第66話 『シオリの相談』
差出人はシオリからだった。
内容は相談があるので今から噴水の広場で会えませんか?というものだ。
「シオリから今から会えないかって言われてるんだけど、どうしようかな……」
チラリとアリアを見る。
「私のことは気にしないで、行って来てください」
「それはさすがに……」
せっかくログインしてもらったのに、このまま解散はアリアが可哀想だ。
そうだ。アリアも一緒に連れていけば問題ないんじゃ……同い年の友達とか作る良い機会かもしれない。
「アリアも一緒に来ないか?」
「良いんですか?」
「ああ!相談みたいだし、人数が多い方が解決できるかもしれないしな。それに今から会いに行くシオリって女の子は、俺やアリアと同い年だし仲良くなれるかもしれないぞ」
「私も一緒に連れて行ってください!」
アリアが前のめりになって答える。
よほど同年代の友達が欲しかったようだ。
「なら決まりだな。今から友達と一緒に行くって言っておくよ」
「ありがとう!マリーちゃん!」
「おう!アリアと二人で行くって言っておくよ、エリー」
「もうそのノリいいから!もう泣くよ!」
メッセージを返信すると、噴水の広場に向かった。
噴水の広場に行くと、シオリとカガリがベンチに座って待っていた。
「ごめん、待たせたか?」
「私たちも今来たとこですので」
二人は立ち上がり、アリアを見る。
「紹介するよ。俺のパーティーメンバーのアリアだ」
「よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします。シオリです」
「カガリよ」
シオリとアリアの性格は似ているので、すぐに仲良くなれそうな気がする。
「それで相談って?もしかしてまた変なやつに絡まれてるのか?」
「い、いえ!あれ以来そんなことはないです!相談したいことは……カレンちゃんのことです」
「カレン?カレンがどうしたんだ?」
「実は……カレンちゃんを私たちのパーティーに何度も誘ってるんですが、断られてまして」
二人とも後衛なので、前衛のカレンをパーティーに入れたいのは納得だ。
それに気心が知れたカレンが良いのだろう。
「カレンか……たしかに入ってくれるイメージがないな」
『おれは一人が良いんだよ!』とか言って断りそうなイメージだ。
「はい……誘っても、オレは一人が良いんだよ!って言われて断られちゃいまして」
「イメージ通りの断り方だ!」
俺って結構カレンのことを理解してたんだな。
「なるほどな、俺に説得してほしいってことか」
「はい、エリーちゃんなら話を聞いてくれるんじゃないかと」
ヴァルハラのような二人組のプレイヤーキラーに遭遇して、ソロのカレンに嫌な思いはしてほしくない。
ここはどうにかしてシオリたちとパーティーを組んでもらい、ヴァルハラと戦えるようにしたい。
「わかった。作戦を思いついた……先ず俺が羽交い締めにして、アリアが足を押さえる」
「え?!」
急に話を振られたアリアが驚いている。
「動けなくなったカレンをシオリとカガリがくすぐってやるんだ!くすぐりながら誘えば断れないはずだ!」
「説得するって話だったでしょ!なんでそんな脅しみたいなことをするの!」
「わ、私もエリーさんの言ってるように、会話で説得してほしいです」
意外とノって来なかった。みんな真面目だ。
「なら俺がカレンを羽交い締めにするから」
「羽交い締めはもういいって!」
「誰を羽交い締めにするって?」
背後から聞き覚えのある声が聞こえる。
振り返るとカレンが立っていた。
「カレン?!」
「おれを羽交い締めにするって聞こえたけど?」
カレンが指を鳴らしながら俺を見つめる。
「カレンがシオリたちのパーティーに入らないから、無理矢理入れようか話してたんだよ」
俺はカレンにビビることなく正直に話した。
言われたカレンはシオリに視線を移す。
「まだ諦めてなかったのか……何度も言ってるけど、おれは一人が良いんだよ!おれは群れるのが嫌なんだ」
「そんな一匹トイプードルで良いのかよ?」
「なんだよ一匹トイプードルって!そこは狼にしろよ!あとなんでそんな可愛い犬種なんだよ!」
カレンは可愛らしい女の子だし、狼ってかんじではない。
「カレン、強いモンスターやプレイヤーと戦う時に一人じゃ限界があると思うぞ?」
「はっ!おれがその辺のモンスターに負けるかよ」
カレンが肩をすくめて言う。
俺は昨日の体験を思い出す。
「俺は昨日、プレイヤーキラーに襲われて負けそうになった」
「なっ……!」
「アリア……この子が居なかったら俺は負けて、プレイヤーキラーにアイテムボックスの中身を全て奪われるところだった」
俺の話を聞いたカレンが固まる。
「良いか、カレン。もう一度言う。一人では限界がある。一人で居てプレイヤーキラーに負けて全て奪われるなんて悲しい思いをカレンにしてほしくない」
「……おれは強い。負けたりなんてしない」
頑固なカレンには言葉では伝わらないのかもしれない。
それなら強引にでもシオリとパーティーを組んでもらうとしよう。それにカレンには今の俺の実力を見てほしかった。
「なら俺と勝負しよう」
「勝負?」
「ああ。俺とPvPをして負けたらシオリたちのパーティーに入ってもらう」
カレンが何か言いたそうな顔をしているので、俺は言葉を続ける。
「もしも俺が負けたら誘わないし、カレンの言うことを一つ聞いてやるよ」
「面白え!PvPやってやる!」
「ただし」とカレンが続ける。
「マリーが負けたら、今のパーティーを抜けて俺とパーティーを組め!」
「……わかった」
「ええぇ!!」
横を飛んでいたエリーが驚く。
「ダメだよ、マリー!そんな約束したら!そんなことミツハちゃんに言わずに勝手に決めちゃ」
「大丈夫ですよ、エリーさん。絶対に勝ちますから」
「なんで敬語?!ア、アリアちゃん、マリーを止めてあげて」
エリーはアリアを仲間にしようとする。
「大丈夫だよ、エリーちゃん。マリーちゃんは負けませんから」
慌てるエリーとは対照的に、アリアは表情を変えず答えた。
俺がガーヴィを圧倒している光景を見ているからこその態度だろう。
それに引き換え、エリーは見ていないので動揺しまくりである。
「舐められたもんだ、おれの強さを教えてやる」
カレンはメニューを操作し始めた。




