序章
【Equip Adventure World】通称『アドワ』
朽ち果てた闘技場で1人のプレイヤーと対峙する。
本来は観客が座っているはずの席には誰も居ないせいか、闘技場は静まり返っていた。
「俺の挑戦を受けたことは勇気は褒めてやろう!」
静寂を取り払うように、PvPの対戦相手である20代くらいの体格の良い冒険者の格好をした男は、逞しい腕で大きな斧を肩に担ぎながら叫ぶ。
「お嬢ちゃん。ハッキリ言っておくが、召喚士なんてゴミみたいなジョブじゃあ俺には勝てない!」
男は、貶すように目の前に立っている少女に言葉を放った。
「本当にそう思うか?」
10代になったばかりだろう少女は、耳にかかった長い銀髪を払いながら不敵に笑う。
「へっ!断言できる!召喚士が出す雑魚の召喚獣ごときが、この俺『血濡れの大斧使い』のギールに勝てるわけがない!」
「2つ名持ちか……だったら手加減抜きでいくぜ!」
「あぁ?」
少女はメニュー画面を開くと、小さな手で素早く操作をすると『合成』する【者】と【物】を選択する。
「このゲームで俺しか持っていない唯一無二のスキル!『格闘家の装備一式』と召喚獣『スピカ』を合成する!」
魔法使いのような格好だった少女の服装が赤いチャイナドレスへと変わり、額にツノが生えたウサギの召喚獣が少女の足元に召喚される。
「合成だと…?」
ウサギの召喚獣は少女に向かって駆け出す。
「な、なんだ?!何をする気だ?」
「『合成!』」
召喚獣は少女の装備しているチャイナドレスに吸い込まれていく。
装備していた格闘家の装備は発光しながら形を変えていく。その光景に先ほど叫んでいたギールも呆気にとられ、言葉を失っていた。
「完成だ」
光が収まっていくと少女の格好は、ピンク色のウサギのシルエット模様が至る所に入っているチャイナドレスに、ピンク色のウサ耳のカチューシャ、白いウサギの形をしたグローブに変わっていた。
「ギャハハハハ!!それがお嬢ちゃんのジョブのスキルか?!そんなふざけた格好になって何がしたいんだ?!」
「この装備の名前は『最速の格闘着 ピョンピョンファイターアーマー』」
「ギャハハハッハ!!くだらん!可愛くなったが、それでどうやって俺に勝つんだ?ほら見ててやるから何かやってみろよ?!」
「ああ、見せてやるよ……最速の装備の能力を刮目しろ!スキル『超加速!』」
「ハへ?」
先程まで離れた場所に立っていた筈の目の前に現れ、ギールは驚いて間抜けな声が出る。
「こ、のガキ!いつの間に?!」
「どうした?見えてなかったのか?見えなかったんなら、次のスキルはよ〜く見ておくんだな」
「ナメるな!!」
ギースは慌てて斧を構えると、少女に勢いよく振り下ろそうとする。
「遅い!『ウサギの突進!』」
「ガハッ!!」
斧を振り上げたギースの腹部に、スキルで放った拳が直撃する。
「オ、オオ……!」
ギースは痛みででヨロヨロと後退する。
「こ、こんな馬鹿な…こんなガキに!俺がっ!!ダメージを……」
「むりむり!あなたじゃマリーに絶対に追いつけないよ!今のマリーのAGIは3500もあるんだから!」
少女の長い銀髪から、桃色の髪をした小さな妖精が自慢気に出てくるとギースを指摘する。
「妖精?!妖精を連れた召喚士の銀髪の幼女……まさか!『妖精の召喚士』か?!!」
狼狽えるギースに少女はゆっくりと近付き、腰を落として構える。
「装備一式奥義…」
「バ、バカナ……お、俺が負けてたまる!!」
「『巨大ウサギの突進!!』」
攻撃しようとしたギースは、カウンターで受けたスキルによる強烈な一撃で吹き飛んでいく。
闘技場の壁に激突したギースは、ガラスのように粉々に砕け散る。
「『妖精の召喚士』って2つ名は古いな。今は『妖精の合成士』っ言われてんだよ」