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災悪のアヴァロン【コミック10巻 12/18日発売!】  作者: 鳴沢明人


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174/177

170 成海華乃は思い馳せて空を仰ぎ見る ②

 華乃が見せてきたメモは以下の通りである。



<名前> 成海華乃ナルミ カノ

<レベル> Lv27

<ジョブ&ジョブレベル> 【機甲士】ジョブレベル10

<冒険者階級>:―未登録―


<ステータス> (※1)

最大HP:121

最大MP:98

STR:102

INT:74

VIT:67

AGI:133

MND:68


<スキル 10/10>

・《二刀流》

・《簡易鑑定》

・《シャドウステップ》

・《バックステップ》

・《五月雨斬り》 (※2)

・《隠密》 (※3)

・《ハンドメイドゴーレム》

・《ロケットパンチ》

・《ゴーレムキャッスル》

・《完全駆動》 (※4)

・《HPバリア》 (※5)




「100以上のパラメータがこんなに!? 1つでもあれば一流クランから好待遇の勧誘が来るって言われてるのに……華乃ちゃんは才能の塊だよっ!」

「え? そ、そんなこと……あるかなっ!」


 サツキに褒められると舌をちょこんと出し、くねくねして有頂天になる我が妹。その姿に呆れながらも、確かにこの能力値は高すぎるとは思う。


 ダンエクではレベル30前後で、能力値(ステータス)のパラメータが100に届いていれば上々。120以上だと“天性の才能”があるという判断だった。だがダンエクの数値は何度もキャラを作り直す前提なので、実際には60もパラメータがあればまずまずの値なのだろう。

  

 しかし華乃はレベル27時点ですでにSTR(膂力)が102。HPとAGI(俊敏性)にいたっては120以上と、近接ジョブにおいて途轍(とてつ)もない才能があることが分かる。またMPやINT(知力)などの後衛向けのパラメータも悪くはないので、何にでもなれるといっても過言ではない。

 

 ダンエクヒロインでもここまで能力値ステータスが高い人物は記憶にない。ダンエク主人公である赤城君やピンクちゃんに匹敵するのではないのか。もしかして世の中には、華乃のような隠れた才能が多く潜んでたりするのだろうか……

 

 そのようなことを考えつつも保有スキル欄に目を移すと、速度アップの《シャドウステップ》、緊急回避の《バックステップ》を軸とした機動力重視型のスキルが並んでいる。加えて後半には【機甲士】で覚えたスキルが5つ。今のスキル構成ならゴーレムをタンクにして戦うより、自身とゴーレムが同時に動いて数的有利を作る戦闘スタイルを取るのが最適解だろう。

 

 だが華乃はこのスキル構成に不満があるようだ。


「同レベル帯の敵と戦うならゴーレムは強いんだけどっ、白ローブみたいな強い人が相手だと、すぐやられちゃって駄目なんだよね」

「格上を相手にするなら自分を強化するスキルが一番役立つが……上級ジョブには大幅強化するスキルがないのが問題だな」


 多大なMPコストと高価な素材を使ってゴーレムを呼び出したものの、白ローブと戦わせたらすぐにやられてしまったと口先を尖らせる。それはそうだろう、ゴーレムなどの召喚系は自分と同等以下の強さでしかないので格下には強いが、圧倒的格上が相手ではすぐにやられてしまう。


 格上相手で問題となるのは、スキルというよりステータス差だ。その差があると力や魔力だけではなく、動体視力や速度まで大きく変わってきてしまう。だから俺の《オーバードライブ》や、リサの《暗黒》のような自身を大幅強化するスキルでステータス差を埋めることが格上に対する最上の対抗手段となる。

 

 しかし上級ジョブにそこまで強烈な強化スキルはない。少なくとも俺は知らない。よって現時点では華乃がジョブチェンジしたところで、俺やリサのように格上とガチバトルできるかといえば、非常に厳しいと言わざるを得ない。

 

「じゃあ、また白ローブみたいなのと出会ったらどうすればいいの?」

「格上相手で重要なのは戦って勝つことじゃない、生き抜くことだ」


 頬を膨らませて何か良い方法がないのかとゴネる華乃だが、そも格上と戦うのは最後の手段であり、まずは逃げることを考えるべきだ。その点、今の華乃のスキル構成なら“ゴーレムを囮にして速度特化で逃げる”という戦術も取れる。それは推奨すべきコンセプトだ。


 これに加えて新たなスキルを追加するならば、より逃げやすくなるようなものがいいだろう。攻撃や防御にも使えるならなお良し。だがそんな都合の良いスキルなどあっただろうか――


(――そういや、あったな)


 ミハイロと戦っているときに気付いたことはある。“空を飛べない”というのは想像以上に不利に働く、ということだ。真宮(しんぐう)(すばる)六路木(ろくろぎ)時雨(しぐれ)のような強者でも飛ぶことができず、状況次第では一方的に攻撃され殺されたとしてもおかしくはなかった。逆を言えば相手が飛べず、こちらが飛べる状況なら圧倒的有利な局面を作ることだって可能となる。

 

 ダンエクでは誰もが飛行スキルを持っていたし対策も豊富にあったため、空を飛ぶこと自体にアドバンテージなど無かったが、この世界では神聖帝国の奴らでも一部しか飛べない。だからこそ飛行スキルは極めて強力な武器となり得るのではないか。

 

 といったメリットを簡潔に教えると、隣で聞いていたサツキもその重要性に大きく頷き、椅子を引き寄せて会話に加わる。

 

「でも空を飛ぶって色々あるよね、アーサー君みたいにふわりと浮きながら飛ぶタイプ、リサみたいに瞬間移動して戦うタイプ……あとはソウタみたいに空中を跳ねるタイプ。華乃ちゃんはどれが――」

「おにぃの《エアリアル》をやってみたいっ!」


 空を飛ぶにも色々なスキルがある。一般的なのはアーサーやミハイロが使っていた《フライ》という浮遊魔法だ。主に後衛ジョブが使うもので、空中にふわりと浮きながら加速、減速も思いのまま。制御も楽だがその反面、機微な動きを取るのが難しく読まれやすいという欠点もある。

 

 リサのように空中を転々と転移して戦うタイプもあるが、転移のたびにタイムラグが発生するし、常に落下する危険性もある。そのせいで他の飛行スキルと比べても敵の動きや戦うエリア全体を事細かに意識し注意を払わなければならない。ダンエクでも一部のプレイヤーしかできなかった超高等戦術だ。

 

 しかしこの戦術を扱うにもレベル50以上の制限がある最上級ジョブの【暗黒騎士】に就かねばならず、レベル27でしかない今の華乃の選択肢にはなりえない。よって除外。

 

 最後は俺がよく使っている《エアリアル》。空中に足場を作るという至ってシンプルなスキルだ。これについてサツキが言及すると、華乃は身を乗り出すようにして「やってみたいっ!」と声を上げる。ふふん、ならば俺の出番である。

 

「空中での瞬間的な機動力なら《エアリアル》がピカイチだな。スキル仕様も単純明快だし大したデメリットなんて――」

「――あるでしょ?」


 これから《エアリアル》の素晴らしさをたっぷりと説いてやろうと口を開こうとすると、何者かが俺の後頭部をチョップしてきたではないか。振り向けば、ゆったりとしたローブに身を包んだリサが立っていた。

 

 ニコリと笑みを浮かべ「運んでくれて治療までありがとうね」と感謝を言うや否や、華乃が真っ先に胸元へ飛びついて復活を歓迎し、サツキもうっすらと目尻に涙を浮かべて喜ぶ。オババに診てもらうまでのリサは顔色が青白くなって苦しそうにしていたが、今は血色が戻って大分落ち着いているように見える。

 

 とりあえず、最大の懸念事項が解決された。俺も友の復活を喜ぶとしようじゃないか。


 

 マジックバッグから背もたれ付きの新たなアウトドアチェアを取り出し置いてやると、リサは遠慮なくドカリと腰を下ろして足を組み、これ見よがしに大きなため息を吐く。


「ふう~……もう懲り懲りね~、どうしてあんなことになったのかしら」

「まったくだ。こうなった原因と、ついでに今後の影響についても話し合わないと駄目だろうな」


 本当にギリギリの戦いだった。死んでもおかしくない状況が何度もあった。よく生きていられたものだと、リサに釣られて俺とサツキも大きなため息を再び吐く。しかし一人だけ元気な奴がいた。

 

「リサねぇ! さっきの話についてだけど、何かあるの? 聞きたいっ!」

「ん~いいわよ~、といっても私が言えるのは――」


 華乃の要望により、リサが思い出す仕草をしながらゆっくりとした口調で《エアリアル》について語り始める。まずは基本的な戦術の解説。空中に作った無数の足場を蹴り上げて常に死角に回り込み、相手を翻弄するというものだ。


 強みとしては浮遊魔術《フライ》で空中戦を仕掛けてくる魔術士に対し距離を潰しやすいだけでなく、モンスター戦にも十分に対応可能。閉所でも使え、非常に万能かつ強力な戦術であることに間違いはないと結論付けた。

 

 俺も思い返してみたが、これといった方法で《エアリアル》戦術を封じられた記憶はない。しかしリサによれば俺が気付いていない致命的な欠点があると言う。それは何か……?

 

 極めて冷静な態度を装いつつもドキドキして言葉の続きを待っていると、リサが言及した理由は意外なものだった。

 

「ソウタのその戦術は、たくさんの人が挑んだ過去があるのだけど……戦術と呼べるほどまでに昇華できたのは、誰一人としていなかったのよね~」


 とある世界(・・・・・)の、とある戦士(・・・・・)の話である。

 

 その者はあまりにも傍若無人で唯我独尊。気性も荒く、気に入らぬ者や目に付く者がいれば所構わず喧嘩を売り、ばったばったと薙ぎ倒しては小銭を稼ぐ小悪党だった。

 

 悪名は積み重なり伝播(でんぱ)する。正義感に駆られた冒険者や組織が幾度となく立ちはだかることになるが、結果は散々たるもの。返り討ちとなって至る所に屍の山が築かれ、もしくは晒し者にされてしまったのだ。

 

「もしかしてその人って!」

「そう、その人()《エアリアル》戦術の使い手だったの」

 

 前のめりになり、早く続きを聞かせてと催促する華乃に、面白可笑しそうに頷くリサ。まぁ……ダンエク時代の俺が誰彼構わず因縁をつけて喧嘩を売っていたのは事実だが、それは対人戦がとにかく楽しくてきっかけ探しをしてただけである。俺にとってダンエクとは、冒険ではなく対人戦だったのだ。

 

 今となっては大昔のように感じる記憶を懐かしんでいると、リサは物語のように続きを語り始める。

 

「それでね――」

 

 その者の悪名は留まることなく、ついには複数の一流クランまで討伐に動き出し、誰もが「あの悪党もこれまでだ」と鼻で笑っていた……が、両者の対立は終わることなく激化。クランの拠点がいくつも焼き払われ、それまで最強といわれた冒険者までもが敗北するなど、被害は際限なく拡大していくこととなった。

 

 その悪党はやがて“災厄(さいやく)”と呼ばれ、多くの冒険者達から畏怖され、憧憬(しょうけい)の念を抱かれる伝説的存在となっていく。同時に“災厄”の強さの根源である《エアリアル》戦術は徹底的に研究され、多くの者がそれを会得しようと挑むのは必然の流れであった。

 

 しかし実際にやってみると、あらゆる方向に目まぐるしく動く視界は制御困難。それをクリアできたとしても至近距離で敵の攻撃を避けながら瞬時に、かつ最適な場所に足場を組み上げることはとてつもなく難度が高かったのだ。

 

 それで分かったのは、この《エアリアル》戦術は圧倒的な動体視力と、敵の動きを見切る洞察力、それらを活かしきる類まれな戦闘センスの全てが絶望的なまでに高いレベルで必要、ということだった。

 

「――私も何度か《エアリアル》戦術ができるって豪語する人と手合わせしたのだけど……その全員が拍子抜けだったわ。きっとソウタは普通に扱えているからその難しさが分からないのよ」


 俺以外の《エアリアル》戦術は、全てが“偽物”。状況判断が甘く、速度も足りず、何より動きに鋭さがまったくない。そんな中途半端なら、普通に《フライ》を使って戦ったほうが何倍も強いとリサが笑って言う。

 

 しかし俺だって最初から《エアリアル》を使いこなせたわけではない。何度も足を踏み外しては負け、痛い目に合いながらも死ぬほど練習したさ。ただそれに耐えきれたのも、空中に足場を作るってだけのスキルに無限の可能性を感じたからだ。

 

 一般的に空を飛ぶためのスキル、たとえばアーサーの使う《フライ》にしても、リサの扱う空中を転移する魔法にしても、魔力を込めればより速く、移動の無駄をなくすことはできるが、肉体強化を十全に発揮させることはできない。

 

 一方、《エアリアル》は強化された肉体で直接足場を蹴り上げて移動するため、肉体強化の恩恵をフルに受けることができる。ゆえにレベルを上げるほど速さと鋭さが顕著となり、《フライ》を凌駕する自由度まで得られる。その先に何が見えるのか、ダンエク時代の俺はひたすら焦がれ追い求めていた。


 もちろん華乃に《エアリアル》を使いこなせるかは分からない。様々なプレイヤーが試して使い物にならなかったことは俺だって知っているし、きっと難しいのだろう。だがこれはシスコンからくる意見でも何でもないと断っておくが、華乃は俺が見てきたどのプレイヤーにも劣らない才能と才覚を秘めているように思える。先ほど見せてもらったステータスにしてもそう、試させてみたらどうなるのか期待したくなるのだ。

 

 横目で俺の様子を(うかが)っていたリサは小さく吹き出すように笑ってから、いたずらっぽい表情を浮かべる。

 

「……ふふっ、でもソウタが直接教えてあげるなら、もしかしたら同じ領域に到達できるかもしれないわね~」

「できるっ! だってそんな予感がするもんっ!」


 絶対に会得してやると華乃が拳を突き上げて意気込む。まぁ試すだけならタダだ。ある程度なら教えられるし、仮に《エアリアル》戦術が合わなかったとしても別のスキルを覚えればいいだけだしな――さてと。

 

「話し合いなら後にでもできるし、ここらでお開きにしようか」

  

 話し合わねばならないことは頭を抱えたくなるほど数多くある。しかし命に関わるような差し迫った危機はもうない。何より頭が働かないし、また後日に集まってそのときに考えればいいのだ。そう提案するものの、華乃だけはもっと話を聞きたいようで頬を膨らませて不満顔を示す。お前は本当に元気だな。

 

「……また相談に乗るわよ、華乃ちゃん」

「ほんと!? じゃあ――」


 譲歩するリサに“災厄”がどれほど凄かったのか、どんな人だったのか、もっともっと教えてくれと猫のように擦り寄る華乃。あまり詳しく話すとボロが出そうなので控えめにしていただきたいが。一方で先ほどから俺の腕端末に来ている着信が気になったようで、サツキが大丈夫かと尋ねてくる。


「いっぱいメール来てるようだけど、いいの?」

「久我さんからだな。東京の件について聞きたいそうだ……」


 クランパーティーの騒動はテレビなどでもかなり騒がれていたようで、何か知っている情報はないかと先ほどから数分毎にメールが届いている。このまま無視したいところだが、そうすると朝まで延々とメールが来そうだし、何より学校で会った時が怖い。

 

 新たな問題に頭を悩ませつつも、すべての思考を放棄して俺達は家路に就くことにした。




 

(※1)能力値(ステータス)

 魔力により強化された能力値。マジックフィールド外での一般成人の能力値は、各項目3~8程度と言われている。つまり華乃のSTR(膂力)“102”というのは、一般成人の数十倍のパワーがあることを意味し、本気を出せば数百kgの物を持ち上げて移動することも可能となっている。


(※2)《五月雨(さみだれ)斬り》

 短刀・ナイフ専用の高速5連撃スキル。AGI値によって攻撃力が変動する。


(※3)《隠密》

 気配を消し、周囲の人やモンスターから気付かれにくくなる。


(※4)《完全駆動》

 ゴーレムが火の中、水の中、極寒の中、無酸素の中でも駆動できるようになり、魔法攻撃にも強くなる。

 

(※5)《HPバリア》

 ゴーレム召喚時、自身に受けた一定ダメージをゴーレムが代わりに引き受けてくれる。


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