第10話 『暗黒騎士とマリア』
「意味が分からない。今の姿が貴方で姪で……姪?」
そういえば海外に兄がいると言っていたな。今の俺の見た目は完全に日本人じゃなかった……つまり?
「本来のユーゴの使うはずのキャラはこの暗黒騎士なの」
「暗黒……騎士?」
「そう、暗黒の力を使って戦う騎士だから暗黒騎士らしいよ。ユーゴが必死に頑張って作ったキャラクターなの」
「くっ!!」
名前の由来さえもカッコいい!俺が自分の好みで作ったのだから、俺自身がこんなにも心惹かれるのも頷ける。
「それで?どうして姪の君が」
「マリアだよ。日之内マリア」
「ごめん。マリアちゃん」
「マリアって呼んで」
「……どうしてマリアが俺のキャラを使って、俺がマリアのキャラを使っているんだ?」
「それはねぇ……」
暗黒騎士ことマリアが顎に手を当てて考える。カッコいい姿だ。
「実は暗黒騎士って前作のアドワでランキング一位になってるんだ」
「ランキング?」
「そっ、アドワにはプレイヤーランキングがあるの。強さやアドワのクエストの貢献度や、ダンジョンの攻略なんかをするとランキングが上がるんだけど、ユーゴの暗黒騎士は最後の大会で優勝して一週間だけだけど一位になったんだよ」
「へぇ〜」
そんなに強かったのか。全然記憶にないが……それなら尚更だ。
「なるほど。それで?マリアは俺に暗黒騎士を返しにきたのか?」
「全然違うよ。私がここまで言っても分からないの?」
全く分からないし、全然違うことはないだろ。凄く返してほしい。
あと言いたかないが女の子の話し方をする暗黒騎士は凄く気持ち悪い。
「ユーゴってアドワのやり方覚えてるの?」
「いや、このゲームがあったことも知らなかったな」
携帯画面と沙希さんが教えてくれなかったら、まだこのゲームをやっていなかっただろう。
「でしょ?もし記憶のないユーゴが暗黒騎士を使ってアドワやったら、ランキングで上位に上がりたいハイエナみたいなプレイヤーに襲われてボコボコにされちゃうよ?」
「たしかに……」
「それでズタボロに負けた暗黒騎士の評判はガタ落ち、暗黒騎士を愛していたユーゴが記憶を戻したらショックを受けるはずだと思わない?」
「たしかに!……と言うことは記憶をなくした俺のためにマリアはキャラを入れ替えてくれているのか?!!」
「そのとお〜〜りっ!!」
マリアは立ち上がり胸を張る。ダサい言い方と動きだが、暗黒騎士がカッコイイのでどうでも良くなる。さすが俺の作った暗黒騎士だ。
「なんて良い姪っ子なんだ!いや……でも待てよ!子どものマリアが、ハイエナのように襲いくるプレイヤーをどうにかできるのか?」
「もち!」
腰に手を当て、親指を立てて断言する。ダサい言い方と動きだが、暗黒騎士がカッコイイのでどうでも良くなる。さすが俺の作った暗黒騎士だ。
「私はアドワをやったこともあるし、ユーゴからも暗黒騎士を何度も借りてやったことがあるから安心だよ!逆にハイエナみたいなプレイヤーを返り討ちにあわせた上に、再起不能にして二度と向かってこなくしてあげるよ!」
「やり過ぎだろ!……でもそんなに言うなら任せてみようかな」
「うん!まっかせて〜〜!!」
胸を張ってドンと胸を叩く。ダサい言い方と以下略。
「ということは、マリアは暗黒騎士を任せてほしいってことを言いに、俺に会いに来てくれたのか?」
「そのつもりだったけど、ユーゴにはジョブやスキル。アドワ2のシステムについても説明しておいた方が良いみたいだね」
「スキル?ジョブ?そういえばガンガンなんとかが言っていたな」
「ガンガンヤッタレガールズね」
暗黒騎士が冷静に訂正してくる。
「ユーゴ、あんなに大ファンだったのに覚えてないんだね……」
「ファン?俺が?」
「アドワのゲーム内でやっていたコンサートにも毎回行ってたし、グッズも買って、曲も全部ダウンロードしてたくらいだよ」
全然記憶にない。悲しい……好きなものを忘れてしまった事実を知ると、こんなにも悲しい気持ちになるのか。
「くそっ……!」
「ユーゴ……ゆっくり思い出していけば良いんだよ。ゆっくりで良いから」
落ち込んでいると暗黒騎士が優しく俺の肩に手を置く。やだ、カッコいい……惚れちゃいそう。