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033 ソレルの男達

 家に戻るとすでに妹は準備万端で待ち構えており、遅い遅いとドシドシ足を踏み鳴らしていた。興奮して夜もすぐに寝付けないほどダンジョンダイブが楽しみとのことで、俺の帰りを待ちきれなかったらしい。


 すぐに防具に着替えるよう急かされ再び学校へ。裏手の通路に誰もいないことを確認し、地下一階の空き教室にあるゲートから登録したダンジョン7階の礼拝堂へワープする。




「……あれ~? 誰かいたのかな?」


 華乃がボロボロの礼拝堂の片隅を指し示す。その先をみると薪が燃え尽きた跡があった。昨日まではこんな跡は無かったので、誰かが来たのは確実。ここで焚火をして一晩明かしたのだろう。


 この追加エリアに来るためには、誰も寄り付きそうにない7階の果てにある落とし穴に入り、その底にある横穴からカタコンベを通ってくる必要がある。普通の冒険者は落とし穴に横穴があるなんて気づくわけがないのに。


 ならばゲートから来た?


 ゲートが使えるならこんなところで一夜明かす必要なんてない。来るときにゲートを使ったのなら同じくゲートを使って帰ればいい。


 俺と同じようにプレイヤーの線も考えたが、それも同じことだ。俺達が初めてここに来たときはゲートが蔦に隠されて見えない状態だったが、今は刈り取られ目立つ位置にある。驚くほど蔦の伸びる速度が早いようだが、プレイヤーなら半分でもゲートの魔法陣が見えていれば見逃すことはないだろう。


 消去法でいくと探索好きが偶然見つけたとか、もしくは落とし穴に逃げ込むトラブルがあったとかそんな理由ではなかろうか。そういえば7階の落とし穴に入るときに魔狼の遠吠えがいくつか聞こえたが、ここに来た冒険者が原因だろうか。


 あとは可能性は低いが、この場所が元々一部の冒険者のみに知られている場所だったのかもしれない。


 いずれにしても俺達が気にすることは無いだろう。ゴーレムは中庭のいくつもの場所でポップするし少数の冒険者となら取り合いにはならないはず。気を取り直してゴーレム狩りに行きますか。




 えっちらおっちらと要塞まで寂れた荒野を歩いていると道端で男三人のパーティーが座り込んで屯していた。恐らく礼拝堂の中で焚火をしていた冒険者だろう。その中の一人が俺達に気づくと「お~い」と声を上げてこちらに近寄ってくる。妹も連れているため男たちに気づかれないように身構える。


「おう、君たち。何か食糧持ってないか? 腹ペコでマジ困ってるんだワ」


 駆け寄ってきた冒険者は胸当ての上からミリタリージャケットを羽織った身軽な装備をしている。【シーフ】だろうか。もう二人はインナーの上から肩、胸当て、小手、グリーブと、全身に黒い魔狼の革製防具を着こみ片手剣を腰にぶら下げている。こちらは【ファイター】か。三人の胸に太陽のようなマークのバッチをしているので同じクランと推測できる。


 その三人の話を聞いてみると……7階で不意に魔狼の大量リンクを引き起こしてしまい近くにあった穴に逃げ込んで立て直そうとしたところ、横穴を見つけてこんな場所に来てしまったそうだ。やはり昨日の魔狼の遠吠えはこの人らが原因か。


 この場所からゲートを使わず戻るにしても半日近く掛かるはず。その間、空腹のままは辛かろうと持ってきたオヤツを半分分けてあげる。しかし「ケチケチすんな。それも出せよ」ともう半分も遠慮なく持っていく。図々しいことこの上ない。


 三人はムシャムシャと競うようにお菓子を平らげ、もう無いと言うとあっさり解放してくれた。ここはどこかとか俺達は何者かなど色々聞かれるかと思ったが杞憂だったようだ。まぁ聞かれても知らない、こちらも迷ってここまで来た、というつもりだが。


 狐につままれたような出来事だったけれども、こういうこともあると割り切り要塞中庭へと向かう。そろそろジョブチェンジが見えてきたので気合を入れなおそう。


「も~。せっかく楽しみにしてたオヤツなのに! それに……なんというか、あの人たち臭かった……」

「何日も潜っていたんだろうな」


 先程の三人は髭がかなり伸びていたし、服を何日も変えていなそうだった。ゲートの存在を知らない一般冒険者のダンジョンダイブは1週間潜ることなんてザラ。攻略組に至っては数か月潜りっぱなしもあるという。当然その間は入浴なんてできず、せいぜいが体を拭く程度。こちらの世界での冒険者とはまさに冒険をする者のことだ。厳しいダンジョン生活にも適応していく必要がでてくる。


 俺達もゲートが使えるとはいえ、深層まで潜れば強敵や複雑な地形を攻略するのに時間を取られ日帰りが難しくなることはあるはず。早いところ【機甲士】になって《ゴーレムキャッスル》のスキルだけは取っておきたい。




 ということで中庭に到着。ゴーレムの感知領域外に茣蓙を敷いて陣取り、ゆっくりと準備に取り掛かる。


 妹はレンタルしてきた2挺の手斧を振り回して早くも感触を掴んだようだ。《二刀流》というスキルは両手にそれぞれ武器を持ったときの威力を強化させるスキルだが、初めて使った武器ですら、こうも短時間で使いこなしてくるというのはチートすぎる。もしかして戦闘センスすら上昇させているのだろうか。


 兄としての威厳をどう守るべきか、なんてことを考えつつ、荷物を置いていざゴーレム狩りを始めようかというとき――


「おーい。この城の奥に変わったスケルトンがいるの知ってるかー?」


 お菓子を強請ってきた三人組が再びやってきた。これからってときに面倒事か。


「そうそう、あのスケルトンってそこらのと違って強そうだったからよ。俺達は三人で、お前ら二人だろ。パーティー組んで倒そうぜ」

「レオ君よ、その前に俺等の自己紹介から始めたほうがいいんじゃネ?」


 この人たちが言う“スケルトン”とは城主の間にいた宝箱を守っているスケルトンのことだろう。《簡易鑑定》していないので強さは分からないが、確かに休止状態でも強敵の臭いはした。


 三人の装備品を見た感じレベル10前後。今の俺よりレベルは高いかもしれないが、命を掛ける戦いに、会ったばかりの――しかもお菓子を強請られた――冒険者と組むとかあり得ない。そも、あのモンスターに関しては俺のゲーム知識に無く、どの程度の強さなのか分からない。もう少しレベルを上げて装備を揃えてから戦いたかった相手なのに。


 横を見れば華乃もイヤそうに眉をひそめている。


 こちらが乗り気でないと見るや「俺達はカラーズ傘下のソレルっていうクランのものだ」と髭とモミアゲがくっついた男が自信満々に自己紹介をし始める。あぁ……“ソレル”ねぇ。今日聞いたばっかだぞそれ。


 シーフの格好をした男は間仲良(まなかまさる)と言うらしい。間仲って。 Dクラスの間仲がソレルがどうのと自慢してたけど、その兄貴っぽいな……もう組む気が完全に失せたのだが。


「あの~すみませんが、俺たちは遠慮しときます」

「あ”ぁ?」


 一気に態度を硬化させこちらを威圧してくる間仲。後ろにいる二人もこちらを露骨に睨んでくる。面倒臭ぇ奴らだ。


 とりあえずここでバトルするしないは措いておくとして《簡易鑑定》しとくか。



<名前> 間仲良(まなかまさる)

<ジョブ> シーフ

<強さ> やや強い

<所持スキル数> 3


<名前> 秋久怜央(あきひされお)

<ジョブ> ファイター

<強さ> 同じ強さ

<所持スキル数> 2


<名前> 市渡一也(いちわたりかずや)

<ジョブ> ファイター

<強さ> 同じ強さ

<所持スキル数> 2



 初めて人に対して《簡易鑑定》やってみたが……脳内に文字列がイメージされるような感じで分かるのか。意識していないとイメージが薄れていくので使いこなすには慣れが必要かもしれない。


 全員が初期ジョブ【ニュービー】から基本ジョブにジョブチェンジ済み。《簡易鑑定》では主観的な強さ(※1)しか分からないので、「同じ強さ」とか「やや強い」とかのスキル使用者から見た強さ表記になる。


 俺がレベル8なので、恐らく間仲兄がレベル10、秋久と市渡がともにレベル8~9って感じか。スキルも所持スキル数からして《簡易鑑定》もしくは基本ジョブで覚えたスキルを所持しているのだろう。《スキル枠+3》は覚えないまま、すぐにジョブチェンジしていそうだ。


 さてどうするか。“奥の手”を使えばこいつら三人くらいやってやれないこともなさそうだが……後々が面倒くさいな。


「テメェ、いま《簡易鑑定》を使ったろ。俺等カラーズとやる気なの? 死にたいの?」


 三次団体の下っ端ごときがトップクランを名乗るなよ……と苛立ちながらも「俺たちまだレベル8なんて足手まといにしかなりません」と丁寧に断る。が、全く聞く耳を持たない間仲達。しばらく押し問答になり、脳内で三人組をぶっ飛ばすシミュレーションをしながら心を落ち着けていると――


「おにぃ。時間がもったいないし付き合うだけ付き合ってみたらどうかな」

「お、話が分かるね、嬢ちゃん」


 はぁ……なんかしつこいし。ダメなら逃げる方向でさくっと終わらせたほうがいいのかね。しかし食料が無いのに呑気に宝箱漁りか。これから帰るのにも時間が掛かるはずだが、そちらさんのダンジョン計画は大丈夫なのかね。


 こちらがイライラしている一方で、三人組は気を良くしたのかベラベラと自慢話を始める。


「でよぉ、カラーズ二次団体の“金蘭会”に呼ばれてよぉ」

「そうそう。ソレルには世話ぁなったが、本家カラーズ入り目指してる身としては目をつむって欲しいっつーか」

「俺等もついに金襴会かぁ、へへっ」


 移籍要請に呼ばれたのではなく、単なる立食パーティーに呼ばれただけだろ。つーかお前らなんかをカラーズ入れたら品格が落ちる。


「(おにぃ、顔がピキピキしてるよっ。押さえてね)」

「(あぁ。気を付ける)」




 眉間に寄ったシワを揉みながらゾロゾロと城館の中に入る。通路の途中にいたスケルトンはすでに倒されており、城主の部屋の手前で作戦会議となった。


「んじゃ作戦は……タコ殴りでいいんじゃネ」

「それな」


(どれだよっ)


 まぁ後衛もタンクもいないし、討伐対象である城主の情報も無いため取れる作戦も分からない。ターゲットを絞らせないよう囲みながら叩くのも悪くないのかもしれない。


「とりあえず《簡易鑑定》で見てみる」


 市渡がドアの隙間から《簡易鑑定》でレアスケルトンを調べてみて、問題ないようなら作戦“タコ殴り”でいくこととなった。問題あったらどうするんだと思ったが、五人もいるなら城主のレベルが9か10でも難なく倒せるはず。気に病むことはなさそうだ。


 フロアボスのようなレベルが大幅に高いモンスターという可能性もゼロではないが、フロアボスが追加エリアで出たという記憶はないし、出たとしてもここは7階なのでせいぜいがモンスターレベル12。逃げ切るだけなら十分可能だろう。


 鑑定結果はどうなのか気になるのですぐにでも聞きたいのだが、隙間から中を覗いている市渡は固まったまま動かない。


 《簡易鑑定》はモンスター相手に使うと微量のヘイトを与えてしまうため、疑似的な挑発にも使えるスキルだ。使った瞬間モンスターによっては即交戦となるので、ちんたらしている暇はないと思うが。


「おい、カズヤ……どうした?」


 反応が無いのを不思議に思った間仲が問いかけると、市渡は激しく過呼吸し慌てだした。


「や、やべぇ逃げ――」


「グオォオォオオォオオオオッ!!!」」


 城主の間の扉が市渡諸共はじけ飛び、中から徒ならぬ気配を放つスケルトンが出てきた。






(※1)《簡易鑑定》の主観的強さ表示


-5レベル以下 相手にならないほど弱い

-4レベル とてもとても弱い

-3レベル とても弱い

-2レベル 弱い

-1レベル やや弱い

+0~1レベル 同じ強さ

+2レベル やや強い

+3レベル 強い

+4レベル とても強い

+5レベル とてもとても強い

+6レベル以上 計り知れない強さ


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