第63話『ダンジョン攻略』
他に使えそうな攻撃スキルを思い出す。
「そうだ!覚えたてのスキルがあった!『エネルギー弾!』」
ハイオークに手を翳してスキルを使おうとするが、手からエネルギー弾は出なかった。
「え?!『エネルギー弾!』『エネルギー弾!』」
何度使おうとしてもエネルギー弾は出ない。
「なんでだ?!」
困惑していると、ハイオークの棍棒が横から襲い掛かってくる。
「やば……!」
棍棒が右の横腹に直撃すると、メキメキと体から嫌な音が鳴り数メートル吹き飛ばされる。
「マリーちゃん!!」
アリアのが叫ぶ声が聞こえる。
轢かれたことはないが、まるで車に轢かれたみたいな衝撃だ。
「車……轢かれた?」
この身体を襲った強い衝撃。身体の痛み。叫び声。これに似た感覚を以前にも体験した気がする……。
頭の中に鮮明に記憶が甦った。
ボールを追いかけて車に轢かれそうになる子ども……俺は走って抱えると母親らしき女性に投げた。それと同時に車に轢かれたことを思い出す。
「ああ……そうか。俺って本当に子どもを助けたから記憶を失くしたんだな」
聞いてはいたが、本当に車に轢かれてたのか。
吹き飛ばされて横に倒れながら、自分が記憶を失くした理由に笑う。
「ははは……記憶を失くす前の俺が良い奴で良かった」
バキッ!っと音が聞こえて我に返ると、ハイオークが俺に向かって棍棒を振るうがナイトの作った壁に守られ防いでくれていた。
「ぐっ……早く動いて避けないと!」
「マリーちゃん!回復します!『ヒール!』」
倒れている俺の元までアリアが駆け寄って来ると、回復魔法を使ってくれた。
俺の体が発光すると、痛みや動きづらかったのが治っていく。
「サンキュー、アリア」
ナイトがハイオークの気を引いてくれている間に、体勢を立て直すためハイオークと距離を空ける。
メニューを開き、格闘家のスキルを確認すると、エネルギー弾や瞬間移動などのスキルの文字が薄くなっていた。
「もしかして、超身体強化を発動している時にしか使えないのか?」
「マリーちゃん、どうしたんですか?」
心配になったアリアが俺の顔を覗き込んでくる。
「俺の攻撃が通らないんだ。頼みの綱だった覚えたスキルも使えないし、アリアは強い攻撃魔法とかないか?」
「ホーリーショットの攻撃魔法があります。でも私も補助する魔法がメインなので、攻撃魔法はそこまで強くありません」
「そうか……」
「あの、スピカちゃんは召喚できないんですか?」
アリアが素朴な質問をしてくる。
「ああ。装備と召喚獣を合成すると、合成した召喚獣はしばらく召喚できなくなるんだ」
「つまり、マリーちゃんが召喚できるのはナイトくんだけなんですね」
「……あ、ああ」
スピカにはちゃんで、ナイトにはくんなのか。今はどうでも良いことか。
「今はあるものでなんとかするしかない。なら……アリア、俺に補助魔法を使って強化してくれ!」
「なるほど!わかりました!矢は一本だと簡単に折れますけど、二本なら折りづらいって言うのですね!」
折りづらいってだけで、それって最終的に折れてるんじゃないのか?っとツッコみそうになったが、スルーしてアリアの前に行く。
「俺を補助魔法で強くしたら、みんなで攻撃しまくって倒そう。もうゴリ押しでいく」
これは作戦なのかと疑ってしまう。エリーがいなかったら、俺ってダメだな。
「わ、わかりました!いきます!『イノセント・ブースト!』」
「おお!」
俺の体が淡く発光した。気のせいか力が増した気がする。
「マリーちゃん!私が隙をつくりますので、その間に攻撃してください!」
「わかった!」
どうやって隙を作ってくれるのかは不明だが、アリアを信じてハイオークに向かって走る。
「マリーちゃん!ナイトくん!目を瞑ってください!『フラッシュ!』」
アリアがカッっと眩い光を放つ。
「オオオオオ!!」
ハイオークが両目を押さえて悶えている。
アリアの言っていた隙を作るとはそういうことか。
「今だ!お前ら!格闘家スキル!『正拳突き!』」
「ワウ!」
「『ホーリーショット』」
俺のスキルとナイトの噛みつき、それにアリアの攻撃魔法が同時に入る。
ハイオークのHPバーが半分ほど削れた。あと3回くらいしたら倒せそうだ。
「もうあと数回いくぞ!」
「ワウ!」
「はい!」
悶えているハイオークに3回ほど同時攻撃をすると、ヒビが入り砕け散った。
俺が強化されていたのか、それともアリアとナイトが強かったおかげか、思っていたよりもあっさりと倒せてしまった。
『3000Gとハイオークの牙×5、ハイオークの心臓×1を手に入れました』とテキストウインドウが表示される。
「マリーちゃん!勝ちましたー!!」
「うわ!」
アリアが勢いよく抱きついてくる。倒れないようになんとか堪えよとすると、後ろからナイトが支えてくれた。
「ありがとな、二人とも」
そう言うと、ハイオークが最初に座っていた椅子が突然ガラガラと壊れる。
椅子の瓦礫は砂となりサラサラと何処かに飛ばされていき、台座と金色の宝箱が現れた。
「ダンジョン攻略の証の『森の石』と宝箱ですね」
「森の石?」
台座にみんなで近寄って確認してみる。石で作られた台座の上には俺の手より少し大きい、緑色の透き通った石が二つ置いてあった。
「これが森の石か……」
光にかざすと石の中に葉っぱが一枚入っていた。手の中から持ち物に移動させ横にある金色の宝箱を見る。
「この宝箱の中は何が入ってるんだろう?」
「金色の高箱にはレアな装備が入っているって聞いたことがあります」
「マジかよ!なら期待大だな!」
「はい!一緒に開けましょう!」
手に汗握る戦闘をしたので、期待を膨らませてアリアと二人で宝箱を開ける。
『【賢者の腕輪】と【妖精の聖衣】を手に入れました』




