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第32話『別れ』

「ッ!!ナ二ッ?!戻したんじゃ……?!」


 エリーが飛び出した瞬間、クナイを投げようとしたガーヴィは驚いて動きが止まる。


「マリーに戻したフリをしてもらったんだよ!貴女の百発百中の本当の効果は【自分に一番近い相手に確実に当たる効果】」

「……え?」


 エリーはなんて言ったんだ?ガーヴィに一番近い相手って……?


「一番近い相手は私だよ!」

「エリー……?」

「こ、このっ!!」

「さあ投げなよ!2回目の百発百中のスキルを!貴重なユニークスキルを私に使いなよ!」

「クソ妖精がーー!!!」


 ガーヴィが怒りに任せてクナイを勢いよく投げる。

 投げたクナイは真っ直ぐにエリーに向かっていく。


「やめろーー!!」


 俺は飛んでくるクナイから、エリーを守ろうと駆け出す。

 だが、クナイは無慈悲にもエリーの胸に突き刺さる。


「エリーー!!!」


 エリーは俺に振り向くとニコリと笑う。


「信じてるよ……マリー」


 エリーの体にヒビが入っていき、粉々に砕け散った。


「そ……んな…………」


 少し前まで楽しく冗談を言い合っていた相棒。

 エリーの無残な姿を見て俺は、力が入らず膝から崩れ落ちるように座る。

 キラキラ光りながら舞う粒子となったエリーが手に乗る。


「エリー……ふざけんなよ!……勝手に消えやがって」


 手に乗った粒子を見つめると、すでに手には何もなかった。


「とんだ無駄死にね」


 俺の側まで近付いて来ていたガーヴィが見下ろしながら言う。


「フン!」

「がっ……!」


 ガーヴィに顔面を蹴られ、俺は地面を転がる。


「くっ……」


 痛みで顔を押さえながらガーヴィを睨む。


「百発百中が使えなくなったところで、アンタを殺すのに支障はないのよ」

「ガウ!!」


 ナイトがガーヴィに襲いかかる。


「遅い」


 飛びついて嚙みつこうとしたナイトを、ガーヴィは容易に避ける。


「鬱陶しいワンちゃんね」


 俺の前でナイトは体勢を立て直し、ガーヴィと対峙する。


「ナイト……」


 俺をチラリとナイトは見ると、覚悟を決めた顔をする。


「ガァウッ!!」


 ダークウォールが2枚、ナイトとガーヴィを挟むように壁が生まれる。

 高さ3メートルほどの壁により1本の道のようになった。


「そうか……!アイツがどれだけ速くても壁に挟まれていれば後ろにしか避けれない」


 避ける方向が分かっていれば、AGI(素早さ)の差は殆ど関係ない。

 壁を2つ作っているせいか、ナイトのHPがグングンと減ってきている。


「フフッ……」


 ガーヴィは口元を手で押さえながら笑うと、人差し指をナイトに攻撃をして来いと言わんばかりに動かして挑発する。


「ガウ!!」


 ナイトがガーヴィに向かって駆ける。

 体全体を躍動させながら駆ける。その姿は獲物を本気で狩る狼のようだ。


「ガウッ!!」


 ガーヴィが後ろに避けたと同時に、大きく口を開けたナイトが飛び掛かる。


「残念でした。暗殺者奥義『超瞬足』」


 ガーヴィの腕が消える。

 すると、飛び掛かっていたナイトの体に異変が起きる。

 瞬きをして目を開けた。ほんの一瞬の間にナイトの体には十数本のクナイが突き刺さっていた。


「ガッ……」


 ナイトが呆気なくヒビが入り砕け散る。


「そんな……」


 何が起こったのか全く分からなかった。


「くだらない。弱い存在のすることは、強い存在の前では全て無意味なのよ」


 ガーヴィが俺に近付いて来る。


「子どものアンタに良いことを教えてあげる。生きている者には役割があるのよ」

「がっ……」


 目の前に来たガーヴィは、優しく話しながら座っている俺を蹴る。


「私は強く、弱い物から奪う役割」

「うっ……!」


 ガーヴィが俺の顔を何度も蹴る。

 俺は地面に倒れる。


「そしてアンタたちザコは弱く、強い者から奪われる役割がね!」

「がはっ……!」


 倒れる俺の腹部を蹴られ、後方に吹き飛ぶ。


「くそ……!」

「もう終わりね。残るはアンタと……」


 俺の後ろで麻痺で倒れているスピカをガーヴィは見る。


「っ ……『戻れ!』」


 痛みを耐えながら、スピカを召喚石に戻す。

 これ以上、召喚獣(仲間)が消えるところは見たくない。


「まあいいわ。さてと、どう殺そうかしら……」


 ガーヴィがゆっくりと近付いて来る足音が聞こえる。

 負けだ……。もう……勝つ方法が思い付かない。


「う……」


 俺は、情け無く地面にうつ伏せで倒れている。

 身体が痛い……力が入らない。


「あの妖精が居ないと何も出来ないのね」


 妖精…………その通りだ。俺はエリーが居ないと何も出来ない。

 エリーが居ないとアイツに勝てない。

 エリーが居ないと何も分からない。

 エリーが居ないと俺は………。


「っうぅ…………!」


 涙が流れる。

 病院で目が覚めたら記憶が失くなっていた。

 俺を知っている人は居ても、俺が知っている人は居ない。

 記憶を失くした俺に、気を遣いながら話しかけてくる家族に寂しさを感じた。

 色々あってアドワを始めて、召喚獣を召喚したらエリーが召喚された。

 エリーは俺の気持ちなんて気にせず馬鹿みたいに話し掛けてくる。

 嬉しかった……。エリーと話していると寂しさがなくなった。


「あら?泣いてるの?」


 ガーヴィが俺の胸倉を掴み、無理やり起き上がらせる。


「終わりよ」


 ガーヴィがクナイを手に持つ。

 エリーが居なくなるなんて嫌だ!

 エリー、ナイト、スピカ。誰とも離れたくない!

 記憶も失って、もうこれ以上俺は何も失いたくない!

 俺の体の中で何かが生まれる感覚が起きる。


「嫌だ……」

「ハァ?」

「『正拳突き!』」

「グァッ……!」


 俺は格闘家のスキル【正拳突き】でガーヴィの顔を殴る。

 予想だにしていなかった一撃を受けたガーヴィは、痛みで俺を掴んでいた手を離し、後ろによろめき下がっていく。


「俺はお前を倒す!もう何も失うもんか!装備も!持ち物も!」

「このガキ……!!」

「俺の仲間も絶対にお前に渡すか!!」

「……調子に乗るな!『投擲!!』」


EX(エクストラ)ジョブ『合成士』が解放されました。チュートリアルを開始します】


 俺の頭の中にアナウンスが流れる。

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