミツハが街から出て憂鬱になっているのもヴァルハラのせいだと思うと腹が立つ。
「マリー、怖い顔をして大丈夫?」
「ああ。ミツハのことを考えてたら、ヴァルハラに腹が立ってきてな」
俺がそう言うと、潤んだ目でミツハが見つめる。
「マリー……よし!休憩は終わり!時間は有限だ!パパッとゴブリンを倒すとしようじゃないか!」
ミツハは立ち上がってお尻に付いた土を払う。
「おう」
俺も立ち上がり森へと歩いて行くミツハを追い掛ける。