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第35話 『遭遇と好物』

 俺はふわふわのウサギ手袋で、流れた涙を擦る。


「……ん?」


 目を擦っていると、大きな影が辺りを暗くする。

 雲かと思い上を見上げると、空に飛んでいるモノに気付く。


「ウソだろ……」


 青い体に長く鱗のある生き物が幻想的に上空で飛んでいる。

「クゥーーー」と鳴き声も聞こえる。


「ドラゴンだ!」


 不思議なことに記憶は無いが、あの生き物がドラゴンというのは分かる。

 ドラゴンが動くたびにキラキラと体から水飛沫が舞う。


「すげぇ綺麗だ」


 語彙力のない一言を言ってしまう。

 いや……そんな言葉しか浮かばないほどに、空を飛ぶ姿は美しかった。

 カサッと何かが俺の近くに落ちた音がした。

 音のした方を見て、もう一度ドラゴンを見ると居なくなっていた。


「ドラゴンだった……よな?」


 どうしてドラゴンが居たのか?どうして突然現れたのか?他にも見ているプレイヤーは居たのか?

 色々なことを考えながら音のした場所に行くと、手の平サイズの綺麗な青い鱗が1枚落ちていた。


「これってあのドラゴンのか」


【水龍の鱗】(R8)

『水龍がたまに落とす鱗。加工素材】


 拾ってみると詳細が表示された。


「レア度高っ!」


 あのドラゴンって結構レアキャラだったのかもしれない。

 鱗を持ち物に仕舞う。


「帰るか……」


 来た時はエリーも居たのにな、一緒にドラゴン見たかったな。

 ……待てよ!PvPが終わったならエリーを召喚できるんじゃないのか!


「エリー!『召喚!』………」


 何も起きない。不安になりメニューを開き、召喚士の項目を詳しく確認する。


『HPが0になった召喚獣は3時間経たないと召喚出来ない』


 メニュー画面の時計を見ると、17時25分だった。

 ログアウトして、夜にもう一度ログインすればエリーも復活しているかもしれない。


「仕方ない。諦めるか」


 ガーヴィとのPvPでクタクタだ。歩いて帰るなどと考えるのも嫌だ。

 開いているメニュー画面の、マイルームにワープできる家のマークを押すと『マイルームに戻りますか〈YES/NO〉』が表示される。


「YESっと」


 目の前が真っ暗になり、数秒後には見覚えのある木で作られた部屋に移動していた。


「あれ?」


 自分の姿を見れば、召喚士の装備に戻っていた。

 もしかしたらマイルームに入ると、合成士の装備は強制的に解除されるのかもしれない。

 考えるのをやめて、俺はマイルームにあるベッドに横になり、もう一度メニューを開いてログアウトのボタンを押す。


「んん…」 


 目を開けると真っ暗だった。


「ゆーーごーー!!」


 扉が勢いよく開く音が聞こえる。


「ごっっはんだよーーー!!」


 床をドタドタと走る音が近づいて来る。

 恐怖。視界が真っ暗な中で、自分に近付いて来る足音は恐怖しかない。

 俺は急いで視界を塞いでいる原因であるヘッドギアを急いで外そうとする。


「ごおおおおおはあああああんんんーーーー!!!」

「ぐふっ!」


 ヘッドギアを外すのが間に合わず、視界が見えない状態で腹部に何かが落ちてくる。

 ガーヴィに蹴られた時の5倍くらい痛い。


「おきろ〜!おきろ〜!おきるんだ〜ジョ〜ク!」


 お腹の上でヒップ・ドロップを何度もされる。

 誰だ、ジョークって!

 頭に被っていたヘッドギアを外す。


「起きた!起きたよ!ありがとう、櫻子!起こしてくれて!!」

「やっと起きた〜。ママがごっはんだよって!」

「あ、ありがと」

「うん!どういたまして〜!」


 櫻子は俺の上から軽快に飛び降りると部屋を出て行く。


「いたましてってまた言ったな」


 櫻子の中で流行ってるのか?っと思いながらリビングへと降りて行く。


「遊吾、ご飯出来てるわよ。今日のご飯は遊吾の大好物の野菜たっぷりの焼きビーフンよ」

「ビーフン……」


 俺の好きな食べ物のクセ凄いな。


「俺ってビーフンそんなに好きだったの?」

「そうよ、記憶をなくす前の遊吾は『大人になって車を買ったら、先ず助手席にビーフンを乗せてあげたい』って言ってたわね」

「……意味は分からないけど、好きだったことは分かったよ」


 すでに仕事で不在の父親以外、みんなは席に座っていた。

 どうやら俺が来るのを待っていてくれていたようだ。

 俺も自分の席に座る。


「いただきます」


 ビーフンという料理も知っているし、味も知っている。

 流石にボロネーゼの時のような衝撃はないだろう。


「美味しいっ!」


 口に入れた瞬間に好きになった。美味しい。知っているだけで実際に食べると美味しいものだ。

 記憶を失くして良かったと食事の時だけ思ってしまう。


「美味しいよ!お母さん!」

「ふふふ、当然でしょ!遊吾の好きな料理なんだから!」


 気のせいか優しい目をした母が見てくれるなか、2杯おかわりして晩御飯を済ませる。

 その後、お風呂に入り自分の部屋へと戻る。


「まさかボロネーゼの次に好きな料理はビーフンだったとはな〜」


 ベッドに座り、先ほど知った記憶を失くす前の好物がビーフンだったことにジワジワと驚きが湧き上がってくる。

 ヘッドギアに接続していたスマホを外して、連絡がないか確認すると。


『メンバー募集の掲示板見ました。是非パーティーに入れてください』


 パーティーメンバー募集のアレを見てメッセージが来たようだ。


「是非よろしくお願いします」っと送ると。


『明日の朝10時に最初の町の噴水で会いませんか?』


 そのメッセージに対して「了解です」っと送る。

 暫くしてもメッセージの返信が返ってくる気配はなかった。


「返事、淡白過ぎたかな」


 スマホを枕元に優しく投げ、真っ黒な掛け時計を見ると時刻は『19時』だった。

 ガーヴィにエリーが倒されたのが17時だと考えると、復活までまだ1時間ある。


「とりあえずログインして待つとするか」


 スマホを接続してヘッドギアを被り仰向けに寝転がる。


「ロ〜グ」


 電源ボタンを長押しする。


「イ〜ン!」


 キィーーンと音が鳴り眠気が襲ってくる。

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