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災悪のアヴァロン【コミック10巻 12/18日発売!】  作者: 鳴沢明人


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168 新たな時代の幕開け

 ダンジョン都市からやや離れたところにある緩やかな連山。その(ふもと)から斜面にかけて様々な種類の店やバー、運動施設、住居やプールなどが無秩序に建ち並んでおり、それらの間を縫うように武具を(まと)った冒険者や商人、ビジネスマンが多数往来して、活気に満ち(あふ)れる街が形成されている。

 

 その賑わうエリアを抜けた山の(いただき)には、地上十数階建ての巨大で(いびつ)な建築物が一際目立つようにそびえ立つ。

 

 増改築を無数に繰り返しているせいか形が不規則でバランスも悪く、まるで子供が無秩序に積み上げたというべき外観。お世辞にも美しいとは言えず、品が無いと眉をひそめる者も多い。

 

 にもかかわらず、この建物は数多の貴族から恐れられ、また灯火(とうか)に群がる蛾のように冒険者が集まり、門戸を叩く者が後を絶たない。

 

 人々は畏怖と敬意を込めて“鬼神城(きじんじょう)”と呼んでいる。

 

 

 

 *・・*・・*・・*・・*・・*

 

 

 

 すでに日は落ち、どこからともなく夕食の香ばしい香りが漂ってくる。住居が多いこの区画は街灯が少ないため日が暮れると急に薄暗くなる。そのせいで往来する人はほとんどなく、歩いているといえば酔っ払いくらいである。

 

 そんな道の片隅に、ひと際目立つ少女が一人(たたず)んでいた。

 

 銀と青い髪の束を交互に編んでロールさせており、服はリボンやフリルで装飾されたゴシックドレス。一見、10代前半のように幼く見えるが、夕闇でも浮き出る様な白い肌と濃いメイクのせいで十分な成人女性にも見える。


 そこへ息遣いの荒い男が地面をドシンドシンと踏みしめながら近づいてくると、少女はスカートの裾をわずかばかりに摘まみ、形だけのカーテシーで応じる。


大臣(・・)様、ようお越しあそばしました」

「はぁはぁ……いやはや、ワシをこんな辺鄙(へんぴ)なところまで歩かせおって」 


 少女に大臣様と呼ばれて迎えられたのは、ハンカチで汗を拭くスーツ姿の太った男。山の(ふもと)までしか車で入ることができず、他の者は招待されていないため一人で歩いて登ってきたわけだが、そのせいで汗だくとなりすこぶる機嫌が悪くなっている。

 

 そんなことはお構いなしに少女はくるりと反転し、山頂方向へと歩き出してしまった。(ねぎら)いと謝罪の言葉を待っていた男は、しばし口をもごもごとさせた後に鼻息荒くその後をついて行くしかないのであった。

 

 

 

 十数分ほど坂道を上がれば山頂にあった建築物はもう見上げるほど巨大になっており、近くで見ると歪で複雑な構造がよりはっきりと見て取れる。

 

 正面にある巨大な玄関の両脇には、槍を持った筋骨隆々の男が二人、仁王立ちして目を光らせていたが、ゴシックドレスの少女の存在に気づくと慌てたように姿勢を正して深々と敬礼。すぐに玄関の重い扉を力いっぱいに引いて開け始めた。

 

 建物の内部は外から見た歪な構造と打って変わって大理石造りの豪奢な造りとなっており、壁には大きな風景画がいくつも掛けられていた。少女は一切気にすることなく真っすぐに伸びた廊下をどんどん進んでいく……のだが、しびれを切らした大臣と呼ばれた太った男が顔に汗と怒りを(にじ)ませながら問いただす。

 

「おいっ、お前達の頭はどうした。何故ワシを出迎えん!」

「はぁ……ボスはただいま遠征中で……あ、ここでありんす」

 

 怒鳴る大臣の方に振り返ることもなく歩き続ける少女は、突き当りにある両開きの扉の前で足を止めると、ノックもせずに開けて中へと入ってしまう。そこには学生服を着た高校生くらいの若い男と、頭に白いカチューシャを付けてメイド服を着た姿勢の良い女が座っていた。

 

 部屋は決して広くはないものの、家具や食器など、すべてが(ぜい)を凝らした名のあるブランド品。それだけでこの部屋の持ち主の財力が飛び抜けたものだと一目でわかる。

 

 メイドの女は真っ先に立ち上がり、息を荒くして踏み入ってきた男に向けて(うやうや)しく頭を下げ、歓迎する。

 

「我らが城へようこそおいでくださいました、大臣様」

「ふんっ、“鬼神城(きじんじょう)”などと……要するにガラクタを寄せ集めて作った違法建築だろ。下品で調和の欠片もない」


 メイドと共に若い男も立ち上がって頭を下げるが、大臣はそんな挨拶など無視して「こんなところに来たくはなかった」と吐き捨てるように文句を言い放ち、ソファーにドカリと腰を下ろす。ゴシックドレスの少女はわずかに眉を吊り上げるが、メイドは気にする素振りを微塵も見せない。背後に向かって細指で合図をすると、控えていた執事がいそいそと菓子とカップを並べ、茶を注ぐ。

 

 礼を尽くされている大臣であるが、それが当然とでも言うかのように鼻を鳴らし、メイドを睨みつけて尊大な口調で命令する。

 

「至急、兵を動かせ」


 悪態をついたかと思えば突然の派兵要請。その尊大な態度と無茶な要求に若い男はひっそりと視線を冷たくする。だがメイドの女は笑みを崩さないまま丁寧な対応を続ける。


「ですが大臣様。先日の件(・・・・)では、我らが最強の刀・六路木(ろくろぎ)時雨(しぐれ)だけでなく、“黒歯(こくし)”と、そこにいる“持瓔珞(じようらく)”の三人も幹部級を送ったばかりですが――」

「それどころではないっ! 貴様は今、どれほどの事態になっているのか分かっているのかっ!」


 先日の件とはもちろん、ミハイロ・マキシムと真田幸景が起こした“乱”のことである。その際には六路木時雨だけでなく、クラン内最強武闘派で暗部出身の黒歯(こくし)、対結界魔法陣の専門家であるゴシックドレスの少女・持瓔珞(じようらく)と三人の幹部を惜しみなく派遣した。すでに我々はこれ以上ないほど協力しているとメイドは言う。

 

 対して大臣は木目の美しいローテーブルを怒り任せに叩きつけ、メイドの言葉に被せるように怒鳴り散らす。若干の憔悴(しょうすい)も見られることから切羽詰まっている現状が見て取れる。


 金蘭会クランパーティーでは貴族や政治家を含む上流階級に多くの死者を出した上に、【侍】の情報まで盗まれた可能性が高いとみられている。挙句に政府が期待を寄せていた転移装置(ゲート)による天文学的な税収までご破算。政府内では事態の収拾に追われ、官僚や閣僚がひっきりなしに呼び集まって閣議が続けられているという。

 

 この責任は誰が取るのか。真田幸景の所属するカラーズと、転移装置(ゲート)計画を主導した金蘭会(きんらんかい)は当然として、神聖帝国と取引し増収を声高にしていた大蔵(おおくら)大臣――こちらの世界で言えば財務大臣――、そして「ミハイロ・マキシムは危険だ」と言う声を押さえ込んでまで入国させた陸軍大臣であるこの男も責任からは免れそうにない。

 

 だが大臣が気にしているのは国民の世論ではない。何故なら選挙で選ばれた議員ではなく、大貴族であるからこそ選出された貴族院の議員だからだ。よって警戒しているのはライバル貴族の動きのことである。

 

「このままではワシは大臣の席を追われかねん。だからこそ、今この混乱の最中(さなか)に、誰もが認める巨大な成果が必要なのだ!」

 

 いまだ責任の追及などはされていない。だがいずれ、ライバル貴族共が大臣の座を狙って動き出すのは明白であり、その前に大きな成果を上げて汚名返上する必要があるのだと口角泡を飛ばして力説する。要するにこの男は大臣の席を譲りたくないと言いたいのである。茶を飲みながら静かに聞いていたメイドは何度も頷いて、努めて笑顔で対応する。

 

「それは一大事でございます。つきまして我々に派兵要請とはどういった内容でしょう?」

「ふむ。ワシはしばらくの間、忙しくて動けん。そこで――」


 日本政府は今回の件で声明を出し神聖帝国を糾弾したのだが、神聖帝国側は「日本の言っていることには何一つ証拠なく、全部でっち上げだ」と相手にしていない。ゆえに日本政府は報復として神聖帝国を政治、経済的に圧迫すべく外交官を総動員し、国際世論を味方に付けようと注力している。


 だが戦う場が全て外交に移ったわけではない。

 

 神聖帝国は日本から完全に兵を引き上げさせたのかといえばそうでなく、例のビルからは何十人もの戦闘兵が忽然(こつぜん)と行方不明になっており、他にも複数の工作員が国内に潜伏していることを確認している。

 

 まだ日本国内で何かを狙っている可能性が高いと見られ、そのため東京を中心に軍と警察を動かし警戒に当たる必要があるという。

 

「あの国とは距離があるから直接的な武力衝突に至ってないが……何を仕掛けてくるか分からん。有事が起きたときのためにもワシが備えなければならんのだ」

「ですが大臣様。我らが国防の役に立てるかどうか」

「そうではない。お前達にやってもらうのは転移装置(ゲート)の捜索の方だ」


 事が国防なら守る範囲は広大。つまりはマジックフィールド外での活動がメインとなる。剣と魔法を駆使して戦う冒険者は、マジックフィールド内なら近代兵器をも凌駕するが、魔力のない場所では肉体強化されず実力をほとんど発揮できない。

 

 もちろん、あらかじめマジックフィールド生成装置が使われると分かっている場所なら話は別だが、聞く限りではそうではない。どういうことなのかとメイドが聞き返すと、それとは話が別で「お前達は転移装置(ゲート)の捜索をやれ」とのこと。

 

転移装置(ゲート)……ですか」

「そうだ。大蔵省と軍が握っていた関連情報は出してやる。必要な軍資金もやろう。それらを使ってどこよりも先に未確認のゲートを探し出せ! これまでにワシから受けた恩を今ここで返すんだ、いいなっ!」


 突然の派兵要請。大臣は(あご)についた脂肪を揺らしながら「今すぐにでも兵を集めてダンジョンに行けっ」「今すぐにだ!」と怒鳴りつけて出ていってしまった。一方的かつ無茶な要求に、若い男とゴシックドレスの少女は目を白黒させる他ない。

 

 

 

 嵐のような時間が過ぎ去り、静寂の戻った部屋に大きなため息が2つ吐き出される。


「……あんの野郎っ、マジぶん殴ってやりてぇぇ! あ"~クソがあああ!」

持瓔珞(じようらく)さん、言葉遣いが元に……でもまぁ前回に引き続いて、とんでもない無茶を言ってきましたね」


 無表情で立ち尽くしていたと思ったら盛大に濃いメイクの顔を歪め、殺意のこもった呪詛(じゅそ)を吐きながら地団駄を踏むゴシックドレスの少女。仮にここが魔力の満ちたマジックフィールドなら、今すぐにでもウェポンスキルを放ちかねないほどの殺気である。

 

 学生服の若い男も苦虫を()み潰したような顔をしていたが、すぐに笑顔を取り繕い、先ほどの傲慢かつ無茶な要請に対しどうでるのかと、隣にいるメイドを様子見る。

 

 しかしメイドはにこやかな顔を崩さない。

 

「大臣様があれほど困っていらっしゃるなら仕方がありません。すぐに手筈を整えましょう」

「……マジであんな奴に協力するつもりでありんすか? 黒崎(・・)

 

 ゴシックドレスの少女が「気は確かか」と問うものの、黒崎(くろさき)と呼ばれたメイドは首を大きく縦に振り、出来うる限りの戦力を揃えて協力すると宣言する。当然、少女は納得がいかないとばかりに食い下がる。

 

 クランの顔であり宝ともいうべき六路木時雨が危険を顧みず単身で金蘭会へ赴いたこと。あの陰険な黒歯(こくし)と組んでまで神聖帝国の結界を突破する任務に就いたこと。それ以上にあの軽薄で不遜(ふそん)な男が許せないこと。我らは誇り高き最高の攻略クラン。何故そうまでしてあの程度の男に低姿勢で従うのかと少女がまくし立てる。

 

 それでもメイド――黒崎は聞く耳を持たないと言うかのように首を振るう。

 

持瓔珞(じようらく)。貴女はまだ“羅刹(らせつ)”となってから日が浅いので分からないかと思いますが……我らが健やかな組織でいられるのも、あの方のお力あってのことなんですよ」

 

 黒崎や持瓔珞(じようらく)が所属するクランは“羅刹(らせつ)”と言われる十人の大幹部が中心となって運営されている大規模攻略クラン。構成員、関係者合わせると数万人にも上り、どの貴族にも劣らない戦力と利権を保有。冒険者界だけでなく政財界にも多大なる影響力を及ぼす。

  

 そのような巨大組織である以上、貴族やライバルクランからは目の敵にされるのは必然。日本各地で利権争いや抗争に明け暮れているというのが実情だ。現にクランリーダーである鷹村(たかむら)(かえで)も幾人かの羅刹(らせつ)を引き連れて、西日本の貴族連合と抗争の真っ只中である。


 もちろん鷹村(たかむら)だって好き好んで戦っているわけではない。だがここ数年は連続して激しい戦闘を強いられており、十人いた“羅刹”も今では何名か欠員が出てしまっている。組織の弱体化を避けるためにも懇意(こんい)にしている大物政治家や財界人に便宜を図り、抗争を回避するよう動かざるを得ない現実がある。先ほどの口の悪い太った男――陸軍大臣もその一人で、長らく大切にしてきた人物なのだ。


 しかし去年、大抜擢(だいばってき)の末に新たな“羅刹”となった少女にとって、大臣は嫌味で無茶ばかり言う男にしか見えない。膨らんだゴシックドレスの(すそ)を握り潰し、納得がいかないと苛立ちを(あら)わにする。しかし黒崎には曲げる様子が一切(うかが)えない。学生服の若い男が不思議に思って問いかける。

 

「何か考えがあるようですね、黒崎さん。お聞かせ願いませんか」

「いいでしょう、坊ちゃん。大臣が仰った転移装置(ゲート)の捜索、これは我々に与えられた天からの贈り物に違いありません」

「……天からの?」


 何を言っているのだと少女と若い男が惚けた顔をするのに対し、メイドは「今から順序立てて説明する」と言って、にっこりと笑う。


 まず先日の件。金蘭会と政府が極秘裏に進めていた転移装置(ゲート)のマネジメント計画が(あら)わとなり、世界中に激震が走った。

 

 これまで一流クランに所属する冒険者達は“適正レベル”の狩場に辿り着くだけでも数カ月かかっていたため、一度のダンジョンダイブに莫大な資金と多大な時間を費やしてきた。それが一瞬で行き来できるとなれば、ダンジョンダイブの概念そのものが変わる。だが転移装置(ゲート)が与える影響はその程度にとどまらない。

 

 これまで限界とされてきたレベル30後半の壁がなくなり、多くの一流冒険者がレベル40台に突入する可能性がある。それはつまり、ミハイロ・マキシムと同等の冒険者が何十人、何百人、下手をすれば何千人と世界に現れることを意味する。

 

 ミハイロほどの強者には砲弾や銃などの近代兵器は効力を発揮できず、倒すとなると“核”などの大量破壊兵器が必要と言われるほど。日本政府もミハイロを倒すために東京の中心地にミサイルの雨を降らそうとしていたくらいだ。そのような異次元の冒険者が(あふ)れれば世界はどうなってしまうのか。

 

 正確な予測など誰にもできはしないが、既存の経済力や資源埋蔵量に比例した軍事バランスは崩壊し、これまでと比較にならないほど冒険者中心の体制が築かれる可能性が高い。そして、そのトップに君臨する創造者または破壊者となりえるのは、いち早く転移装置(ゲート)を使いこなした者に違いない――

 

 ――そう、メイドが抑揚のない口調で説明すると、学生服の男とゴシックドレスの少女は互いの顔を見合わせて考え込む。

 

「……日本冒険者界を長きに渡り導いてきた六路木様ですら成し得なかった、レベル40の到達……ですか」

転移装置(ゲート)が本当に実在し、ダンジョン深層まで一瞬で飛べるなら、レベルアップ競争が過熱するのは確実でありんす。でも――」


 他クランを出し抜くにしても転移装置(ゲート)に関する情報はなく、探すための手掛かりすらない。その状況でまともな計画など立てられるのか、と言おうとしたゴシックドレスの少女であるが「――そういうことでありんすね」と納得がいったのか大きく息を吐く。

 

 対する黒崎も頭に乗っけた白いカチューシャを満足げに縦に振り、やや前屈みになって三本の指を真っすぐに立てる。

 

「現時点で転移装置(ゲート)の情報を持っている組織はたったの3つ。まず1つ目ですが、徹底的な秘密主義の神聖帝国が他に易々と情報を渡すわけがありません。2つ目の金蘭会は一人残らず幽閉されており、同じく情報が漏れることはないでしょう……そして最後の3つ目は――」

「日本政府でありんすね」


 持瓔珞(じようらく)の返答に、花も咲くような笑顔をもって肯定する黒崎。


「そうです。大臣様は我々にだけ(・・)情報を流してくれると仰られました。そして要請通り、誰よりも先に転移装置(ゲート)を見つけ出せば……独占も可能ですよね?」


 神聖帝国と日本政府は情報を一切公開していないため、事件が明らかになった現在でも転移装置(ゲート)の詳細は不明なままだ。冒険者達は事件発覚の直後からその所在を血眼にして探しており、実はメイドの黒崎も下部組織をいくつも動員し、捜索させていた。

 

 そこへきて大臣が政府の持つ情報と資金を提供してくれるというのなら、どこよりも早くゲートを探し出し、独占的に利用できるかもしれない。加えて、最強などと持て(はや)されていた小賢しくも(いや)しい“カラーズ”が勝手に自滅してくれた。これは勢力を塗り替えるまたとないチャンスだと言うと、メイドはゆっくりと立ち上がり、期待を押し殺すかのように胸に手を当てて静かに語り始める。


「これから世界は激動の時代を迎えることでしょう……“今”に満足し胡坐(あぐら)をかいていれば、来たるべき時代に乗り遅れます。そうなればどれほど力ある組織でも、たとえ国家であろうとも死に絶える他ありません――ということで、転移装置ゲートを探す重要性を、理解してくれましたか?」

「……羅刹でもない私ごときに口を出す権限などありません。()がいないときは黒崎さんが組織の最高責任者です。そのご判断に従いましょう」


 学生服の若い男が立ち上がって深々とメイドに頭を下げると、それに(なら)いゴシックドレスの少女も整った顔を歪めながら渋々と頭を下げる。二人の同意を得た黒崎は目を細めて満足そうに頷くと、上品に(つくろ)っていた笑みを引っ込めて牙を剥き、野心に濡れた瞳を覗かせる。


「では、クランリーダー代理として命じます。どこよりも先に転移装置(ゲート)を押さえ、誰よりも早くレベル40の大台を突破し、欲に(まみ)れた醜い貴族(ブタ)共を駆逐し、この国に……我らだけの楽園を築きましょう。できうる限り最強の兵を集めなさいっ!!」




 日本最大かつ最古の攻略クラン“十羅刹(じゅうらせつ)”。そのナンバー2が、数人の羅刹と万に届く兵を率いてダンジョンに突入した。その光景は日本中を駆け巡り、大貴族やライバルクランから様々な憶測を呼ぶこととなる。

 

 新たな時代の到来を予感させる出来事であった。


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