第29話 『PK』
「お疲れ様」
俺の足元まで駆け寄って来たスピカたちの頭を、労いを込めて優しく撫でてやる。
「ワウワウ〜」
「キュイ〜」
スピカとナイトは、目を細めて気持ち良さそうにする。
「ん?」
スピカの頭上にあるHPを表すバーを見れば少しだけ減っていた。
「スピカ、怪我したのか?」
「キュイ?」
「なあエリー、このHPバーって見辛くないか?もっと数字で表示するとか出来ないもんかな?」
「できるよ」
スピカにポーションを渡しながら文句を言っていると、エリーが即答する。
「数字にできるよ」
「もしかして設定で変えれるとか……?」
「そうそう」
「キュッ……」
不味そうに顔をしかめながらポーションを飲んだスピカをそっとしておき、俺はメニューを開き設定を見る。
「ここのHPの表示切り替えで変えれるよ。これを変えておけば自分や相手のHPも数字で見れるようになるんだよ」
「マジかよ……」
この設定に早く変えておけば良かったなっと思いながら、設定を変更する
「用事も済んだし、帰りながら薬草でも抜いていくか」
「ワウ!!」
「なんだ?!わっ!」
ナイトに突然押し倒される
それと同時に俺がいた場所を何かが通り過ぎた。
「チッ……邪魔されたか」
「グウ!!」
ナイトが唸る方向を見れば女性が立っていた。
褐色の肌。紫色の長い髪を後ろに一つに結び。装備に関してはお腹や脚が出ており、本当に守れているのか疑問に思えるほど露出度が高く防御力が低そうだ。
「動物ってのは敵意や殺意なんかには敏感だっていうのは本当みたいね」
「……アンタ、誰だ?」
「こんにちは、私の名前はガーヴィ。この辺では少し有名なんだけど知らないかしら?」
「マリー……コイツ」
エリーが怯えながらガーヴィを指差す。
「初心者狩りのガーヴィ。始めたばかりのプレイヤーは先ず、オークとガーヴィに気をつけろって覚えるのよ」
「プレイヤーキラーだよ」
「なっ!……コイツが?」
女性の名前を見ればプレイヤーキラーを示す紫色をしていた。
「私って綺麗な物が大好きなの、本当に綺麗よね〜。これぇ」
ガーヴィが手に何か持っている。それは俺がよく知っている物だった。
「召喚石……?」
俺の持ち物の中にもあるので何度も見たことがある。
「アンタも召喚士なのか?」
「フフ、私が召喚士?……誰が召喚士なんてクソジョブになるかっての!これはさっき召喚士を殺して奪い取ってやったのよ!」
「なに……?」
「お嬢ちゃんと同じくらいの歳の女の子だったわよ〜。とどめを刺す時に、やめてくださいって泣いていたわ!キャッハッハッハ!」
「っ!お前……!!」
同じ召喚士として召喚石を奪われた女の子の気持ちが痛いほど分かる。もしもエリーやスピカと離れ離れになる……そんな事を考えるだけで胸が締め付けられる。
「っ……」
今すぐにでもコイツを殴り飛ばしてやりたい。だが俺がコイツと戦って果たして勝てるのだろうか?
可哀想だし、同情もする。でももしも俺も負けてしまったら同じ運命を辿ってしまう事になる。
「お嬢ちゃん、もしかして怖くなっちゃったかしら?キャハハ!」
「コイツ……!」
勝てる見込みのない勝負はしない、メニューを開いてマイルームに逃げるしかない。
「逃げる気?もしかして逃げる気?」
ガーヴィは手に小さな刃物を持つ。
「なんだあれ?なんか見たことあるな」
「あれはクナイだよ。忍者とかが使う武器で、飛び道具としても使えるから気をつけて」
「メニューを開いた瞬間にコレを投げて邪魔してあげる」
完全に逃げられなくなった。負けるかも分からないが戦うしかない。
「ふっふっふ〜!マリー、負けても大丈夫だよ!」
「はぁ?」
エリーが突然訳がわからないこと言うので喧嘩腰に聞き返してしまう。
「なに言ってるんだよ!あのガーヴィとかいうヤツに負けて、大事な召喚石が取られちまうんだぞ!」
「大丈夫、大丈夫!PKに倒されたらランダムで持ち物の中から2〜3個取られちゃうんだけど、マリーの持ち物って薬草でいっぱいでしょ」
「そ、そうか!」
召喚石は召喚出来る召喚獣と同じ数しか持ていない。
つまり俺の持ち物の大量にある薬草の中から、今持っている召喚石3個を奪い取るのは不可能に近い。
「はっはっはっは!残念だったな!ガーヴィとやら!俺を倒したとしても召喚石は簡単に手に入らないぜ」
「なんですって?」
「俺の持ち物には薬草が396個あるからな、そこから召喚石をランダムに奪えれる確率は低い」
「チッ」
ガーヴィは悔しそうに舌打ちをする。
「どうする俺を倒すか?まあ、そんなに薬草が欲しいんなら戦ってやっても良いがな!」
「このガキ……!」
「マリー!なんで敵を煽るようなことを言うの?!相手が何をしてくるか分からなんだから煽らないでよ!」
「大丈夫だって!俺が少し痛い目にあうだけだ」
襲われている女の子の召喚石を取り返せないのは心残りではあるが、早いとこプレイヤーキラーなんてクソみたいなやつの前から去りたいぜ。
「戦わないんなら帰らせてもらうぜ」
「チッ、こんなガキに使うのはもったいない……けど」
ガーヴィがこちらに向かって歩き出す。
「……やっぱり煽り過ぎたか?」
「このままナメられて馬鹿にされるくらいなら、使った方がマシね」
ガーヴィの手には白い手袋が握られていた。
何か嫌な予感がする……俺は急いでメニューを開く。
「させるか!スキル『俊足!』」
ガーヴィの姿が消える。
「消えた?!」
「ふん」
「わっ!」
お尻を蹴られ前によろめく。
蹴られた方を見れば、ガーヴィが立っていた。
「いつの間に?!」
「アンタはどうでも良いのよ。用があるのはこっちよ!」
「しまった!」
「きゃっ!」
エリーがガーヴィに捕まってしまう。