第4話 『はじめまして』
時刻は約束をした10分前。
「『召喚!』エリー!」
ログインするとベッドから飛び起きて、エリーを召喚する。
もしかしたらエリーは待っているかもしれない。
でも言っても、言ってもだ。20分くらい待たせただけだし、エリーもそんなに怒ってないはずだ。
どうせ『も〜!おっそいよ〜!ぷんぷん!』みたいに冗談で許してくれるに違いない。
「エリーごめ」
召喚したエリーを見れば、ヤンキー座りをして、白い特攻服を着ていた。
サングラスをかけて、いつも下ろしている髪もオールバックにしている。
特攻服の下は服を着ずにサラシを巻き、ブカブカの白いズボンに釘バットを肩に担いで持っている。
「ん」
めっちゃ怒ってる!見るからに怒ってる!
いやいやいや、もしかしたら格好だけで話してみたら怒ってないのかも。
「……釘バット作ってきました。マリー叩くために精一杯作ってきました」
めっちゃ怒ってる!そんで物凄い怖いこと言ってる!
俺叩く為だけに釘バット作ってくるって、どんだけ怒ってんだよ!
「心を込めてバットに釘を打ちました。マリーを叩く為にです」
敬語怖っ!
本当に怒ってる人って敬語になるって言うよね。
この状況はどうすれば正解なのか正しいのか……考えるのも面倒だ。
「……エリー着替えろ。さっさと行くぞ!」
俺は謝っても許してくれるか分からないし、エリーに付き合って時間に間に合わなくなるのも嫌なので、強引に行くことにした。
「え?ちょ、ちょっと!せっかく釘バット作ったんだから構ってよ!」
「構ってたら時間に間に合わないだろ、さっさと行くぞ!」
「待ってよ〜!」
俺は出口の扉に手を掛けると、いつもの白いワンピースの服装になったエリーが急いで飛んでくる。
外に出ると、急いで噴水まで走って向かう。
「マリー、私は怒ってるんだよ!ちゃんと時間は守ってよね!」
俺と並んで飛んでいるエリーは文句を言ってくる。
今回は俺が完全に悪いので謝っておこう。
「悪かったよ、色々してたら遅れたんだよ」
「次遅れたらあんなもんじゃ済まさなさないよ!」
次はあの特攻服以上なのか……また遅れて見てみたい気もする。
そうこうしていると噴水広場に到着する。
始めてログインした思い出の場所なので、行き方は何となく分かった。
「噴水の広場ってここだよな?」
「うん、街に噴水がある場所はここだけだよ」
「あっ、あの子だ」
噴水の周りを探していると【邪龍闇ミツハ】と表示されているプレイヤーを見つけた。
横からしか見えないが、中学生くらいの女の子だった。
格好はアドワの初期装備だろうか、駆け出しの冒険者みたいな格好をしている。
「……よし」
俺は勇気を出して邪龍闇ミツハに話しかける。
「ど、どうも、はじめまして。約束してたマリーです……」
「えっ……お、おお、はじめまして!僕こそが闇魔法の使い手!邪龍闇ミツハだ!」
邪龍闇ミツハは前髪をカッコつけて払うと、右手を顔の前に広げて、左手でお腹を押さえる不思議なポーズをする。
右手の指の隙間から、片方だけ紫色の瞳が俺を覗いている。
「は、はぁ……どうも。えっと……俺はマリー・オレって言います。それでこいつはクワガタを司る妖精のエリーです」
「違うよ!光を司る妖精!自己紹介で冗談言わないでよ!」
「ああ、知ってるよ。君たちは、この街ではかなり有名だからね。僕の名前はさっきも言ったが闇魔法の使い手邪龍闇ミツハだ!」
「はぁ……ん?」
闇魔法……闇魔法使い?そういえば、俺が以前使っていた暗黒騎士も名前の通り闇魔法的なのを使っていたのかな?
もしかしたら、記憶の手掛かりになるかもしれないので聞いておこう。
「闇魔法ってどんな魔法なんですか?」
「ふっふっふ、闇魔法が気になるのかい?お嬢さん。良いだろう、僕が闇魔法について教えてあげようじゃあないか!」
「マリー、闇魔法はね。相手の動きを妨害したり、邪魔をしながら攻撃するっていう魔法が多いジョブだよ」
気分良く話そうとしていた邪龍闇ミツハの横から、エリーが割って話し始める。
「ちょっ…!」
「それでね、闇魔法と暗黒魔法っていうのがあって、暗黒魔法は闇魔法の上位版みたいなかんじで闇魔法はあんまり使ってる人が少ないんだ」
「ちょっと!そこのクワガタの妖精さん!私が話そうとしたんだから言わないでよ!」
「クワガタじゃないってば!」
素が出る、邪龍闇ミツハ。ハッとなり咳払いをする。
「これは割って話してきたエリーが悪いよ。クワガタ風に謝りな」
「どうやって謝るの?!普通に謝るよ!先に話しちゃってごめんなさい」
「だ、大丈夫だよ!まあ話を続けるけど、暗黒魔法のせいで闇魔法を使うプレイヤーは少ないが、僕は闇魔法には憧れがあってね。だから闇魔法を使っているのさ!」
闇魔法と暗黒魔法か。だったら暗黒騎士はやはり暗黒魔法を使っているのだろう。
次にマリアに会ったら見せてもらおうかな。
「マリー・オレよ。聞いているのか?」
「え?あっ、ごめんボーッとしてた」
「僕をパーティーメンバーに加入させてくれる話だが」
「ああ、もちろん大歓迎だよ」
エリーを見るとニコリ笑って頷く。
「……その前に申し訳ないのだが、その手袋を外して手の甲を見せてくれないか?」
「え?ああ、別に良いけど」
俺とエリーは不思議に思いながら召喚士のグローブを外して、手の甲を見せる。
「すまない。本当は太腿も見せてほしいが……今はいいか」
「太もも?別にいいよ」
俺は履いていた膝まであるズボンを捲り上げて見せる。
すると、周りを噴水の広場で待ち合わせをしていた男性プレイヤーたちが俺を見る。
「ば、ばか!こんな場所で女の子が捲るんじゃない!」
ミツハが強引にズボンを元に戻す。
「あっ、ああ、ごめんごめん」
「詳しい話は君のマイルームで話そうではないか」
「そうだな」
俺はメニューを開いてマイルームに行こうとする。
「ちょっと!マリー!先にミツハちゃんをパーティーになるか、フレンド登録しないとマリー1人だけで移動しちゃうよ!」
「そうなのか?じゃあフレンド登録しておくか…」
「メニューの人のマークを押して、そうそうそれで…」
俺はエリーに言われるがままに操作して邪龍闇ミツハにフレンド登録を申し込む。
「うむ、フレンド登録したぞ」
「これでマイルームに一緒に移動できるよ」
「よっし!移動だ!」
俺はマイルームに移動するボタンを押す。




