第33話 『チュートリアル』
カキン!っと、ガーヴィの投げたクナイが俺の前で弾かれる。
「どうなってる?」
ガーヴィは、俺を見て驚く。
「これは……?」
俺を守るように、ドーム状の青い半透明なガラスが覆っていた。
【EXジョブ『合成士』が条件を満たしました。合成士のチュートリアルを開始します】
驚くガーヴィを他所に、俺の頭の中にアナウンスが話しかけてくる。
【3分間のチュートリアル後、PvPが再開されます。PvP中の為、チュートリアルは1度しか行われません。説明の聞き逃しのないようご注意ください】
メニューが勝手に表示される。
「チュートリアルですって……?まさかチュートリアル中の攻撃は不可になっているなんて、クソ!」
苛立ちながら、ガーヴィは俺を睨む。
ガーヴィの方にも何かしらのアナウンスが流れているのかもしれない。
「フッ……でも残念ね!チュートリアルが終わってバリアが消えた瞬間に殺してあげる!そうすれば新しく手に入れたジョブは無意味よ!」
「くっ……!」
俺はガーヴィの言っている事を心に留めておき、チュートリアルに耳を傾ける。
【メニュー画面を開き、合成士の項目を開いてください】
メニューにある合成士の項目を見ると、以前まであった錠前のマークが無くなっていた。
俺は合成士を開いてみる。
【次に合成したいものを選択してください。合成士は低確率で自分の所持しているモノを2つ合成して1つにすることが出来ます】
「合成したいモノ?」
画面を見ると、装備品など色々選択できた。
そこで俺はあることに気付いた。
「どうしてスピカも選択出来るんだ?」
選択する画面には『召喚獣』『装備品』『消耗品』と3つにカテゴリーが分かれていた。
その召喚獣のカテゴリーには、スピカが選択可能であった。たしかに召喚獣も所持しているモノと言えるのか……?
ナイトやエリーの文字は、灰色になって選択することが出来ない。
【合成士はレベルが上がっていくと確率が上がっていき、合成出来る数も増えていきます】
「へぇ」
そこで俺は、あることを思いつく。
もしも召喚獣と装備を合成する事が出来れば、強い装備が作れるんじゃないのか?
ガーヴィを倒せる方法は、もうこれしかない。
考えを固めていると、メニュー画面が勝手に閉じる。
【チュートリアルは以上です。30秒後PvPが再開されます】
バリアに数字が現れる。
「なに?!」
数字が減って、カウントが始まる。
俺は慌てて先ほど思い付いた『召喚獣と装備を合成』をする為、メニューを念じてもう一度開こうとする。
「メニューが出ない……!」
何度念じてもメニューが現れない。
【PvPでの公平さを期すため、PvPが再開されるまでメニューの表示やスキルの使用は出来ません】
「そんな〜!」
どうすればいい?!せっかく新しいジョブを使えるようになったのに、ガーヴィの言ったようにバリアが消えた瞬間に倒されたんじゃ意味がない!
「どうすれば良いんだ?!」
カウントは刻一刻と迫る。
一瞬でメニューを開いて合成するしかないのか?
……無理だ!ガーヴィがそんな時間を与えてくれるわけがない。
頭の中で考えがグルグルと回る。
「こんな時にエリーが居てくれたら……」
俺はエリーが、スピカを召喚する時に言っていた言葉を思い出す。
『召喚をするのにメニュー画面を開いてする必要ないよ。使いたいスキルやアビリティがあれば強く念じれば使えるよ』
「そうだった……そうだったな、エリー」
俺は落ち着き、残りの問題であるガーヴィの攻撃の対処法を考える。
きっと俺が念じて合成士のスキルを使うよりも、ガーヴィの攻撃の方が速いだろう。
だったら避けるしかない。アイツの攻撃を予想して避けてから念じて合成するんだ!
「3……2……1」
「……」
ガーヴィがカウントを読みながらクナイを投げる体勢を取る。
俺も体勢を整えて避ける準備をする。
「『投擲!!』
「きた!!」
アイツが狙う場所は、エリーを狙った時と同様に。
「ここだーー!!!」
俺は身体を左に動かす。
「いつっ!」
「馬鹿な?!」
俺の左脇腹をクナイが掠っていく。
予想通りだ!ガーヴィは絶対に俺を即死させる為に、心臓を狙ってくると思っていた!
「装備!」
俺は槍使いの軽装備を装備する。
「槍使いの装備……?フッ、チュートリアルをして何のジョブを手に入れたと思ったら、槍使いのジョブを手に入れたの?!せっかく手に入れたジョブが槍使いだなんて!キャッハハハっ!!」
ガーヴィが何か勘違いをしているので、俺はその間に合成を始める。
「EXジョブ合成士のスキル!『合成!!』」
俺は頭の中でスピカと、クエストの報酬で貰った槍使いの軽装備を選択する。
『ピポーン』と妖精女王の加護が発動した音が鳴る。
「合成士?」
俺の目の前にスピカが召喚され、装備していた槍使い軽装備に吸い込まれていく。
槍使いの装備が発光しながら形を変えていく。
「これは……!」
「どうなってる?!」
発光が収まっていき、形の変えた装備の全貌が明らかになっていく。
「プッ、キャッハッハッハッハッハ!!!なにその可愛い格好?!」
ガーヴィは俺を指差して大笑いする。
俺は自分の姿を見る。白いモコモコした胸当て。
白いモコモコしたドロワーズ。
手袋や靴はフワフワしており、ウサギの手をモチーフにした形をしている。
武器の槍も白くなり、槍の先端もウサギの形をしたスタンプになっている。もはや槍なのかどうかも怪しい。
頭を触れば 、モコモコとしたウサ耳のカチューシャらしき物を付けている。
「なんだよコレ……」
ガーヴィが大笑いするのも当然の格好だ。
「バッカみたい!なにが起きるのかと思えば、そんなふざけた格好でなにが出来るって言うの?!キャッハハ!」
「くっ……」
「終わりよ。面白いものを見せてもらったわ」
ガーヴィがクナイを構える。
「その可愛い姿で死になさい!スキル『投擲!』」
「クソ!!」
投擲で投げたクナイは俺を目掛けて飛んでくる。
「ちくしょー!!」
俺は飛んでくる飛苦無を咄嗟に掴み取る。
「え……?」
「は……?」
俺とガーウィは揃って気の抜けた声を出して驚く。