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災悪のアヴァロン【コミック10巻 12/18日発売!】  作者: 鳴沢明人


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169 成海華乃は思い馳せて空を仰ぎ見る ①

 柔らかな陽光が降り注ぎ、見渡す限りカラフルな草花で埋め尽くされている。暑くもなく寒くもなく、心地良いそよ風が頬を撫でて非常に快適である。

 

 ここはダンジョン25階のとある丘陵地帯。その一際高い丘の上に置かれた椅子に足を投げ出すようにして座っていた我が妹が、ぼんやりと空を眺めながらぽつり呟く。


「あの鳥、なんかおかしくない?」


 あれを見ろと指差した方向に俺も目を向けると、ゆっくりと大きな翼を広げた何かが俺達の上を円を描くように旋回していた。こういった見晴らしのいい地形でよく見る光景ではある。それの何がおかしいかといえば――

 

 高高度を飛んでいたときは気にならなかったが、地上数百mほどまで下りてきたため、体全体の大きさを把握できるようになっていることだ。両翼の端から端まで、ざっと10m以上はあるだろうか。要するにデカいのである。

 

 あいつは鳥ではなく“ジャイアント・ウィング”という翼竜型モンスター。普段はもっと高いところを飛んでいて冒険者を襲ってくることなど滅多にないのだが……どうやら俺達を獲物と見なしているようだ。

 

 図体はデカいが、あいつのモンスターレベルは24前後でしかなく、つまりは今の俺の敵ではない。仕方ないなとマジックバッグ化したポケットに手を突っ込むと……あったあった。


 よっこらせと立ち上がり、取り出した純ミスリルの小弓に金属の矢を引っ掛けて上方向に構える。するとゆっくりと旋回していたジャイアント・ウィングも超音波のような甲高い鳴き声を上げながら、翼を折り畳んで滑空してきた。


 みるみるうちに高度が下がり、大きな(くちばし)や鱗がくっきりと見える距離に入ってくる。巨大な爪の照準を俺の頭に合わせて体を起こすジャイアント・ウィング。そのタイミングで弦を強く引き絞り――


 ――ドンッ!

 

 衝撃音と共に矢が放たれる。狙いが外れた、もしくは一撃で倒せなかった場合に備えて再び構えを取るが、上手く頭蓋に命中して一発で倒せたようだ。ジャイアント・ウィングは背後の草花に勢いよく落下し、盛大に花びらを散らしながら魔石と化していく。


 隣で俺の弓術をじっ~と見ながら口をポカンと開けていた華乃は、我に返ると急に椅子から飛び上がり、拳をぶんぶんと振るう。


「一撃必殺だっ……すっごーいっ! おにぃ、あとで弓のやり方を教えて欲しいんだけどっ!」

「型は知っておいた方がいいけど、下手に教わるより弓スキルを覚えたほうがいいぞ」


 ウェポンスキルを発動すると、その武器を扱ったことがなくても体を正しく強制的かつ理想的に動かしてくれる。それを利用してスキルを放ったときの感覚を体に染み込ませるやり方がダンエク流である。


 もちろん剣道から剣術に入る冒険者がいるように、弓術も弓道を学んでから入るほうが時間はかかるが確実ではある。だがモンスター相手に戦いながら覚えるほうが華乃には合っているだろう。

 

 あとで弓スキルを覚えられるジョブでも勧めてみようかと考えつつ弓をしまっていると、華乃が数kgほどのブロック肉を抱えて持ってきた。先ほどのモンスターのドロップアイテムである。

 

 近くのキャンプテーブルの上に紙皿を敷いてからドンッと置き、いろいろな角度から肉をまじまじと見つめて、俺に問いかける。


「ねぇこのお肉……小さすぎない? さっきの鳥って10mくらいあったよね」

「ドロップアイテムは大きさがいい加減なんだよ」


 ダンエクでは、バカデカいモンスターを倒してもドロップアイテムまで大きくなるわけではなかったが、それはこちらの世界でも同じのようだ。数トンはありそうな翼竜からわずか数kgしか肉が取れないと知った華乃は「ならこの肉はとても貴重なのでは」と推測する。


 加えて、このレベル帯では貴重にならざるを得ない理由がもう1つある。何せジャイアント・ウィングは普段、上空数千mをゆったりと飛行しているので弓矢や魔法は当たらず、《フライ》などの飛ぶ手段を持ってない限り倒しに行く手段がない。よって、さっきのように下りてくる瞬間を狙うしかないのだが、そんな機会はほとんどないので必然的に手に入りにくいドロップアイテムとなるわけだ。

 

 貴重な肉……高級肉……とつぶやく華乃はペロリと唇を舐め、どうしたら一番美味しく食べられるのかと腕端末の画面を高速でタップして調べ始める。

 

 最近の妹はダンジョンの様々な出来事に興味を持ち、知識や技術を得ようと貪欲に求めるようになってきている。欲望に忠実ともいえるが、強くなるには良い傾向だ。あとは衝動的な行動をもう少し抑えてくれれば文句ないのだが……

 

 気分良さげに揺れるツインテールを横目に、背もたれに深く寄りかかって空でも眺めようとすると、後ろにある小屋の扉が開いておさげ(・・・)の少女が出てきた。俺がそちらに視線を向けると小さく頷いて柔らかい笑みで応える。


「顔色はもうすっかり元通りだよっ。回復魔法の通りも良くなったから心配はいらないと思うけど」

「そうか、ならあとは目が覚めるのを待つしかないな」


 リサについてである。


 真田が神聖帝国と共謀して引き起こした金蘭会クランパーティーでの大事件。それに巻き込まれた俺達は、ボロボロになりながらもミハイロ・マキシムを撃退。やっとのことで引き返してきた。

 

 しかし限界を超えた強化魔法と無茶な戦闘を強行したリサは意識が戻らず、治療のために真っ先に10階にいるオババまで診せに行くことになった。焼き切れる寸前だった筋肉と神経系は完全に修復されて体にはもう問題ないとのことだが、いまだ意識が戻らないのだ。

  

 このまま寝かせておけば何事もなく目を覚ますとは思うが、万が一のこともありえる。定期的に回復魔法をかけておきたく、そのためにはマジックフィールド内に留まる必要がある。そこで38階にあるアーサーの家に避難したのだが……

 

 城の入口には霧ケ谷(きりがや)やキララちゃんをはじめとするくノ一レッド達が陣取っていたため、質問攻めに合ってしまった。これでは俺達だけの話し合いも、ゆっくりすることもできやしない。なので気候が良く、誰も来そうにないこの静かな場所までやってきて、治療用の小屋を《ゴーレムキャッスル》で建てて今に至るわけである。

 

 ちなみにアーサーは向こうで居残り接待だ。


 まぁ何にせよ慌しすぎた。リサが目を覚まさないのは心配だが状態は良好。ちょっとくらい一息ついてもいいだろう。

 

 これまでクランパーティー会場で受けてきた様々なストレスを全部乗せるように大きく息を吐くと、釣られて近くの丸椅子に腰かけたサツキも背中を丸めて安堵の息を吐いていた。あぁ、空が青いぜ。

 

 一方で肉のレシピを調べながらも耳をそばだてていた華乃が、こちらの話題に入ってくる。

 

「リサねぇってさ、あのミハイロをやっつけたんでしょ? どんな感じだったの?」

「どんなと言われてもな……」


 世界最強の冒険者の一角、といわれるミハイロの強さを目の当たりにした華乃であるが、あんなのをどうやって倒したのかと首を傾げる。倒したという結果しか知らないのなら気になるのも当然か。


 ほんの数時間前。小屋の中で眠っている少女が真っ黒い鎧と魔力を(まと)い、大剣を振るっていたときのことを思い出す。


 ダンエクでのリサは“黒の執行者”という異名を持っていたが、それは【暗黒騎士】という最上級ジョブのスキルをベースに戦術を組み上げていたことに由来する。そのときに習得したプレイヤースキルを全開に、周囲の場を膨大な魔力で塗り替えながら空中戦を繰り広げたのだ。

 

 闇夜の中で瞬間移動しながら追い詰めていく様子をざっくりと伝えると、華乃はキラリと目を輝かせ「自分も【暗黒騎士】になれるかな?」と聞いてきたので、はっきりと「やめておけ」と言っておく。

 

 リサがやったような戦術を極められれば強いが、ダンエクでもまともに扱えたプレイヤーは極わずかだった。それに加えて高濃度の闇の魔力を(まと)うのは精神汚染を引き起こす可能性もあり、危険極まりない。リサが目を覚まさないのは肉体的ショックというよりも、闇の魔力による精神負荷が原因だろう。それが唯一の心配事でもある。


 などとデメリットを並べると華乃は意外にもあっさりと諦め、では何が良いのかと腕端末の画面を見せてきた。オババの店にある“ジョブチェンジの水晶”を覗いてすべてをメモしてきたようだ。


 現在の華乃はその場にある材料を使ってゴーレムや家を作り出す上級ジョブ【機甲士】に就いているが、クランパーティーで大量の経験値を獲得してジョブレベルが最大の“10”に到達。もう新たにスキルを覚えることはない。よって他に何か良いジョブがあればジョブチェンジしたい、とのこと。

 

 画面には現時点での能力値(ステータス)やレベル、保有スキルの全てが書かれているが……ぱっと見ただけでも気になる点がいくつもある。

 

 サツキも、それらの数値を見て思わず息を呑んだ。


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