第20話 『立ち入り禁止』
門から外に出ると風が勢いよく吹く。
「わっ……」
勢いよく吹く風に、思わず目を閉じてしまう。
ゆっくりと目を開いていくと、広大な草原が広がっていた。草原の向こうには森が見える。
「すげぇ……」
風が吹くと、草原が海のように波打っている。不思議な気持ちだ。俺はこの景色を知っている気がする。
俺は……この景色を見たことがある……。
頭の中にボンヤリと記憶が蘇る。
「マリーどうしたの?」
「俺がアドワで初めて門を出てさ……草原を歩いたらオークが出てきたんだ。でも逃げずに手持ちの回復薬を全部使って何とか倒したんだ……。レベルが低かったのに本当に倒せたのは奇跡だったな」
「マリー?」
「失くしてた記憶を少しだけ思い出した……。俺は確信したよ。このゲームをする事が記憶を取り戻す近道に違いない」
「……良かったね、マリー」
側で優しく呟くエリーの言葉を聞きながら、記憶を思い出した喜びを噛み締めながら草原を歩き出す。
「あの森の中にダンジョンがあるんだよ」
「そうだったな……。エリー、何か良い物が落ちてたら教えてくれよ」
「薬草なら生えてるよ」
「薬草?」
「うん。ほら、あそこ」
エリーが指を指す方向を見ると、見た目は普通の草が生えていた。引っこ抜くと手元から消える。
「消えた……?」
「アイテムボックスを見てみて」
「アイテムボックス?」
たぶん持ち物とかそういうことだろう。持っている物を確認しようと念じるとメニューが現れる。
消耗品のカテゴリーのところに『薬草×4』と表示されていた。
「ホントに薬草だ。この調子でガンガン抜いていくか」
「お〜!」
歩くこと10分。道中で薬草を引っこ抜きまくり持ち物は薬草だらけになっている。薬草を取りながら『妖精に会った時にどんな質問をする』という大喜利をエリーとしながら、楽しく森の入り口に着く。
「ねぇねぇ、次は『こんな妖精は嫌だ』っていうのでやろうよ」
「もう森の入り口に着いたからダメだ。……森に入る前に錬金で回復薬を作ろう」
俺もそれはしたいけど仕方ないだろ。拗ねるエリーを放っておいて、錬金釜を取り出す。
「錬金をすると無防備になるから護衛を召喚しよう。『召喚!』スピカ!ナイト!」
召喚陣が2つ出現し、スピカとナイトが現れる。
「キュキュ〜!」
スピカは俺の足にしがみつく。
「スピカ、悪いけど周りに敵がいないか見ててくれないか?」
「キュ!」
足にしがみつく力が強くなる。よほど離れたくないようだ。
「仕方ないな…………。今から錬金をするから、悪いけどナイトは警戒しててくれ。エリーもな!」
「『妖精なのに悪魔っぽい』」
「おい。エリーも周りを見ろよ」
さっき言っていた『こんな妖精は嫌だ』を考え中で無視された。
「エリーのことは気にしないでおこう……。それじゃあ、頼むな」
「ワウ!」
ナイトの頭を撫でる。
森の入り口から少し離れたところで、錬金釜とかき混ぜ棒を取り出して錬金を始める。
錬金の釜に薬草が入る最大数を入れてかき混ぜる。
不思議なことに水分が増えていき、釜から湯気が出始める様子をスピカは心配そうに見ている。
「『フェリフェリとしか話せない』」
エリーはまだ1人で考えている。たしかに『フェリフェリ』としか話せなかったらコミュニケーションに困るな。
そんなくだらない事を頭の片隅で考えていると、鍋の中がグツグツと煮え始める。
「火も付けていないのに、どういう原理で煮えてるんだ?このまま混ぜてて大丈夫なのか?」
こういう時にエリーに聞きたいのに、大喜利の答えを考えるのに夢中になっている。
「エリー!これ大丈夫なのか?エリー?!」
「『召喚した時のリアクションのやり直しを強要してくる』」
「それお前だろ!そろそろ俺の話、聞けよ!」
「ホントだ!私だ!…………って何で錬金釜そんなに煮立ってるの?!止めた方が良いって!」
やっと気付いたエリーが教えてくれたが、煮立っている釜の冷まし方など分からない。
『ピポーン』と頭の中にクイズの答える時みたいな音が鳴ると。
「うわっ!」
「キュ〜〜!!」
『ボン!』っと白い煙が上がる。驚いたスピカの声が聞こえる。
どうでも良いけど、このゲームって煙が上がるの多いなっと考えてしまう。
「大丈夫?!マリー生きてる?!」
「ゴホゴホッ!あ、ああ…………ノーダメージだ」
「キュ〜…………」
煙が上がった釜の中を見てみると、コロンと緑色の液体が入った小さな小瓶が釜の中に入っていた。
状況が全く分からない。液体を煮ていたのに小瓶になっているってどういうことだ。
「すご〜い!錬金成功してる!」
「え?!これ成功してるのか?」
エリーが釜に近寄って行き、小瓶を両手で掴む。
「あっっつ!!」
「あぶなっ!!」
エリーが思いっきり俺の方へ投げてきたので、慌ててキャッチする。
「って全然熱くないし!」
「ごめん、先入観で反射的に投げちゃった」
「全く……」
キャッチした小瓶は気が付けば手の中から無くなっていた。アイテムボックスを見てみると『回復薬×99』となっていた。
回復薬 〈R3〉
【HPを200回復する】
「この調子で練金しまくるか」
同じように白い煙を出しながら、練金を2回してアイテムボックスの中に回復薬が396個になる。
「準備完了だ!森の中に入るぜ!いてっ……!」
森の中へと意気揚々と入ろうとすると、見えない壁に阻まれる。
「なんだこれ?エリー!壁があって入れないぞ!」
「え?!もしかして!マリーって年いくつ?」
「16歳だけど……」
「違うよ!交換してもらったマリアちゃんの年齢?!」
そんなもの知らない。でも見た目的に10〜12歳くらいか?
「たぶん11歳くらいかな?」
「だったら入れないね。13歳未満のプレイヤーは『冒険者講座』を受けないと森には入れないんだよ」
「冒険者講座?」
「このゲームのルールや戦い方についての講座だよ。講座を受けてからじゃないとダンジョンやこの街から出れないの」
子どもが一人でゲームするんだ。面倒だけど仕方のないことか……。
「マリアの年齢って13歳未満だったんだな」
「ごめんね、マリー。てっきり13歳以上だと思ってたよ」
「いいよ。俺も知らなかったし……」
目的が失ってしまい、透明な壁に触れながら呆然する。
すると壁に文字が表示される。内容は冒険者講座が開かれる日時のようだ。
「明日、17日のAM10時から講座があるみたいだ。これに行けば良いのか?」
「そうだよ。頑張ってね」
「頑張ってねって俺は絶対にエリーを召喚するから、一緒に受けるんだぞ」
「残念だけど講座中は魔法やスキルの使用が一時的に使えなくなるから無理だよ」
「まじかよ……」
余計なシステムだ……仕方ない。一人で講座を受けよう。
まるで友達と学校のクラスが別れたような気分だ……まあ、そんな気分覚えてないけど。
「はぁ〜」
ここまで来た時間や帰りのことを考えると気が滅入る。