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災悪のアヴァロン【コミック10巻 12/18日発売!】  作者: 鳴沢明人


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172 解呪計画

「アーサー様でしたか。魔法で作った体で空から降ってくるとは……素晴らしいサプライズでございます」

『でもホントに……不思議な体だよね。足ってどんな感覚なの?』


 構えていた組み立て式の剣を手早く解体して長いスカートの下にしまい、手本のような辞儀で迎えるメイドと、興味津々にアラクネの体を見回す全身金属鎧の少女。砂ぼこりを撒き散らす迷惑かつド派手な登場は、存外好評だったようだ。

 

 というか黒崎さん。俺に対しては(あるじ)(たぶら)かす不届き者として睨みを利かせているというのに、何故ゆえ下心満載のアーサーには丁寧な対応なのか。天摩さんに足を触られ鼻下を伸ばしデレデレしているあの顔をよく見ろと異議を唱えたい。

 

 そんな俺の複雑な心情など無視してアーサーはマジッグバッグから新たな手土産を次々に取り出す。今度は食材のようで、これもかなりの量だ。巨大な魚の切り身に、青いガラスでできたような透明な果物。おまけにスイカサイズの肉の塊をひょいひょいと積み上げていく。

 

「アーサー君っ! このお肉って、もしかしてっ!」

『あぁ華乃ちゃん、これはね。さっき上空飛んでたときに“鳥”が群れてたからさ、全部まとめて狩ってきたんだよ』

「スープに入っていたあの肉が……こんなに。ちんちく――アーサー君、す・て・き♪」


 高級料理の前で砂ぼこりを巻き上げやがってと怒っていた華乃であるが、積まれた食材に目がくらんだのか「よくやった」と蜘蛛の胴体に両手を広げて抱き着いている。もう一人の即物的な少女、久我さんも肉を見ながら小さく拍手し、アーサーを盛んに褒め称えているではないか。

 

 こうなったら俺もおこぼれに(あずか)ってやらねばと考えを巡らしていると、アーサーは資材や食材の山に夢中になってる女子達を放っておいて、こちらにやってきた。椅子を引いて座ろうとするものの下半身が蜘蛛なことに気付き、仕方なくその場で足を折りたたむ。


『そんじゃ解呪計画について話し合おうじゃないか。お前(・・)とも無事に契約できたようだし……な?』

「待て。その前に“世界征服計画”とかおかしなことを言ってただろ、あれはどういう意味だ」


 天摩さんが契約したウガルム・クイーンが足元に寄ってきたので、アーサーが新たに取り出した肉片を分け与えて頭を()でる。5m近くあった体長も契約したことで幼くなり、中型犬ほどの大きさにまで縮んでいる。

 

 一生懸命に食べている姿は可愛らしいが、肉片を押さえ込んでいる爪や突き刺している牙は鋭く、ウガルム王種の特徴である大きな真っ白い耳も相まって風格は健在。こいつについても聞きたいことはあったが後回しだ。世界征服とは何事だ、何かの比喩なのか、おかしなことを企んでないかを問いたださねばならない。

 

『そのまんまの意味だよ、世界を征服。ボクはさ、理不尽に対抗するには理不尽な存在、立場にならなきゃって思ったんだ。そうじゃないと何も守れずに(しかばね)を晒すだけだよ?』


 俺が砂ぼこりから身を(てい)して守った一口サイズのオードブルを、遠慮なく摘んで口に放り込みながら答えるアーサー。ミハイロに敗れ、その後に何もできなかった自分が悔しくて情けなく、自問自答した結果が世界征服とのことらしい。

 

 未来がゲームシナリオに即していれば大抵のことは対処が可能。たとえゲーム主人公でなければ対応できないイベントだとしても、時間さえあれば協力して何とかできる自信もあった。だが、この序盤にミハイロ率いる神聖帝国と全面衝突など無茶もいいところ。何かが1つでもズレていれば全滅してもおかしくはなかった。


 今後もレベル上げすら間に合わないまま、理不尽な突発的イベントに巻き込まれる可能性が十分にありえるわけで、そんなことになれば今度こそ本当に死ぬ。俺達だけの被害で済めばいいが、後ろで食材をどうするか話し合っている彼女らも巻き添えとなって死ぬ。お前はそれでもいいのかと、アーサーは新たに取り出した青いリンゴを咀嚼(そしゃく)しながら逆に問いただしてきた。

 

『それにさ、日本中が滅茶苦茶になるイベントだっていくつかあっただろ。そういうのに対抗していくなら強力な組織が必要なんじゃないのか?』

 

 ダンエクでは日本が政治的に不安定になるルートや、終戦直後よりも国土が荒廃する悲惨なルートだってある。ゲームであれば終末的な世界観も盛り上げる装置として楽しめたが、現実となれば目を覆いたくなる地獄に他ならない。そんな状況でも大事な人達を守っていくならレベルを上げるだけでは足りない。俺達をサポートしてくれる組織が必要なんじゃないかとアーサーは言っているのだ。


 続けて、組織作りがトントン拍子に拡大していけば世界征服だってワンチャン狙えるんじゃないか。実際に少数冒険者が集まって広域国家にまで拡大した神聖帝国という事例があるわけだし――などとアホなことを言い出しやがった。

 

 確かに俺達がとんでもなくレベルが上がって大貴族や軍ですら太刀打ちできない巨大組織を作れたなら、神聖帝国のように国家樹立も不可能な話ではないだろう。

  

 だが世界征服なぞ考えるまでもなく却下だ。そんな事のために時間と余力を費やすくらいなら、ダンジョンに気の向くまま潜って遊んで暮らしたい。金や権力よりも俺は自由が欲しいのである。

 

 とはいえ、アーサーの言う組織の必要性も理解できる。クランパーティーでは各々が思うがまま動いていたが、もし強力な組織がサポートに付いてくれていたら対応力も桁違いに増していただろう。だがそんな組織が欲しいといったところで天から降ってくるわけではない。

 

「組織といっても、いつものように集まって協力する以上のことができるのか。俺達にはダンジョンの経験や知識はあっても、組織を作るノウハウなんてないだろ」


 まずそんな大層な組織を作ろうにも金がない。その金作りのために頑張って手に入れたレア素材を売ろうにも、未成年で立場もない俺達が巨額の金を動かせば非常に目立つ。そうなれば、どこぞの貴族やクランから面倒事がわんさか舞い込むのは明らかだ。現時点では俺の両親に頼んでこっそりと売ってきてもらって小金を増やす程度が関の山なのである。

 

 仮に、何らかの方法で金の問題を解決できたとしても、組織を運営する能力も、協力してくれる優秀な人材もいない。結局、俺達だけで今後も何とかやっていくしかないではないか――

 

 ――というツッコミをアーサーに入れてみたのだが……何だその、アホな子を見るような目は。おまけにわざとらしくヤレヤレと手の平を返し、溜息まで吐いてきやがった。やんのかコラ。


『まったく、その程度の事をボクが分かってないと思ってたの? え~と金稼ぎだっけ? じゃあ説明よろしくね』

「かしこまりました」

 

 やけに自信がありそうな顔をしているので、一体どんなトンチンカンなアイデアを隠し持っていやがるのかと警戒していると、話に割り込んできたのは頭にカチューシャを載せた黒髪ロングのメイドだった。

 

 さっきまでコックと黒執事達にテキパキと食材の指示を出していたと思ったら、いつの間にか着席し優雅に紅茶を飲んでいたではないか。コトッとティーカップを丁寧に置くと鋭い目つきで俺を睨んでから静かに口を開く。

 

「ではまず、お嬢様の解呪計画について話そう」


 天摩さんの解呪計画だと? 仲間となる以上は絶対にやり遂げるつもりではあるが、組織作りの話とどう関係する。そう(いぶか)しんでいると「お前もそこへ座れ」と視線で合図してきたので、大人しく俺も椅子を引いて座ることにした。

 

 聞けば解呪計画には天摩さんのお爺さんである財閥総帥が「金・人・物に糸目は付けない」「総力を挙げて必ずや解呪を成功させよ」と号令をかけたことで、天摩グループが全面的にバックアップにつくことが決定したそうだ。

 

 天摩さんの両親はすでに他界しており、奥さんも亡くしたお爺さんにとって唯一の肉親。そのせいもあって目に入れても痛くないほど孫を可愛がっており、同時に呪いで苦しんでいることに心を痛めていた、という情報はダンエクのゲーム知識を通して知っている。だから孫の解呪が可能と聞けば、お爺さんが全面協力してくれることは驚くことではない。

 

「それだけではない。もし解呪に成功すれば――あぁ、もちろん失敗など許さないが、我らブラックバトラーと天摩家は恒久的な支援を約束しよう」

「……支援ですか」

『ということだよ、災悪。ボク達が拾ってきた大量のアイテムも、(あきら)ちゃんの力を借りればあっという間に(さば)けるって寸法さ!』


 天摩家は、天摩さんのお爺さんが冒険者用の優れた武器を開発した功績で男爵位を貰った新興貴族。上流階級としての歴史こそ浅いものの、巨大企業を経営する日本有数の金満貴族でもある。その天摩家が幅広い販売網と人員を提供してくれるならレアなアイテムでも安全に捌けるし、何なら買い取って武器開発まで期待できるという。

 

 アーサーに妙な自信があったのは、黒崎さんとあらかじめ話を通していたからだろう。だが実際のところ天摩家にどの程度の力があり、どこまで協力してくれるのかを詰めていかないと判断できないので何とも言えない。


 無論それらも天摩さんの解呪成功が絶対条件。何が何でも成功させる、そのためにも万全の計画を立てるぞと黒崎さんが詳細を聞いてきたわけだ。であればと俺もダンエクの解呪イベントを思い出しながら現状と照らし合わせてみる。が――

 

「はっきりいって今の段階では、すぐにとはいきそうにないですね」

「どういうことか、それも説明しろ」


 天摩さんの解呪は、ゲームストーリーの中盤以降に発生するイベントだ。推奨レベルも30前後と高く、入学して数ヶ月という時期に起こすような生易しいものではない。だが今や、というか何故か?俺のレベルは30に到達しており、アーサーの協力も加わるため戦力的には何ら支障がなくなっている。


 問題はこのイベントが天摩さんのものであると同時に、赤城君のイベントでもあるということだ。そのため彼の協力を得る必要があるのだが……


「赤城悠馬(ゆうま)……以前に会ったあの赤頭だな」

『あのイケメンハーレム男、今どんくらい育ってるの?』

 

 黒崎さんはクラスの練習会に付き合ってくれたことがあり、その際に赤城君とは一度だけ会っている。その印象としてそれなりに有望そうには見えたが、我々に同行できるほどの力があるとは到底思えないと静かに首を振る。それもそのはず、赤城君のレベルはまだ10にも届いていないのではないか。

 

『全然レベル足りてないじゃんか。パワーレベリングしてさっさと上げたほうがいいんじゃないの?』

「それも考えたが、彼の成長を奪うことになってもいいのか? それに――」


 赤城君が解呪クエストに同行するならレベル20、最低でも15くらいは欲しい。そうでないと道中のモンスターが放つ魔力に精神が耐えられないからだ。しかしレベルを上げるだけなら俺達がモンスターを弱らせ、赤城君にトドメを刺させるというパワーレベリングでどうとでもなる。真面目に1カ月もやってれば必要レベルに到達するのは難しいことじゃない。

 

 だがダンエク主人公は、いくたびの試練を経て成長していく存在。それはレベルだけの話ではない。パーティーメンバーと共に強敵を倒し、困難を乗り越えながら様々な冒険者や精霊、魔人含む多種多様の信頼と協力を得て、巨大なうねりとなる。

 

 そうなったときの主人公パーティーはまさに無敵。神聖帝国が複数の枢機卿(カーディナル)と万を超える冒険者を連れてきても、たとえ見渡す限りを地獄へと変える魔人やモンスターが現れても、真正面から力でねじ伏せてしまえるほどに。

 

 だがそれは当然だろう。この世界そのものがダンエク主人公のための舞台なのだから。あらゆる理屈も理論も困難も、超越者となった彼らの前には問題とならない。


 では、俺達が勝手にダンエク主人公のレベルを上げてしまったらどうなってしまうのか……?

 

 何の試練も困難も経ることがないのなら彼らの崇高な精神性は未熟のままだし、周囲も認めることなく協力もしなくなる。そうなると……彼らしか成し得ないイベントの結末は? 世界の行く末はどうなるんだ?


 テーブルに頬杖をつきながらしばし考えていたアーサーは、名案を思いついたとばかりに得意げに返答する。


『なら赤城だけを育てて、ピンクちゃんはそのままにするってのは? 彼女がいればまだ何とかなるんじゃないのかな』

「赤城君のレベルだけ上げても精神性が未熟なら“大精霊”は認めない。よって天摩さんの解呪は成功しないぞ」

「……どういうことだ、小僧」


 このままでは解呪が成功しないと言うと、メイドは「詳しく説明しろ」と言ってますます厳しい目つきになる。

 

 ダンエクには主人公が“二人”いる。男性版主人公の赤城悠馬(ゆうま)と、女性版主人公のピンクちゃん――三条(さんじょう)桜子(さくらこ)だ。アーサーは赤城君をパワーレベリングして育て、もう一方のピンクちゃんはゲームストーリー通りに順序良く育てて主人公に添えればいいと言ってるのだ。

 

 ゲームストーリーに限っていえば、ピンクちゃんをメインに添える作戦でいけるかもしれない。しかし天摩さんの解呪には大精霊に赤城君を認めてもらう必要がある。解呪イベントの核心はここなのだ。

 

 元々、赤城君は精霊属から好かれ、協力を得られやすいという素質がある。ダンエクにおいては出会う精霊が次々に寄ってきては契約を迫ってきたほど。だからある程度イベントをこなしてレベルと内面の双方が育っているなら、大精霊も力を貸すことを惜しまないはず。


 逆に相応の中身が伴ってないなら、大精霊は認めるどころか“敵性あり”と判断しかねない。

 

「大精霊……そんな存在が? お嬢様の呪いはそいつの仕業なのか」

『そうだよ。だから(あきら)ちゃんの解呪もその精霊しかできないんだ』


 天摩さんの未来を見た精霊が彼女を守る(・・)ために醜くしてしまった、というエピソードがダンエクにあった。なのでダンジョンのどこかにある池で溺れたことはなかったかと尋ねてみるものの、メイドは記憶にないと静かにカチューシャを横に振る。


「私はそのとき天摩家ではなく()の場所にいたから詳しいことは知らないが……お嬢様がダンジョンで事故に遭い、そのときから鎧に引きこもりになられたと旦那様から聞いている。しかし疑問だ。精霊がお嬢様を守るためなら、どうして呪いなどかける?」


 天摩さんも精霊と相性が良く、好かれる素質がある。そして大精霊も天摩さんが気に入り、守るために呪いをかけたのだ。だから正確には天摩さんが受けたのは“呪い”ではなく“祝福”なのである。

 

 足元でさっきの肉をもっとくれと催促しているこの(ウガルム)も、もしかしたら精霊の血が入っているかもしれないと思いながら撫でていると、黒崎さんが物騒なことを言い出した。

 

「その大精霊とやらが原因なら討伐してしまえば話が早いのでは?」

『そりゃ無理だね。大精霊はボクですら傷一つ付けられないよ。それに倒せたところで呪いは消えない』

 

 そこらの小さな精霊ならともかく、大精霊という存在は環境や空間そのものである。巨大な湖の大精霊ならその湖、雪の大精霊なら視界に映る氷雪の全てを消滅させないと滅ぼすことはできない。加えて、精霊の呪いは対象の体深くに刻印され、対象自身の魔力で動作する。そのため呪いをかけた精霊を消滅させたところで効果は永続するのだ。

 

 結局、赤城君には何が何でもレベルと内面の両方で強くなってもらわないと駄目だという結論になるしかない。

  

 というか、入学してから数ヶ月で“すべての人と精霊を守り抜く”とか“世界を救う”なんて意識や覚悟が芽生えるものだろうか。大精霊はそういった内面を視るのだが、ろくに修羅場やイベントを経験していない赤城君に期待するほうがおかしいのではないか。


 そも、俺が強くなれると赤城君を誘ったところで動かせるとも思えない。仮に動かせたとして、無茶をさせてしまえば赤城君が潰れてしまう。しょせんは俺達の都合なわけだし彼を利用して結果だけを利己的に求めるのではなく、彼の意思を最大限に尊重しなければならない。



 解呪イベントは考えれば考えるほどに問題だらけである。ゲームストーリー通りなら勝手に赤城君が育っていくので悩む必要なんてないのだが……アーサーと共に高い空を見上げながらどうしたものかと頭を悩ます。

 

 隣のメイドも腕を組みながら考えていたものの、大きく息を吐いて提案する。

 

「お嬢様のためならば仕方がない……私の元へ連れてこい。内面共々、1カ月できっちり仕上げよう」


 ダンエクでの黒崎さんは天摩さんの良きメイドであると共に、主人公を鍛え育てるという師匠的ポジションキャラだった。背後にいる黒執事も黒崎さん自らが指導して鍛え、立派な戦力にさせた実績がある。ここは黒崎さんに頼るのが一番かもしれないな。

 

 では次にどうやって誘えばいいかだが……赤城君とは信頼関係を構築できておらず、それどころか俺という存在を認識されてない可能性すらある。学校ではクラスカースト最底辺であると素直に打ち明けると――

 

『ぶわっはははは! そういえばお前、コミュ障で陰キャのブタオだったな! ぶはははっ!』

「……なら周囲の人物から絡め取るしかないだろう、誰かいないのか」


 俺を指差して目尻に涙を浮かべながら大笑いするアーサー。一方で「何を今さら」と呆れ顔のメイドは、赤城君を誘えないなら外堀から埋めていけと助言する。

 

 俺にとって学校とはゲームイベントを消化するための場所であり、空気でいるほうが都合が良かったのだ。しかし人間関係を全く構築してこなかったせいで、主人公パーティーに介入できないという弊害が出てきている。それもクラスから一目置かれているサツキを頼れば問題無いのだが、最近はずっと任せてばかりだし俺が動くべきだろうな。

 

 そういえば、カヲルは黒崎さんに剣の指導を受けたことがあったな。もう一度指導してもらえると誘ってみようか。学校では話すタイミングがほぼないので登校するときを狙いたいのだが、ここのところカヲルは早朝から練習にいってしまって一緒に登校こともめっきり少なくなってしまった。

 

 かといって同じ主人公パーティーであるピンクちゃんには避けられてる気がするし、立木君は俺の秘密を探ろうとする視線が怖い。やはり少ないチャンスを活かしてカヲルを誘うしかないか、などと考えていると――

 

「キャーーー!!」

 

 突然の悲鳴が木霊する。

 

 俺とアーサーは即座に身を伏せて周囲の状況を確認。黒崎さんはスカートの中から組み立て式の剣を取り出し、いざ天摩さんの方へ足を駆け寄ろうとする。モンスターの襲撃かと、よく見てみれば悲鳴の元凶は華乃であった。


「こんなの初めて食べたぁぁああっ! ああっ、うまあああああい!」

 

 スイカサイズの骨付き肉を掲げ、空へ向かって「うまあああい!」と何度も咆哮する華乃。隣ではリスのように一心不乱に(かじ)りついている天摩さんと久我さんがいた。周囲にいた作業服のおっちゃんも配膳の途中だったワゴンに群がって肉の争奪戦が起きているではないか。

 

(何だ? 何の肉を食べている……?)

 

 あんなに人を狂ったように執着させる肉とか危険すぎるだろ。変な成分でも入っているんじゃないのか。ポケットから状態回復ポーションを取り出して症状を見極めていると、暴力的なまでに空腹を刺激する脂の香りが漂ってくる。これは……“ジャイアント・ウィング”の肉の匂いに違いない。

 

 米粒ほどの小さい肉片でもあれだけスープを美味しくしたのだ。なら口いっぱいに頬張ったらどれほどの衝撃を味わえるのか、それは目の前の光景が答えである。

 

「いくぞ……アーサー。負けられない戦いがそこにある」

『えっ、あの肉ってそんな美味いの?』

 

 いまだ状況を把握できていない愚かなアーサーは放っておくとしよう。ダイエット? 知るかそんなもん。俺は雄叫びを上げ、肉塊が積まれたワゴンに向けて大きく踏み出すのであった。


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