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第5話『ギルドとアドワ2』

「ここがマリー・オレ君の部屋か?」


 邪龍闇ミツハは演技がかった話し方や動きをしながら部屋を見渡す。

 そもそもマイルームなんて、みんな同じ作りなんじゃないのか?


「俺の名前は呼び捨てで良いぞ。これからパーティー組むんだしさ」

「そうか。だったら僕も呼び捨てで良いし、ですますも要らないよ」

「分かった」


 俺は椅子に腰掛けると、対面するようにミツハも座る。


「それよりミツハちゃん、どうして手の甲なんて確認したの?」


 机の真ん中で座布団を敷いて座るエリーが、ミツハに質問する。

 俺も少し気になっていたので、聞いてくれて助かる。


「……少し長い話になるが、僕は闇魔法に憧れがある」

「へえ」

「それは昔読んだ『闇魔法使いとレリ』という絵本の影響だ。知ってるかな?」

「……ごめん、知らないな」


 記憶喪失の今では何を聞かれても知らないと言うだろう。


「そうか……。その絵本では闇魔法使いの主人公が元お姫様のレリの不治の病を治す為に沢山冒険する話なんだが……本当に知らない?指先から闇の魔法を打ったり、闇の魔法で作った龍を出したりするんだけど」

「すまん、知らないな……」

「そうか……。結構人気でアニメ化もしていたんだけど、まあ何年も前の作品だしマリーの年齢的に知らなくても仕方ないか」


 知らなかったことにショックを受けたミツハはブツブツと早口で話す。


「それがミツハがアドワをする理由と何の関係があるんだ?」

「話を戻すけど、その闇魔法使いのように闇魔法が使いたいと思っていた時にアドワ2に出会ったのさ!」


 俺は記憶を取り戻す為だけど、他の人にも色々と理由があるんだな。


「アドワ2はアドワから100年後って設定で前作を未プレイでも大丈夫か不安だったけど」

「……ん?」

「でも案外と新規のプレイヤーも多いって聞いたから勇気を出して買ったんだ」

「え?待て待て、このゲームってそんな設定とかあったのか?」


 ラスボスの魔王を目指して冒険するだけのシンプルなゲームだと思っていた。

 そう聞いた瞬間にエリーが勢いよく立ち上がる。


「ウソでしょ!?マリー、そんなことも知らずにゲーム始めたの?!!」


 俺の顔を見るエリーは驚いた顔をしている。


「どんな話かも分からずに小説買ったようなものだよ?!」

「いや、そういう人は普通にいるだろ」

「完成したらどういう絵になるのか分からずにジグソーパズル買うようなものだよ?!」

「そういう人もいるよ。逆にそれを作る楽しみにしてるくらいだ」

「中身が分からないのに福袋買うようなものだよ!!」

「中身が分からないからワクワクして買うんだろ!どうしたんだ、エリー?今日の例えボロボロだぞ?!」


 的外れな例えばかり言うエリーに俺は心配で声を掛ける。


「例えがおかしくなるくらい、マリーのやってることは凄いってこと!」

「それにしてもだけどな……で?どんな設定なのよ?教えなさいよ」

「急に高飛車なお嬢様みたいに聞いてこないでよ!」

「良いだろう。この僕が直々に教えてあげよう」


 俺とエリーの会話に割って入るように、ずっと黙って見ていたミツハが提案する。


「さっきも言ったが、このゲームは前作のアドワで魔王が倒されてから100年後の世界なんだ」


 ミツハは人差し指を振りながら嬉しそうに話す。

 闇魔法の説明の時にエリーに横取りされたので、説明できるのが嬉しいのだろう。


「魔王を復活させようとする10人の魔人の思惑を阻止する為に僕ら冒険者が冒険しながら頑張るのさ!」


 ミツハは立ち上がり、拳を高らかに掲げる。


「設定の説明終わりか?」

「ああ」

「それで俺の太腿を見た理由は?」


 静かに座ると、ミツハは話を続ける。


「僕がゲームを始めて数日、闇魔法使いの装備を頑張って強くしていた時だ。僕はあるヤツらに襲われた!」

「それって……?!」


 俺は頭の中にガーヴィが浮かんだ。


「ヴァルハラっていうギルドグループのプレイヤー2人だ」

「ヴァルハラ?」

「ああ、女性だけしかいないので有名なギルドで、メンバーの手の甲や肌の露出している部分にはバラのタトゥーを入れているんだ」

「だから俺の手の甲を見たのか」


 そういうとミツハ黙って小さく頷く。


「その2人は僕をヴァルハラに勧誘しに来た。けど僕は人と群れるのが嫌だった。言うなれば、一匹黒狼(くろおおかみ)というやつさ!」

「……へえ」

「だがその勧誘を断った日からしつこい嫌がらせが始まった。街の外に出れば襲われ、街では変な噂を広められ……」


 ミツハは悔しそうに机の上に置いた手を握り締める。


「するとある日彼女たちは提案してきた。1体1のPvPに勝っても負けても大人しく引くと、そのかわりPvPでお互いに全身の装備を賭けることを提案してきた」

「そんで負けたのか……」

「ああ、負けた!アイツは闇魔法の対策を徹底的にしてきた!あんなの勝てるわけがない!」


 エリーはどうして良いのか分からずに俺とミツハを交互に見る。


「ミツハ、聞かせてくれ」

「……何かな?」

「ギルドってのは何だ?クエストを受けるところじゃないのか?」


 そう言うと、座っていたエリーが転ける。


「マリー!ミツハちゃんの可哀想な話を聞いて、もっと気の利いたこと言えないの?!」

「可哀想だとは思うけど、仕方ないだろ?それよりギルドについて教えなさいよ」

「もう高飛車なお嬢様はいいよ!……ギルドっていうのはね、簡単に言うとパーティーを大きくしたものかな?」


本当に簡単に言ったな。

大きな規模のパーティーって解釈で良いのか?


「マリーよ。今日は何をする予定なんだい?」

「そうだな……。これから外に出てゴブリンでも倒しに行こうぜ、ミツハ。金稼いでもう一度、闇魔法の装備を買うのが良いだろ」

「……ああ、そうだね。その通りだ」

「よし!そうと決まったら早く行こうぜ!昼ご飯までに良いとこまでやりたいしな」

「うん」


 森の前に行くことが決まったので、2人で扉から出る。

 外に出て門へと歩いていると、気のせいか俺とミツハに対してヒソヒソとプレイヤーが話している。


「なあ……」


 気になったのでミツハに話しかけようとしたが、ミツハは悔しそうに俯いている。

 そういえば、ヴァルハラに変な噂を流されていると言っていたな……周りのプレイヤーの態度はそのせいか。


「気にすんなって」


 俺はミツハの背中を叩いてやる。


「うん……」


 そのままお互いに何も話さずに門へと向かった。

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