第15話 『召喚獣その2』
「先に私からするね。コホンッ、私の名前はエリー。七属性を司る七姉妹の妖精の一人、光を司る妖精のエリーだよ。ちなみに言っておくとレアリティは8だよ」
「ふ〜ん、よろしくな、エリー」
「うん!よろしくね!……じゃなくて!リアクションそれだけ?!レアリティ8だよ?!」
「レアリティ?」
召喚士の説明にも書いてあったな。マリアも武器のレア度がどうとか言っていたし、それにしても言い方は統一してほしいものだな。
「もしかしてこのゲーム初めての人?」
「う〜ん。まあ、初めてかな……」
「じゃあ説明するね。レアリティはMAX10なんだけど、でも伝説でレアリティ11とか12も存在するとかしないとか」
「へぇ〜」
レアリティ11とかはマリアは何も言ってなかったな。
「ってことはエリーってめちゃくちゃレアなのか?でもレアリティ8って言われてもピンとこないな…例えば、魚で言うとどれくらいなんだ?」
「え?例え?魚で?え〜っと……マ、マグロくらいかな」
「マグロだと……すげぇ!!マグロかよ!めちゃくちゃすげぇじゃん!うわ〜レアリティ8って凄〜!じゃあ10はクジラか?」
「 気持ちが複雑だよ!レアリティの高さをマグロで理解されて驚かれるのは複雑だよ!」
エリーは机の上で四つん這いになり悔しがる。俺の方にお尻を向けて四つん這いになっているので目のやり場に困る。
「そ、それでエリーはなにが出来るんだ?」
「ふっふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!」
起き上がると、腕を組んで自信満々な態度で話し始めた。
「私の特殊能力。このゲームではアビリティやスキルって言うんだけど、ちなみにスキルやアビリティって基本はレアリティ5以上の召喚獣にしか使えないの。それに装備にもスキルがある装備があるんだけど、それにはレアリティは関係ないの。それでね、私のアビリティは飛行と召喚獣の言葉の翻訳の2個もあるんだよ!凄くない?!」
「……」
「どうしたの?」
どうしよう。言って良いのかな?いや、このままモヤモヤしてるのも嫌だし言ってしまおう。
「……妖精って普通は飛ぶもんじゃないのか」
「え?」
「絵本に載ってる妖精なんかも飛んでるし、人間で言うところの歩けることを自慢されても困るっていうか」
話しながらエリーを見ると、体育座りをして絵に描いたように落ち込み始めていた。
「っていうのは冗談で!エリーって可愛いし!居てくれるだけで嬉しいな〜」
「そう?そう!私って可愛いかな〜!はっはははは!」
花の蕾が開くように、エリーが笑顔になる。意外と面倒だなコイツ!
「ちなみに戦闘の時はエリーは何をしてくれるんだ?」
「え〜っとね……後ろで敵の名前とか弱点教えたり、ポンポン持って応援したりとか」
後半は戦闘と全く関係ない。でも初心者の俺には未知のモンスターについて教えてもらえるのは助かる。
それに召喚は残り2回あるし、エリーはアドバイスしてくれたり話し相手になってくれれば良いか……よし、そう思おう!
「よろしくな!これからの冒険一緒に頑張ろう!エリー!」
そう言いエリーに右手を差し伸べる。意図を察してくれたエリーが俺の人差し指を右手でギュッと握る。
「こっちこそよろしくね、マリー!なんだか私と名前も似ているし上手くいきそうな気がするね!」
「おう、よろしくな!」
お互いに自己紹介も終わったので、そろそろ2回目の召喚でもしよう。
「次こそ俺を守ってくれるような召喚獣を」
「ねぇねぇ?どうしてマリーは女の子なのに、自分のことを『俺』って言うの?ただの俺っ子?」
「俺っ子?いや……」
俺の記憶喪失の話とかマリアの話をしようか考えてしまう。今後ずっと一緒にいるだろうし…隠しごとはしていたくない。
「重大な話をいくつか言うんだけど、エリーは口は固いか?」
「え?固い方だと思うけど。マリーが他の人に言われたくない事を言いふらしたりしないよ。絶対に」
先ほどとは打って変わって真剣で真っ直ぐな瞳で答える。俺はエリーを信じて、アドワ2をする経緯と『妖精女王の加護』や『ユニークスキル』について全て話した。
「ウソ……」
話し終えるとエリーは目を見開き固まる。やっぱり記憶喪失の話はダメだったか?それに美少女が実は中身が男っていうのもショックだったのかもしれない。可愛い着ぐるみの中がオッサンだった的な。
「お、お〜い。エリー、大丈夫か?」
「え!?あ、うん!大丈夫!なるほど……凄い事を沢山聞いちゃったよ。言いたい事は沢山あるけど、このゲームをそんな理由でプレイしてるのマリーだけだよ」
やっぱりちょっと引いてんじゃないか。本当に話して良かったのかな、と少し後悔する。
「だから『マリー・オレ』にして誤魔化してるんだね」
「そういうことだ」
「ふ〜ん、中身は男の子だったのか〜」
エリーはいたずらっ子みたいな顔で俺の顔を見る。
「なんだよ?さ、さては!俺を赤面させるために、全裸になろうとしてるんじゃないだろうな!ダメだぞ!そんなに自分の体を安売りしたら絶対にダメだぞ!」
「しないよ!私のことをどんな妖精だと思ってるの?!」
なにか企んでいたようだが阻止してやったぜ。なんだか惜しい気もするが。
「さてと……冗談はさておき、残り2回の召喚をするか」
「え?もしかして、マリーの初めてって私だったの?」
「ああ、そうだけど……」
「なんだか嬉しいな〜。そっか〜、私が初めてか〜」
エリーは嬉しそうに俺の周りを飛び回る。気にせず召喚しようとした時、いつ間にか俺の顔の横に来ていたエリーが止める。
「召喚をするのにメニュー画面を開いてする必要ないよ。使いたいスキルやアビリティがあれば強く念じれば使えるよ」
「やっぱりそうなのか?」
言われてみれば戦闘中にメニュー画面開いて戦う奴はいないよな。
「ほらほら、やってみて!使いたいスキルやアビリティを頭の中にイメージして強く念じて、自分なら使えるって信じながらね」
「召喚……召喚……」
両腕を前に出し頭の中で召喚することを念じる。
「『契約召喚!』」
両手を前に突き出すと目の前の床に召喚陣が描かれる。
「やった!成功だ!くるぞ!俺の新たな召喚獣!」
光が強くなっていきボフン!と白い煙が上がる。
煙が消えていくと、大きな真っ白な毛玉がいた。
鼻をヒクヒクさせながら地面の匂いを嗅いでいる。頭には長い耳。目は赤い。そして毛は白い。その動物は…。
「ウサギだよな……」