3話 『日常3』
「前から沙希も言ってるけど、ゲームばっかりしてると勉強が疎かになって、進級が怪しくなっちゃうよ。そもそもゲームっていうのは……」
説教が始まってしまった。
姪っ子の目の前で同級生の女の子に説教される。
ちくしょう!こんな地獄があるかよ!
「そ、それよりさ!遊吾はどうして神社に来たの?」
沙希が割り込んで話を強引に変えてくれる。
「あ、ああ。実は姪っ子にこの大きな木と神社を見せに来たんだよ」
「姪っ子?……ふ〜ん。たしかに大きな木がある神社って珍しいのかな?」
優愛の説教が終わった。ありがとう、沙希!
沙希を見ると、親指を立ててパチっとウインクしてくる。
「優愛たちは久しぶりに見に来ただけなんだろ?」
「うん。三人で子どもの頃によく遊んでた、この神社に久しぶりに行こうって話になってね」
「……懐かしいな」
この神社で俺と沙希と優愛はよく遊んだ。
ゲームばかりしていて友達が居なかった俺の唯一の親友二人と遊んだ場所。
「遊吾、覚えてる?この木の裏に落書きしたの」
「覚えてるよ。忘れるわけないだろ」
「良かった。遊吾は忘れてるんじゃないかって優愛と話してたんだ」
忘れるわけがない。
若気の至りでこの大木に彫刻刀で落書きした。今だと絶対にしないだろう。
そんなことを考えていると、後ろで隠れていたマリアが帰るのを催促するように俺の手を握る。
「ごめん!俺、帰るな」
「あっ、姪っ子ちゃんも帰りたいよね!ごめんね」
「ああ、また暇な時にでも連絡してくれ!」
「そう言っておきながら、ゲームがあるとかで断るでしょ」
呆れた顔をしている優愛に手を振って、俺はマリアの手を引いて神社を後にする。
「話長くなってごめんな、マリア」
「ゲーム貸してくれたら許してあげる」
「さあ、帰ろうか」
「えっ?!ね、ねぇ!ゲーム貸してくれないと許さないって!」
「さあ、おウチに帰ろ。あったかいおウチに」
マリアは一度決めると諦めない。
過去にもワガママは何度かあり、兄たちや両親が諦めて買い与えていた。だがみんなのように俺は諦めたりしない。
「マリアだって自分のキャラでやれば良いだろ?ゲーム上手いんだし」
「イヤなの〜!ユーゴの暗黒騎士が良いの〜!あのキャラを使いたいの〜!」
握っている俺の手をブンブン振りながら駄々をこねる。こんなことになるなら見せなかったら良かった。
「マリア、考えてもみろよ。俺が二年間も使って愛着もあるうえに、お金を掛けてガチャをして重ね着装備を買ってカッコよくしたキャラを俺が貸すと思うか?」
「思う!」
「えぇ……」
マリアは俺の顔を見つめながら、青く綺麗な瞳を見開き真顔で言い切る。
「そっか……」
「うん、だから貸して。ね?」
「そっか」
「貸して」
しつこい。今回のワガママもしつこい。だが絶対に折れるものか。
「私の方がゲーム上手いんだから、私がユーゴのキャラを使った方がいいと思うんだけど?」
「たしかにマリアはゲームは上手いけど……じゃあマリアのキャラと交換したとするぞ」
「してくれるの?!!」
「例えばの話だよ」
「な〜んだ」
キラキラとさせながら俺を見つめてきていた目の光が消える。
「俺がマリアのキャラを使ったりしたらさ、見た目がマリアのせいで変なのに絡まれたりするのとか面倒くさいだろ?」
「私もそれが嫌だから交換してほしいの〜!」
「なんてワガママな……」
赤信号で止められ、青になるのを待つ。
待っている間もマリアはワガママを言い続けている。
「あのな〜もう諦めろ……って」
注意する為にマリアに視線を落とすと、ありえない光景が目に入った。
マリアの背後で幼児がボールが転がっていくのを追いかけ、道に飛び出して行っているのだ。
「ウソだろ……!!」
右を見れば車が来ている。きっとあの車は止まってくれるはず……でも、もしも!
「マリア!そこに居ろ!!」
「ユーゴ?!」
マリアをその場に残し、無我夢中で幼児を追いかける。
「くっ……!」
幼児を抱きかかえると、後ろにいる何か叫んでいる母親らしき人に放り投げる。
「やった!!」
上手く母親の胸にキャッチされるのを確認すると同時に、乗用車に轢かれ吹き飛ばされる。
吹き飛ばされると景色がスローモーションに見える。
地面にゆっくりと落下する……気のせいだろうか?俺を見てマリアが笑っていたように見えた。
ゆっくりしていた速度が戻り地面に落ちると、俺の意識は無くなった。




