表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災悪のアヴァロン【コミック9巻 9/19日発売!】  作者: 鳴沢明人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/170

078 Eクラスの現状 ①

『絶対におかしい。少し探りを入れてみたほうがいいかもしれない』

「それは……いや、何か分かったら連絡をくれ。健闘を祈る」

『あぁ。ナオトも。それじゃ』


 クラス対抗戦3日目。朝の定時連絡と報告を終え、ユウマとの通話を切る。予想以上に(かんば)しくない状況に思わずため息をつく。

 

 僕達の当初の作戦では、浅い階層が主戦場である前半戦――つまり今日までにできるだけ点数を稼いで逃げ切るというものであった。そのためには最低でもDクラスを上回る点数を獲得しなければいけない。後半戦は主戦場が5階以降になってしまうため、平均レベルが低い僕らEクラスでは不利な戦いとなってしまうからだ。

 

 しかしながら指定ポイント到達を率いるユウマから届いた報告によれば、今まで8回やって全て最下位。上位のクラスどころかDクラスにすら一度も勝てていない。

 

 指定ポイント到達はランダムに決められたポイントへ着順を競う種目。スタート位置は自由なのでポイントが発表されたとき、近くにいるクラスが大きなアドバンテージを得ることになる――はずなのに。

 

 ユウマ達はDクラスより大分近い位置にいたときでさえも先を越されてしまっている。道中にモンスターだってたくさんいたはずなのに、とても倒して進んでいるとは思えない早さだったという。

 

 当然、倒さずに引き連れていけば後ろにはモンスタートレインが出来上がる。そのような迷惑行為が発覚すれば一般冒険者や他のクラスに通報され、一発で試験失格というペナルティを負うことになる。Dクラスが未だ失格していないということは何かしらの手段でモンスターを処理しているのだろう。だが、その手段とは何か。

 

 最初に思いついたのはやはり助っ人の存在だ。出会ったモンスターを助っ人に押し付けてしまえば戦闘時間を大幅に削減でき、多少スタート位置が悪かったとしても挽回は可能。しかしこれは()()()()()()()と相反してしまう。

 

 考えをまとめるためにも隣で聞いていた彼女と意見交換をしておいたほうがいいだろう。

 

「新田。先ほどの報告についてどう考える」

「ん~。Dクラスの助っ人って、全員がトータル魔石量のサポートに付いてたはずよね~?」

「あぁ。大宮の情報が確かならな」


 助っ人の存在が発覚したときはクラス内が動揺し大きく荒れた。ユウマや磨島たちの懸命な説得により今は何とか鎮静化できているが、これ以上Dクラスと点数差が広がることになれば自暴自棄になるクラスメイトが出てきてもおかしくない。そうなったらEクラスの士気はドミノ倒しのように崩れていく。

 

 早急に対策を立てるためにもDクラスの助っ人がどれくらいの強さで何人いるのか調べる必要があった。その調査を買って出たのが大宮だ。

 

 その後、数時間でどうやって調べたのかは分からないがリサのもとに詳細な報告が上がってきた。それによれば太陽のバッジを付けたレベル8前後と思われる冒険者6名が、Dクラスのトータル魔石量グループをサポートしているのを確認。それ以外の種目に助っ人の姿は見当たらなかったとのこと。


 大宮の情報を前提に戦略を練り直して何とか巻き返しを図りたいところだが、先ほどのユウマの報告によると、トータル魔石量だけでなく指定ポイント到達にも助っ人がいる可能性を示唆している。つまり大宮の上げてきた報告と矛盾しているのだ。


「う~ん。サツキの情報は信じていいと思うの。でも指定ポイント到達は何か秘密があるのは確かね~。例えば……」


 新田が人差し指を頬に当てながら思考を巡らす。これまでは大人しかったものの、昨晩当たりから積極的に意見を言ってくれるようになったのだ。彼女の知恵と才覚には大いに期待している。

 

「Dクラスはトータル魔石量を~、指定ポイントのサポートに付けている。とかかな~?」

「ふむ。確かにそれなら説明は付く。しかし……」

「点数配分の多いトータル魔石量を犠牲にしてまで、サポートに回すのはおかしいよね~」


 現在、指定ポイントは4階から5階が舞台。サポートしながら魔石集めだってできないことはないが、収集効率は確実に落ちる。おかげで魔石量勝負ではサクラコとカヲル達の奮闘もあり、僕らのクラスがDクラスを上回ることができている。

 

 ただでさえDクラスは到達深度グループが全員リタイアするというアクシデントに見舞われているわけで、このままトータル魔石量も落としたならEクラスに逆転……まではいかなくても肉薄されることになる。それは散々僕らを馬鹿にしてきた彼らにとって屈辱的なことだろうし、この現状を放置するとは思えない。

 

「やっぱり妨害を仕掛けてくるのかな~。希望を持たせておいて最後に叩き落とすみたいな」

「もしものためにサクラコとカヲル達にはあまり離れず動くよう指示しておくべきか」

「でも~あっちにはサツキもいるし、大丈夫だとは思うんだけどね。それに()()()()()()も頼んであるし~」

「特別な……助っ人だと? それはどんな人物だ」


 僕らEクラスが苦境に追い込まれているのは平均レベルの低さが一番の理由であるものの、他クラスに付いている助っ人の存在も大きな要因であった。だが、僕らにも助っ人が来てくれるなら話は別だ。逆転の目だって出てくるかもしれない。一体どれほどの者なのか、実力次第では戦略の幅も変わってこよう。食いつくように聞いてみると――

 

「ふふっ。内緒♪」


 新田は口に人差し指を当て、いたずらっぽく笑うだけで教えてはくれなかった。

 

 


 *・・*・・*・・*・・*・・*

 


 

 ―― 早瀬カヲル視点 ――

 

「おかしいわ。ここもモンスターが見当たらない」

「これは狩られてるねっ。もっと奥に行ったほうがいいのかなっ?」

 

 二日目までダンジョン4階を狩場としていたものの、戦闘に慣れてきたこともあり今日からサクラコ達とは別行動で5階入り口付近に狩場を移すことにした。しかし周囲のモンスターは狩り尽くされているためかほとんど発見できず、奥に狩場を移したのだけど……ここも同じ。どこかの集団がこの辺り一帯で狩りを行っているのかもしれない。

 

 ただ立っていても時間の無駄なのでさらに奥へ行こうと大宮さんが提案してくる。

 

「5階に来てからまだちょっとしか戦闘をできていないし慎重にいくほうがいいと思うのだけど。ただでさえ一人少なくなってるのよ」

「でもっ、せっかくDクラスを上回る成績を上げられている今、手を緩めるのは勿体ないと思うなっ」


 月嶋君が「でっかい魔石を取ってきてやる」と言って勝手にどこかへ行ってしまい、私達のグループは一人少なくなってしまったのだ。全く……心配する私達の身にもなって欲しい。

 

 それでも嬉しい誤算はあった。大宮さんが想像以上に戦闘慣れしていたのだ。メインタンクを私以上に上手く(こな)せたため、戦闘回数を飛躍的に伸ばすことができ、安定感も増した。

 

 磨島君やユウマのいる種目が苦戦を強いられ、さらには上位クラスの助っ人の存在が明るみとなりクラスメイト達が意気消沈していた中でも、私達トータル魔石量グループはそれなりの成果を上げて士気も保っていられた。それも全て彼女のおかげといっても過言ではない。

 

 ここで手を緩めず魔石量を稼ぐことができれば、後半に失速するであろうクラスの勢いに火を付けられるかもしれない。私と大宮さんがいれば多少の無理も効くしやってみる価値はありそうだ。

 

「それならもう一度だけ奥に行ってみましょうか。ここからだと……安全地帯が近くにある、あの地点がいいかしら」

「それじゃみんなっ、もう少しだけ移動しましょ」

「はーいっ」


 今のところ私達トータル魔石量グループは上手くいっているせいかメンバーも小気味好い返事で応えてくれる。最初はどうなるかと不安に思っていたけど、この調子でいけばクラス対抗戦をきっと乗り越えていける。たとえ勝てずとも今後に期待だって持てるはずだ。諦めてなるものか。

 

 でも、こんな奥までモンスターがいなくなるなんて、珍しいことがあるものね。

 

 

 

 南へ2kmほど歩き、目的の狩場へと到着する。モンスターがポップしない安全地帯もここから近いので疲れたときに休憩することもできる。ここまで来ればモンスターがいないなんてことはないだろう。


「それじゃ早速釣って……ちょっと待って。何かが向こうからっ」

「どうしたの……えっ?」

 

 大宮さんがモンスターを釣ってこようと一歩踏みでたものの、異変に気付いて耳を澄ませる。振動というより小さな地響きのようなものが私にも感じ取れた。これは良くない音だ。

 

「誰かがモンスタートレインをやっているよ! それも普通じゃない規模!」


 クラスメイトが双眼鏡を取り出し様子を伝えてくれる。200mほどまで迫り、ようやく全体像が見えてきた。あれは……オークロードだ!


 (しき)りに鳴き声を上げながら走っている。あそこまでオークが興奮しているのは何か挑発するようなことを繰り返しやっていたはずだ。後ろに続くのはオークソルジャー、少なくとも50体以上が召喚されている。あれほどの大規模トレインに巻き込まれてしまえば私達とて無事では済まない。一刻も早くここから離れるべきだ。

 

「見てっ、あそこ! 三条さん達がいるよ!」

「え?」


 オークロードが向かっている先に目を向ければサクラコ達のグループが散り散りになっている姿が見えた。統率なんてものはなく個々が別々の方向に走って逃げている。たとえトレインからの逃走が成功したとしてもサクラコ以外のレベルは5に満たず、単独行動中にモンスターと出会ってしまえば命取りになる。どうすればいいの。

 

「落ち着いてっ! 私が行くからみんなは一塊になって来た道を戻ってっ!」


 大宮さんは腰からナイフを取り出してあの中に一人で行ってくると言う。無茶だと叫ぼうとするものの、誰かがあのトレインの進行方向を変える以外に救う手立てがないのも事実。だけど――

 

「私は大丈夫。早瀬さんっ、みんなを頼んだよっ!」


 アタフタとしている私の目を見ながらそう言うと、恐るべき速度で走り去っていく。見ればトレインが今にもクラスメイトの前で解き放たれようとしている。ここは大宮さんを信じて動かなくてはならない。

 

「みんなっ、こっちよ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ