第2話 『会話』
メニューを開いて時刻を見れば『19時45分』と、意外と時間が経っていた。
「外に出るには微妙な時間だな……今から何かすることってあったか?」
「う〜ん、明日の予定でも決めておく?」
「そうだな……あ、明日といえば、パーティーメンバーの募集のアレにメッセージが来たから会いに行くよ」
「え?そうなの?」
「ああ、明日の朝10時に会う約束したんだよ」
メニューを開き、手紙のマークのアイコンを押して受信したメッセージを表示する。
「明日のAM10時に噴水前に集合。名前は邪龍闇ミツハ……じゃりゅうあん?」
「変わった名前だね…」
名前を聞いたエリーが何とも言えない顔をしている。
「エリー、名前で人を決めるのは良くないぞ」
「そうだね、ごめん」
「全く…頼むから会った時に、がっはっはっはっは〜!変わった名前だな!とか言って指差して笑ったりするなよ」
「しないよ!!なにその豪快でデリカシーないキャラ!!私そんなこと言わないよ!」
「だったらいいけど、とりあえず明日は邪龍闇さんと会うってかんじで」
エリーが腕で大きく丸を作り『オッケ〜!』と元気よく返事をしたのを確認して、俺はメニューを閉じてベッドに座る。
俺の前にエリーが飛んで来るとお互いの目が合う。
「……あの時は本当にダメだと思った」
俺はエリーから目線を外し、床を見つめながらポツリと言った。
「え?」
「プレイヤーキラーさ。合成士のおかげで余裕で勝ったように言ったけど……」
「……」
エリーは下を向いて何も言わなかった。
「スピカも動けなくて、エリーも居なくなって、ナイトも居なくなって……本当にもうエリーに会えないと思っていた」
自分の中に押し込んでいたモノが溢れそうになるのを抑えながら話す。
「俺は運が良かったんだ。もしもガーヴィが最初から本気で攻撃してきていたら負けていた…。もしもガーヴィが油断していなかったら、もしも俺が合成士を使えるようになっていなかったら、もしもスピカがいなかったら……」
「そうだね…」
「エリーも相談も無しに居なくなるし…」
「マリー…私」
「エリー、良いんだ」
何か言おうとしたエリーの言葉を遮る。
言おうとしていることは大体だが予想できる。
「でもマリー」
「エリー!!」
「私」
「エリー!!」
「マリ」
「エリー!!!」
これでもかと言葉を遮ってやると、エリー怒りながら俺に飛びついてくる。
「さっきからなに?!喋らせてよ!」
「だったら何を言おうとしたんだ?予想はできるけど」
「謝ろうと思ったの…」
エリーはワンピースの裾をギュッと握る。
「……別に謝らなくてもいいよ。あの時のエリーの判断は正しかったんだ」
「怒ってないの?なんだか謝ったほうがいい気がしたんだけど」
「怒ってないよ…ただ相談はしてほしかったってだけだ。急に飛び出してクナイに刺さりに行くんだから、俺にも心の準備っていうのがあるんだからさ。HPがなくなって消えた時に思ったことは、次に会ったら往復ビンタ7回って決めたし、だいたいエリーは」
「やっぱり怒ってるじゃーん!!」
エリーが涙目で叫ぶ。
「冗談!冗談だよ!本気にするなよ!」
「ホントに?ホントに冗談?怒ってないの?」
「怒ってない、怒ってない」
エリーは「だったら良いけど」っと小さく言いながら目を擦る。
「ちなみにさ、さっきのだいたいエリーは…のあとは何て言おうとしてたの?」
「あ〜〜…だいたいエリーはのあとは……俺と会った時も、がっはっはっはっは!!可愛い娘っ子だな!!って笑ってたよなって言おうかと」
「もういいよ!!そのデリカシーのない豪快キャラ!!」
「その可愛い手で酒でも注いでもらおうかなって言ってなかったか?」
「言わないよ!!山賊の親分か何かじゃないんだから!!」
「その可愛い口で大きな唐揚げでも食べてもらおうかな!」
「言わないって!」
「その可愛い目でジッと見つめてもらおうかな!」
「言ってないって!」
「その可愛い耳でヘビメタでも聞いて」
「言わないって!!しつこいよ!……あと途中から私はマリーに何を要求してるの?!」
「はっはっはっは!」
やっぱりエリーは面白い。
居なくならなくて本当に良かった。
エリーが居ないのなんて考えられない。
「どうしたのマリー?」
俺がしみじみとエリーの大切さについて考えていると、心配そうに声を掛けてくる。
「疲れたし今日はログアウトしようかなって思ってさ」
「自分勝手だね!こんだけ私を弄んでおいて!」
「変な言い方するなよ。まあ、明日の9時半くらいにログインするから、それまでカブトムシとクワガタの違いをレポート5枚にまとめておけよ」
「ヤダよ!よくわかんない宿題出さないでよ!」
最後までエリーは面白かったな。
AIってみんなこんなに面白いのかな?
俺はメニューを開いてログアウトのボタンを押す。
「おやすみ!マリー」
笑顔で手を振るエリーに手を振り返すと視界が暗くなる。
寝転がっている感覚になったので現実の世界に戻ってきたようだ。
「よいしょ……」
ヘッドギアを外して机の上に置くと、俺は横になりスマホをいじる。
真っ暗な部屋でのスマホは視力を下げるのだが、数分ならきっと大丈夫だろう。
ドラゴンにどれだけ木の棒で殴っても効かないのと同じだ。
「あ…」
ドラゴンの話をエリーにするのを忘れてたな。
きっと驚くだろうなエリーのやつ、絶対に明日話してやろう。
スマホのアラームをセットして布団を被る。
どうやってエリーにドラゴンの話をしようかと考えているとウトウトしてくる。
こうして長いように感じた1日が終わった。
掲示板みたいな他のプレイヤーが主人公のことをどう思っているかみたいなのは必要なのか悩んでいます。
はたして需要があるのか、見たい読者はいるのか。結構悩んでいます。
悩みながら投稿しました。よろしくお願いしますと思います。




